日本のアニメ・マンガの“新しい地平線”を目指して挑戦する。
クリエイティブサロン Vol.55 市氏

実写化でもなくコスプレでもなく、リアルなグラフィックスや動画、造形物などを生み出してゆく。日本が世界に誇る文化である漫画やアニメ、ゲーム といったカルチャーから、新しい文化を生み出す「ANIMAREAL」。このプロジェクトを立ち上げた市氏に、この未知なる世界での歩みとこれからの挑戦について語っていただいた。

市氏

制作の根底にあるのは「作品愛」。
原作ファンの夢をリアルに叶える。

「あのキャラクターが実在すれば、どんな感じなのか」「あのシーンを実際に見てみたい」。大好きなマンガやアニメに対して、想像を駆け巡らせる。そうやってファンが頭の中で築き上げた作品世界が、リアルに再現されたらどれほど心躍ることだろう。それを叶えてくれるのが、「ANIMAREAL」だ。
“アニメ”と“リアル”を組み合わせた「ANIMAREAL」を市氏が始めたのは、子どもの頃からの思い入れがつまった作品が、残念な形で実写化されたことから。自分の思い描いていた世界観との違いにショックを受けた。しかしそこで落ち込むのではなく、逆に使命感を感じたという。仲間のクリエイターとともに、この手法で勝手に登場キャラクターをつくりあげた。それがきっかけとなって以降、趣味として次々と作品を発表していく。『ワンピース』のボアハンコック、『ジョジョの奇妙な冒険』の東方仗助、『ベルセルク』のゾッドなど、作品が映し出されるたびに、その完成度の高さに歓声が上がる。
さらに初めての“公式”作品を紹介。先にあげた作品をWEBなどで発表していた頃、版元を直接伺う機会ができた。「持ち込みをする漫画家さんの気分で見てもらいましたが、クオリティの高さと作品愛を評価していただき、応援もされて。感激です」。
そのアニメ映画プロモーションの一環で、ANIMAREALコラボのポストカードを3種類作成し、大阪の劇場で無料配布したところ、わずか数時間でなくなり、翌日にはオークションにて高値で売買されるほどの人気に。最終的にDVD販売時に、特典としてポストカードが封入された。コスプレーヤーや同人誌といった二次創作に関しては、「“黙認”はするが“公認”はしない」という出版社の不文律からすると、これは異例のこと。作品に対する業界やファンの評価を目の当たりにして、自分たちのやってきたことがビジネスになるのでは、と思い始めたとか。


ナツ&イグニール

原作者からのオファーに感激。
世界でも認められた「ANIMAREAL」。

その後も快進撃は続く。『北斗の拳』の作画を手がけた原哲夫氏が現在連載中の『いくさの子 織田三郎信長伝』をテーマとした個展が、本能寺の大寳殿宝物館で開催され、それに「ANIMAREAL」も実写で参加。最近では人気マンガ『フェアリーテイル』から派生した、DVDとマンガをセットした『月刊フェアリーテイルマガジン』で、創刊号から巻頭グラビアポスターを担当する。さらに『シャカリキ!』『め組の大吾』など職業マンガを描いていた曽田正人氏の新境地となるファンタジーマンガ『テンプリズム』をANIMAREALして欲しいと声がかかった。こちらはまだ単行本の1巻が刊行されたばかり。「今までは世界観が完成されたものを手がけてきましたたが、この作品に関してはスタートしたばかりのものを一緒にやらせていただいて、とても新鮮です」。
今年7月には海外で最大の日本フェス、『JAPAN EXPO』に招待され、出展も果たした。ブースには1日約4000人、のべ2万人が来場。「ぼくのトークショーと特殊メイクとフォトシューティング実演のステージをおこなったのですが2000人が詰めかけ、立ち見まででました」。この体験で海外での認知度を肌で感じたという。また同時にヨーロッパ最大のコスプレコンテストの審査員も務めた。国内のみならず海外でもコスプレーヤーからは神格化され、彼らのFacebookのコメント欄は、世界中の言語による絶賛の言葉で埋め尽くされている。


「JAPAN EXPO」2014年7月2日~6日/パリ・ノール・ヴィルパント

オールCGでは、なし得ない質感まで追求。
アートとしての新たな表現。

「単なる実写化ではなく、一貫したコンセプトを持ち、作品愛に溢れ、最高水準の技術で、アートとして新たに表現する。自分たちは徹底的にその点を追及して、原作ファンの90%以上を納得させる作品をつくりたい」。最初の作品をつくった頃からの市氏の揺るぎない信念だ。それが伝わってくる制作シーンのムービーを流し、“実写化”の過程が説明された。「制作はパートナーシップを結んだメンバーとの共同作業です。衣裳兼スタイリスト、特殊造型、特殊メイク、ヘアメイク、カメラマン、3DCG、そしてぼくたちがアートディレクションやグラフィックデザイン、コンポジッターまでやっています」。基本的には写真がベース。手づくりの衣裳を纏い、特殊メイクを施したモデルを撮影し、CGやPhotoshopでつくり込んでいく。すべてCGだと、キャラクターの“生きている感じ”がでないと言う。「現実にない、たとえば地獄のような背景はCG処理しますが、つくれるものは全部つくって撮影する方が絶対にリアル。写真にまさるリアリティはないと思っています」。
この表現で大変なのは、モデル探しだという。「キャラにそっくりでないとダメなので。それと少年マンガの主人公って10代、思春期の少年少女ですが、その年頃の男の子の外国人モデルがほとんどいない。毎回苦労してます」。自分たちの手法は「漫画家とはまったく逆の発想」だという。漫画家は、実際あるものをマンガにするためにディテールを簡略化、デフォルメして漫画的表現に落とし込む。市氏は、逆にその際に捨てられたディテールやエッセンスを想像で補う「拾う作業」こそがアートの部分だという。マンガには描かれていない些末な、だが世界観を貫くには絶対必要な部分を、想像を膨らませて用意、または撮影後の加工によって描き出す。それがよく分かるのが衣裳だ。少年マンガの記号化されたコスチュームを、単に色や形だけ再現するのではなく、キャラクターの個性やバックグラウンドから探り、精密に再現していく。
「マンガやアニメのファンは、基本的に実写化には反対。それはイメージが違うとか、ストーリーを勝手に変えるとか、不幸な歴史があるから。作品に愛がないことをファンは敏感に感じます。実写化決定!のニュースが出ると、“最悪”というツイートが流れるように(笑)」。しかし本当にリアルに再現されたものなら、絶対に見たいはずだという確信もある。「人間は何千年も前から、“見たこともない世界を見たい”という根源的な欲望を持っている。だからキリストの磔刑や最後の晩餐のシーン、あるいは死後の世界や神話の世界が、数々の画家の手によって描かれ、絵画や彫刻におけるリアルな表現を発達させてきた。それは今も変わらないと思います」

次の目標は「映像化」。
ジャンルを確立し、新境地を切り拓く。

今後の展望として、まずジャンルの確立をあげた。「実写をつくることと、それを出版社さんや原作者であるマンガ家さんに認められることはクリアできたので」。コスプレだけでもCGだけでもない“2.5次元の表現”で、すでに“ANIMAREALする”という言葉でしか表せない表現をもっと浸透させたい。ちなみに「ANIMAREAL」は、ダブルライセンスを取得しており、作品には原作者とともにコピーライト表記もされている。「これはすごく嬉しいこと。二次創作でライセンスを持ってる人は少ない思います」。
アートの追求を続け、さらにビジネスとしても展開したいとも。「マンガやアニメのキャラクターってある意味、世界で通用するタレント。それを実写にすることで、CMに出たりファッションモデルをしたり、タレント的な動きが可能だと思う。そういうリアリティのあるものって広告としても活きてくるはずです」。もうひとつは、メディアアートでリアルな世界を表現していきたい。「今年のハロウィンにはPixivさんの企画で、六本木ヒルズの最上階でANIMAREALのハロウィンイベントをします」。ハロウィン当日、多くのコスプレーヤーの中に「ANIMAREAL」が本気でつくりあげた人が混ざって、六本木から街を練り歩く、街ぐるみで遊ぶエンターテインメント。「これからは平面から映像になり、それがメディアアートになるような表現を目指したい」。また日本の作品がハリウッドで映像化される際に、監修を担えるようになりたいという。映像化は多くのファンが待ち望んでいるところだ。未知なる世界をぜひ見せて欲しい。「最終的な目標の一つとして映画はある。どこまで関われるか分からないけど、ぼくたちがやってきたことを実写化する時に、活せればいいなとは思っています」。

イベント概要

クリエイティブサロン Vol.55 市氏
究極の漫画実写化を表現したい

アニマリアルは日本では数少ない二次創作で公式のライセンスを得ている会社です。
クリエイターの力で漫画の実写化を表現したいと考え、関西の各ジャンルのプロフェッショナルが集まっています。
そもそもアニマリアルとは何なのか?というところや、単なる思いつきから現在に至った過程、制作の手法、今後の展望などをお話し出来ればと考えています。
また、アートと漫画、カルチャーを繋ぎ、世界における日本の新たな文化を創造したいと考えています。

開催日時

2014年9月1日(月)19:30〜21:00

会場

メビック扇町 ロビー

市氏

「ANIMAREAL」「MONJU市」代表取締役。
1980年生まれ。京都造形芸術大学では油絵を専攻。2010年、The London Central Saint Martins College of Art and Designに留学。グラフィックデザイナーとして写真や3DCGをメインに、手描きや特殊メイクなど様々な手法を用いてビジュアルの表現を追求。「日経エンタテインメント!世界で勝てる日本のエンタテインメント」「MDNデザイナーズファイル 2013 最前線のデザイナー250人」に選出。

公開日:2014年10月21日(火)
取材・文:町田佳子 町田 佳子氏