新しいクリエイティブの表現を求め、グラフィックデザインの可能性を探る。
クリエイティブビジネスフォーラム
JAGDA DESIGN CAFE OSAKA「GRAPHIC DESIGN / グラフィックデザイン」

今回のクリエイティブビジネスフォーラムは、公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会大阪地区(JAGDA大阪)と協働で、「GRAPHIC DESIGN /グラフィックデザイン」をテーマに開催された。JAGDA大阪・元代表幹事の清水氏をナビゲーターに、JAGDA大阪地区幹事を担う中堅のデザイナー8人が集結。それぞれの仕事や手法を披露し、表現や伝達の方法、考え方まで多様化していくデザインの領域において、今後の方向性や可能性をうかがい知る、示唆に富んだ内容となった。

イベントの光景

アプローチからうかがい知る、
デザインへのまなざし。

デザインカフェはJAGDA会員を中心にしたトークショーで、終了後はリアルカフェで気軽に話ができるスタイル。2009年にスタートし、心斎橋アップルストアで3年にわたり開催されていた。「メンバーも変わったことだし、皆さんを紹介しながらデザインへのアプローチや仕事のやり方などを聞かせていただこうと思っています」と清水柾行氏。まずはこれまでの仕事を見せつつ、自己紹介から。


左から植松達馬氏、木村幸司氏、木村泰子氏、鈴木信輔氏

看板制作会社からスタートし、デザイナーとして独立し13年目というADESTY, Inc.の植松達馬氏は、最初に事務所の写真を見せた。カッティングシートも自作したサインには“Design”の文字。「移転の際に心機一転、デザインと真剣に向き合うつもりで空間に意味付けをしました」。作品として、つくり手の姿勢に感動し、それをストレートに表現した、シンプルだけれど印象的な宝塚牛乳のパッケージ、次世代シロップとして食卓に馴染むデザインを目指したRare Sugarなどが紹介された。
STARRYWORKS代表の木村幸司氏は「アプリやウェブサイトや映像、体験型インタラクティブコンテンツなどを手がけています」と語り、まずはムービーでアプリ「いろぴこ」を紹介。これは幼児に色の概念を理解させる知育アプリで、カラー電球と連携し、遊びながら照明の色を変えられるもの。さらに映像で遊んだ自主制作作品も披露。「Webでもグラフィックがビジュアライザーのように、音に反応して楽しめるものを制作しています」。
鮮デザインの木村泰子氏は、あえてベタさをとことん追求したという企業広告から、パッケージやレシピブックも手がけた、“持ち歩いても恥ずかしくない”ダイエット商品、カタログや女性向けのエディトリアルまで、幅広い活動を紹介していく。
次に語ったのは今回のイベントのフライヤーを制作した、ボールド・鈴木信輔氏。ここでは参加者の個性やイメージを書体で表すという試みも。「トークを聞く人のヒントになれば面白いと思って。書体って情報でもあるし、コミュニケーションの助けになるかなと」。自主制作で記号性への関心を語った後、西成区の商店街で店の特徴をピクトグラムにした仕事を紹介。ここでは人にフォーカスした、機能性を超えるアプローチができたという。

フライヤー表 フライヤー裏

もともとは化粧業界に長く在籍していたという、峠田充謙氏。パッケージのデザインでは、ボトルを集めるところからネーミング、コンセプトワークまで関わることが多いとか。「屋号の“デザイン峠”は、名前にかけたのもありますが、表現よりも、もっと手前のところから関わりたいという意味を込めています」。紹介された化粧品のパッケージ、姫路の大学生による酒蔵活性化プロジェクトにおける取り組みでも、そのスタンスが伝わってくる。
CMとグラフィックが連動した企画を多く手がけるThree & Co.代表・福森正紀氏は、社会を巻き込んだ現象にもなった想い出深い作品として、グリコ・アイスの実のプロモーションをあげた。「これは最初につくったカンプの評判が良く、テレビCMからムービー、インタラクティブな表現まで制作させてもらいました」。
「ぼくの仕事の仕方は、セオリーに縛られず、ふあふあとつくっていくタイプ」。そう語るのは、mineral・樋口寛人氏。大学では油絵を専攻し、マチオモイ帖のビジュアルポスターなど、現在もデザインをしながら絵を描くことも多い。アート関係のビジュアルでは、写真の力で魅せ、ロゴでそれを引き立てたり補完したり。的確に抽出された最小限の要素だけで構成されるその表現には、どこか人を和ませるユーモアが見え隠れする。
ni-mocの森夕里子氏は、これまでのメンバーとは少し違ったスタンスでデザインと向き合っている。一番最初の仕事として、大学院の助手時代に手がけた阪東妻三郎の生誕百周年イベントにおける写真の復元を紹介。大学に博物館が設立された時には「ヴォーリズが残した建築図面展」などでアートディレクターも努めた。「研究畑にいた関係から文化・歴史関連の仕事も多く、最近は泉佐野市の歴史文化プロモーション事業にも関わっています」。


左から峠田充謙氏、樋口寛人氏、福森正紀氏、森夕里子氏

「歴史・文化という軸で捉えた時にどう伝えるか。今このときの瞬間の空気をどう伝えるか。手法で言えば平面だけでなくインタラクティブまで含めた中でコミュニケーションをどうまとめていくか。アプローチの方法からも、個性が見えて興味深いですね」と清水氏。

表現を広げる、プライベートワーク。
アイデアの源泉が生まれる瞬間とは。

これまでの作品を紹介していく中で、目立ったのが自主的に制作している作品だ。広告の世界はあくまでも受注産業で、100%自らがつくりたいものを制作しているわけではない。だからこそプライベートワークでは、自分を出しながら、新たなものに挑戦することができ、デザインの可能性や方法論を提案することもできる。
木村(幸)氏は、創業7周年記念プロジェクトで9つのインタラクティブな作品が会場内の1つの音楽にシンクロする、空間全体を使った体験型の展示をおこなった。「クライアントワークだけをしていると、表現の幅が狭くなるので。こういった自主制作がきっかけで、新しい仕事につながることもあります」。
3歳の女の子の母でもある木村(泰)氏は、この時代に子どもを育てる中で、生まれた想いから、子どもが成長していく中で、道標となるようなフリーペーパーを制作。「今を生きるとはどういうことか、さまざまな職業、年代の人から言葉を集めて、ささやかな暮らしの中に小さな勇気をもらえる一冊にしました」。
鈴木氏と樋口氏は“トンネル”というプロジェクトで活動している。最近興味をもっているのは、物事の本質をとらえてシンボリックに表現する“記号性”という考え方。「たとえば白い楕円形で真ん中に黄色があれば、誰もが卵と認識できたり、世の中に溢れているものには、すべて記号が含まれているような気がして。そういうものを抽出するグラフィックは可能性があると思うし、自分が今後つくるものに影響を与えるのではないかと思います」。夢に見るほど、いつもデザインのことを考えているという鈴木氏。「寝起きやお風呂に入っている時に、アイデアを思いつくことが多いので、すぐにメモをとるようにしている」とか。
そこで清水氏から「デザインを思いつく瞬間や仕事の進め方」についての問いかけがあった。「何かを描いている時」と答えたのは樋口氏。「まずビジュアルとして、なんかいいなというのが生まれて、それをいじり続ける中で形になっていく感じです」。それに対して「細かいアイデアは常に考えている」という木村(幸)氏。福森氏は「ビジュアルイメージからつくります。そこからビルド&クラッシュを繰り返す。自分の場合、新しいものとか見たこともないものを求められることが多いので、考えたものが、どこかで見たことがあると思ったら、イチからやり直します」。

言語化、時間の使い方、
それぞれの制作スタイル。

デザインは感覚的な要素が多い、いわば暗黙知の領域だ。その一方でコンセプトをロジカルに解説できているかも求められる。福森氏も「自分は感性で動くタイプだと思うので、そこに理屈をつけるためにグラフィックの力を借りている」という。「ぼくの仕事のやり方は段階ごとに下すジャッジを言語化して、構築していく感じです。研ぎすましていく行為に近い。ミクロなことの塊で、マクロなことを成り立たせている仕事なので、一瞬の判断ですべてがひっくり返ることがある。だから撮影後、入稿までの期間を1週間はいただいて、時間がある限り、それがベストなのか、徹底的に考え抜く戦いをやっています」。
そこから制作時間の話題へ。「今までの経験上ダラダラやっていても、いいものができた試しはない。出るときは初めの1、2日で出る時もあるし。なので最初の1週間でまずつくって、ぎりぎりまで寝かして最後に集中して確認します」という植松氏。インタラクティブの場合は、制作に3ヶ月から半年くらい時間がかかると、木村(幸)氏。「ぼくらの場合は、見て触ってみたり、体験してみないと分からないことが本当に多いので、完成からリリースまでのブラッシュアップの時間次第で、クオリティが大きく左右されるんです。だからぼくも時間の限り取り組みますね」。

イベントの光景

広がるデザインのフィールドで
拡大・深化するデザイナーの役割。

「インタラクティブな要素やデジタル系のものが普通に入ってきて、広告のフィールドが違う方向にも広がっている気がする」と清水氏。そのいっぽう、仕組みからデザインしたり、森氏のように文化・歴史を背景にし、それをビジュアルに落とし込むというやり方もある。そこではデザインも求められるものが変わるのではないか。「基本的に見せる題材は存在するので、アーティスティックな個性を出すというものではない。ただ作り手である自分の存在は、どこかでひっそりと出てくるとは思うのですが。それと一枚のポスターをつくるためにも、そこにまつわる歴史背景を語れる知識が必要になります。一昨年ヴォーリズ建築の全国建築MAPの制作依頼があったのですが、それも専門的なことが分かった上で、そこからデザインを起こせると思っていただけたからだと思います」。
仕組みからデザインに関わる、峠田氏の発足したばかりの自主企画“UTONプロジェクト”。これは、奈良の柿農家から相談を受けて始まったもの。廃棄分を加工製品して販売することを手始めに、料理人などを巻き込んで発展させていきたいという。「“食”って突き詰めるときりがない。それが面白いし、自分たちもどこが着地点なのか分からないけれど、最終的に農業に就く人が増えたらいいなという感じでやっています。これを始めてから、似たような食品系の仕事が来るようになって、そういう広がりも面白いですね」。

イベントの光景

目指すゴールが違えば
デザインに感じる醍醐味も、8人8色。

最後に、グラフィックやデザインの仕事の好きなところや、今まで続けている理由など、それぞれが想いを語った。「企業や店舗の仕事をした時に、デザインがきっかけで自信が出たとか、会社の良さが分かったと言われる時にやりがいを感じるし、そこがデザインの凄いところかなと思う」(植松氏)。デジタル領域の表現を追求する木村(幸)氏は「最終的には心を動かす“体験”をつくりたいというのがあります。プログラミングもデザインも映像も、やりたいことを実現するための手段で、それぞれは並列なんです」と語った。「普通の手紙ではなく、たくさんの人に届く大きな手紙をつくっている気分です。自分がいいと思ったり、お客さんがいいねという部分を写真や言葉で届けている。個人的なことでいうと、親になったことで、デザインもすごくシンプルになりました。この仕事しかできないからやっている感じです」(木村泰氏)。
鈴木氏は「クライアントの相談に対して、デザイナーだから判断できる瞬間がある気がしていて。その時って凄く気持ちいい。そこから思いついたものを定着させていく時に、つくりたかったものにたどり着けた時が楽しい」。
表現とはどういう風に“希望”をつくるかだと考える峠田氏。「たとえばパッケージの仕事なら、ネーミングを考えるのに半年のスパンをとって、クライアントも一緒に案を出してもらう。そうやって“苦しんで考える時間を共有することが、売り上げにつながる”ことをメーカーにいた経験上、感覚的に知っているから。どのように商品に愛情を持ってもらうかを、仕組んでいる時が結構楽しい。そのプロセスも自分のデザインの一部だと思っています」。
樋口氏は、表現としてグラフィックデザインは遅れていると言う。「でも昔ながらの単純な表現手段でありながら、写真とロゴの力だけで、手の込んだインタラクティブなものより、人の心を惹き付ける瞬間がある。そこに喜びを感じます。シンプルな手法で世の中を分かりやすくしていけたらと思っています」。
グラフィックデザイナーは黒子の仕事と、福森氏。「ちょっとした匙加減で、びっくりするほど商品が売れたり、ブランドのイメージが上がったり、わずか数人の力で大変な影響力を与えることもある。そんな可能性を秘めた仕事であることが最大の魅力。それと常に新しいものを追いかけている仕事なので、去年のものより、絶対いいものを模索してつくろうという点も、面白く続けられるところ」。
“人とのつながり”をあげるのは森氏。「デザインに至るまでに、何をしたいか、聞き出すことが大事。デザインを再生していくような場合には、必ずその相手の方と心が通じないと、いいものはつくれない。単に目に見える形をデザインするだけではなく、手前のプロセスをどれだけ丁寧に積み上げていくかを大切にしています」。
デザインに対する姿勢や視点もたっぷりと語られたトークショー。クライアントの業種も多様ながらも、優れたデザインの仕事の根底には共通点があることを認識でき、今後の活躍がますます楽しみになるひとときとなった。

イベントの光景

イベント概要

クリエイティブビジネスフォーラム
JAGDA DESIGN CAFE OSAKA「GRAPHIC DESIGN / グラフィックデザイン」

表現や伝達の方法、そして考え方が多様化していくデザインの領域において、JAGDA大阪地区幹事を担う中堅のグラフィックデザイナー8人が、各々の仕事や手法を披露することで、将来を担う若手デザイナーに対してはもちろんのこと、異分野のクリエイターやクライアント企業等に対しても、グラフィックデザインの向かうべき方向性や今後の可能性を知る上でのヒントになればと考えています。

開催日時

2014年8月1日(金)19:00〜23:00

会場

関テレ扇町スクエア 1Fアトリウム

パネリスト
  • 植松達馬氏(ADESTY, Inc.)
  • 木村幸司氏(STARRYWORKS inc.)
  • 木村泰子氏(有限会社鮮デザイン)
  • 鈴木信輔氏(ボールド)
  • 峠田充謙氏(設計峠〈design tôge〉)
  • 樋口寛人氏(mineral)
  • 福森正紀氏(Three & Co.)
  • 森夕里子氏(ni-moc)
ナビゲーター
  • 清水柾行氏(青空株式会社)

公開日:2014年08月26日(火)
取材・文:町田佳子 町田 佳子氏