デザイン・プロモーションの“黒子”が語るデザイン。
クリエイティブサロン Vol.42 秋元淳氏

毎回、さまざまなジャンルのクリエイターをゲストスピーカーにお迎えし、その人となりや活動内容をお聞きし、ゲストと参加者、また参加者同士のコミュニケーションを深める「クリエイティブサロン」。今回のゲストは、公益財団法人日本デザイン振興会(以下、日本デザイン振興会)事業部課長の秋元淳氏。同氏は、日本を代表するデザイン賞として知られる『グッドデザイン賞』事業や東京ミッドタウン・デザインハブ(以下、デザインハブ)の運営業務を担当し、現在は日本デザイン振興会の広報統括業務を担っている。デザインハブでは、「わたしのマチオモイ帖」特別展がこれまでに2回開かれているので、メビック扇町とは浅からぬ縁というわけだ。今回の「クリエイティブサロン」は、クリエイターではなく、デザイン・プロモーションの“黒子”がデザインについて語るという点で今までとは趣を異にする。「ことば」によってデザインの力を伝える秋元氏。そのスピーチは、参加者に「なるほど!」と頷かせ、多くの“気づき”を与えるものだった。本レポートは、サロン後半で秋元氏によって挙げられた4つの「ことば」を中心に紹介する。

秋元淳氏

デザインを正しく伝えて、社会に根づかせたい。

秋元氏は、デザインを生み出す立場としてではなく、デザインをしている人やその人によって生み出されたデザインを正しく世に伝えたいとの思いから日本デザイン振興会の門を叩いた。就職した1998年当時は、今日のようにデザイナーがみずからメッセージをたやすく発信できるような状況ではなかった。また、デザイナーも、自分の考えをことばにして伝えるのは苦手、という人が少なくなかった。そのような時代に、秋元氏は日本デザイン振興会が発行する季刊のデザイン専門誌『デザインニュース』(現在は休刊)の編集に従事。デザイナーに原稿を依頼すると、独特の表現で仕上がってくるので、それをデザイナーとキャッチボールしながら、ある意味翻訳して、世の中に受け入れられるような形で送り出したという。現在、広報を統括し、デザインで「人」「ビジネス」「知識」を結びつけ、広げて育てるデザインハブの運営業務も担当する立場になっても、「デザインを社会に正しく伝えて、社会に根づかせたい」という思いは変わらない。

今回のサロン前半では、自身のキャリアの軌跡を皮切りに、グッドデザイン賞の成り立ちや応募・審査・受賞の状況、デザインハブの役割、Gマーク認知度調査などの話を交えながら、デザインを伝えることの愉しさやむずかしさが語られた。後半では秋元氏がデザインに携わる中で、日頃から気をつけている4つのことばが紹介された。

グッドデザイン賞ロゴ

デザインは、色・かたちのこと?

プロジェクターで大写しにされたひとつ目のことば「色・かたちのこと」について、秋元氏はこう語る。

「“デザインは、色・かたちのこと”というと、デザイナーを含めデザインに携わる人の中には“デザインは、色・かたちのことじゃないんだ。もっと大事なことなんだ”と気色ばんで言い返す人がいます。でも、いろいろな目的や理想があって、その実現のために物事を組み立てて考えることがデザインだとしたら、そこに関わる人に対して“色・かたちで伝えなければ何で伝えるの?”と私は言いたい。“デザインは、色・かたちのことじゃないんだ。”と言ってしまうのは、ある意味、責任逃れだと思っています。“色・かたち”をぞんざいに扱ってはいけません。だから、デザインは“色・かたちだけのこと”ではなく、それらを含めていろいろ大切なことがある、というのが正しいと思います」

デザインは“付加価値”、ではない。

次に挙げたことばは、「付加価値」。日常的に何の疑問もなく使われるこの「付加価値」とデザインについての考えも、実にユニークだ。

「“付加価値”は、デザインを形容する時によく使われることばですね。“デザインによって付加価値が高まる”と言われたりするのも、今に始まったことではありません。ただ、私はこれについて全面的に否定したい。デザインは、“付加価値”ではなく、“全体価値”です。きれいなラッピングやパッケージングをしたり、少し紅を差したりということではないはずです。何らかの目的をもっているものがあって、これをよきものとしてその役割が果たせるように、有りようそのもの、つまり全体を考えることがデザインだと思うからです。だから、私は“付加価値”ということばが大嫌いです(笑)。もちろん、ことばに罪はありませんし、本来の意味から外れて用いられることも多いかもしれません。ただ、“デザインは付加価値だ”という表現はして欲しくないですね。悲しいことに、デザイナーの中にもこのような表現をする人がいますが……。もちろん、“全体価値”は造語なので、このことばを持ち出したところで一般的には流布しません。“付加価値”は世の中に根差していることばですが、“全体価値”はそうではありません。だから、もっといい言い方はないか?と、考えているところなんです」

サロン風景

ソーシャルじゃないデザインって、あるの?

そして、三つ目が「ソーシャル・デザイン」。これに関しても、秋元氏の視点は鋭い。

「世の中をよくしていくためのはかりごとを“ソーシャル・デザイン”ということばでくくっているのを見かけますね。その活動自体はとてもいいことだと思っていますし、否定するつもりはありません。ただ、デザインはすべからく社会的なものであるはず。広告代理店によって特にもてはやされている感のあるこのことばには、正直言ってちょっと違和感があります。どんなデザインもある意味、ソーシャルなことを担っているわけです。そこのところをデザインする側の人も、そのデザインを受ける側の人も、当然のものとして意識する必要があると思うのです」

デザインで課題解決?もっと謙虚になるべきでは?

最後に挙げたことばは、「課題解決」。デザインの現場でもよく使われるこのことばに対する
疑問の投げかけが秋元氏らしい。

「デザインが、いろいろな課題を解決してくれる万能薬のように扱われることがありますね。“デザインは課題解決の手段である”と言われたりもします。でも、これについても私は少し違うのでは?と考えています。デザインが何らかの形で世の中の課題を見つけ出したり、そこに働きかけたりすることは十分できますが、デザインが課題を解決できるとは簡単に考えない方がいい。私が捉えているデザインは狭義のものかもしれませんが、もし、ある課題がデザインですっかり解決できるとしたら、そもそもその課題が相当些細なレベルのものだと考えるからです。私は、デザインは“希望”を見つけていくことだと考えています。課題があれば、どんどんデザインの力で解決できればいいと思ってはいますが、いきなりそのすべてをデザインに担わせるには荷が重い。デザインが政治や経済をはじめ、いろいろなことと一緒になって機能することにより、課題は少しずつ解決に向かっていくのではないでしょうか? デザインにできることは“課題を解決する”というより、“課題を見つけ出し”“それに対して働きかける”ことだと思うのです。普通のものの見方をしていると見過ごしてしまう部分を、デザインという感覚や手法論を身につけることで、課題として見つけ出す=キャッチすることができる。キャッチしたら、それをどのようにいい方向に進めていくかをデザイナーやいろいろな立場の人が一緒になって考えて動く。そうすることにより、課題の形がよりはっきりし、希望が生まれ、最終的には世論の中でいい落としどころに向かうのでは、と考えています」

これからも、デザインの力を信じて。

「信じられるデザイン」表紙
『信じられるデザイン』

今回、秋元氏から参加者全員に一冊の本がプレゼントされた。本のタイトルは『信じられるデザイン』。副題として「この先の、デザインの可能性を見つめて」が添えられている。この本は、デザインハブ開設5周年企画として開催された「信じられるデザイン」展の内容をまとめたものだ。同展は、「あなたの、信じられるデザインは何ですか?」という問いに対する51名のクリエイターの書き下ろしのメッセージコラムとイラストのみで構成され、ものの展示は一切なかった。この企画は、「デザインを信じる」ということを来場者にことばでどれだけ伝えることができるかを試してみたい、という秋元氏の思い入れがかなり反映されていたという。

秋元氏はクリエイティブサロンの結びでこう語った。
「私はデザインのもっている力を信じています。それは、魅力や潜在力であったりするわけですが、それらを世の中に伝えるためには、まだまだトライ&エラーをすることになります。きょう参加してくださった皆さんとも今後何らかの形で関わらせていただくことがあると思いますが、そのときはぜひご一緒できればと思っています!」

クリエイティブサロン Vol.42 秋元淳氏
デザインを伝えることの愉しさ・むずかしさ

デザインは暮らしと切り離せない、身の回りのどんなものごとにもデザインが関わっている…だからこそ、デザインの価値や意義を社会に広めていくことは大事ですし、同時にそのむずかしさもあります。専門性がある一方で、誰にでも分け隔てなく受け止められるのが「デザイン」。人それぞれのデザインに関する認識、デザインへの人々の期待。それらに対して実際にデザインができることは?「デザイン」と社会の関係について、グッドデザイン賞の取り組みなどを事例にしつつ、ご参加の皆さんと一緒に考えられればと思います。

開催日時

2014年5月26日(月)19:30~21:00

会場

メビック扇町 ロビー

秋元淳氏

公益財団法人日本デザイン振興会 事業部 課長
1968年千葉県生まれ。明治学院大学、武蔵野美術大学卒業。1998年に旧財団法人日本産業デザイン振興会に入社。2003年まで雑誌「デザインニュース」や『グッドデザイン賞イヤーブック』などの編集業務に携わる。2003年以降はグッドデザイン賞(Gマーク)事業を担当。現在は広報業務および、デザイン発信拠点である東京ミッドタウン・デザインハブの運営を主に担当する。

公開日:2014年06月17日(火)
取材・文:有限会社中島事務所 中島 公次氏