仕組みづくりを考えることからデザインは始まる。
クリエイティブサロン Vol.37 服部滋樹氏

様々なジャンルのクリエイターをゲストに招き、その人となりや活動内容をお聞きし、ゲストと参加者のコミュニケーションの場として開催している「クリエイティブサロン」。今年度のゲストスピーカーのトップバッターとしてお招きしたのは、grafの服部滋樹氏。大阪を拠点に、家具・空間・プロダクト・グラフィックのデザインから食、アートまで多岐にわたるジャンルで、さまざまなクリエイティブ活動を展開する服部氏に、私たちが今考えるべきこと、求められる循環の姿、問題発見とその解決の拡張性など、「21世紀のデザインの在り方」について語っていただいた。

服部氏

グローバルスタンダードから、
“Think Local,Act Global.”へ

まず最初に21世紀のクリエイターの考え方として、「形を変えるより、システムづくり、仕組みを整理すること」だと語る服部氏。ものづくりに例えるなら、ものが生まれるまでの流れを考えながら、上流から下流へ正しく進めていかなければならないという。下流とは、製品ができ上がったところからパッケージのデザインまで。対して上流は、ものが生まれるきっかけ。この流れを整理し、生産者も含むサイクルを、どのようにつくり出すかを考える。「それにより本当の意味でのサイクルが循環しはじめます。製造過程で汚染水が出るなら、それを出さないように考えるのもデザインの果たすべき役割です」。

そんなシステムづくりの成功例として、香港のデザイナーのプロジェクトを紹介する。
「まず彼らは自分たちが社会に対してどういうデザインができるか考えた時、事務所周辺を調査することから始めました。そして地域の悩みとして“仕事がないこと”を掬い上げ、仕事づくりからデザインするんです」。
具体的には地域でペットボトルや廃油の回収をしてもらい、それをパッケージにしてボティソープやシャンプーをつくり、工場で梱包・ラベリングして販売するまでをやってもらう。
「実際に彼らがデザインしたのはパッケージだけですが、調査によって生産、販売まで仕事に変えることを実現している。これには“地域の人が使うものをつくる”という、地産地消のサイクルも含まれています。さらに素晴らしいのは、販売用ワゴンの設計図をオープンソース化し、Webで公開している点。同じような問題を抱える人たちは、どうぞ自由に使ってくださいという考え方です」。

「グローバルスタンダード以降、グローカルといわれるこの時代に何をすべきかというと、“Think Global, Act Local.”−世界の目線で考えて、地域でアクションを起こす−でしたが、最近地方では、地元資源を再発見しながら生きていこうという若い人たちが増えている。つまり“Think Local,Act Global.”へと変化しているんです」。
ローカルで発見したことを世界に通用するデザインとして発信。さらに先ほどの香港の事例のように、それを同じ問題を抱えている地域で使うことは、“Think Local ,Act Local”といっていいかもしれない。


服部氏がサロンで紹介した香港のプロジェクト「So…Soap!」

オリジナリティのあるサーベイが、
アウトプットを大きく変える。

デザイナーやクリエイターが今後すべき仕事は、調査・検証をして地域の中に眠っている問題点を見つけ出し、そのために何をすべきか考えることだという。今までの流れから新しい問題発見をし、それを解決しながら商品を生み出したり、デザインのアウトプットを考えること。「仕組みづくりを考えることから、デザインは始まる。そこで大切になってくるのが、サーベイの方法論。オリジナリティのあるサーベイの方法が、実はデザインのアウトプットを大きく変えていくんです」。

その対極にあったのが、たとえば自動車のデザインだ。安全性能というマーケティングのレギュレーションを形に変えていった結果、どれも同じようなデザインになってしまった。これは「仮想ターゲット向けの、マーケティングよるものづくり」、すなわち20世紀的方法論の崩壊だ。これからはリサーチのオリジナリティによって、個性的な商品が生まれると服部氏は言う。
「問題発見の方法論には、ないものをつくり出す方法や、仮説を立てるやり方があります。特に仮説はデザインの領域における大切なスキーム。微量のヒントから仮説を立て、正しい答えへと導きだすインタビューやサーベイの方法を考えることが重要になってきます」。

“かたち”から発掘する地域資源
「小豆島カタチラボ」

サーベイのひとつの方法論として、昨年「graf」が参加した「瀬戸内国際芸術祭2013」を揚げた。「小豆島カタチラボ」と題された展示は、かつて醤油の製造で栄えた山吉醤油蔵を舞台に、小豆島のあらゆる“もの”を調査、解体、検証することで、土地の特性とそこにしかない魅力を浮きぼりにするもの。まず小豆島への理解を深めるためにクリエイターの視点で調査をした。
「カタチラボは、農具や建物、食材などのカタチに違和感があることに気づくことから始まりました」。
方言を採取して、イントネーションを木琴の音階に置き換えることで体感する展示。この方法論であれば、外国語を同じように木琴に置き換えることもできる。これも“Think Local, Act Global”のひとつのカタチ。

ほかにも、醤油づくりに欠かせない木樽の1/1の設計図面をつくり、伝統が絶えることがないように、未来へ託した手紙として表現。島中の石を集めて削ってカラーチャートをつくり、島のカラーを提案したり、名産品のそうめんづくりの工程をリサーチし、その動作をダンサーにトレースした写真を撮影。これには後にダンサーがこれをもとに“そうめん体操”を生み出したというオマケもつく。さらには島にあるものだけを使い、シーズンで採れる食材をパッケージにしたアイランドギフトのように、見いだされた地域資源を商品開発にまでつなげている。「さまざまな視点で島を眺めるだけでも、これだけの資源が発見できます。最近、どの地方でも地域資源を埋蔵金のようにありがたがって探していますが(笑)、地域資源は無限にあると思います。ただどの視点によって見出すかで、それは生かされも殺されもする。他の土地での成功事例を流用するのではなく、その土地の特性や問題と向き合うことのほうが、大切なんです」。

方言の木琴 醤油木樽
瀬戸内国際芸術祭2013 小豆島カタチラボ


そうめん体操(瀬戸内国際芸術祭2013 小豆島カタチラボ)

自由な発想を持つためには、
俯瞰能力を高めることが大切。

デザイナーにはこれまで培ったノウハウがあり、それに縛られてしまうことが、往々にしてある。しかし「graf」は自由な発想でそれを軽々と乗り越えている。なぜそれは可能なのか。
「カタチラボは小豆島という素材を、スタッフ全員のあらゆる視点から覗くという、多視線的だから面白いものができた。カタチの不一致を見つけ出すのはフィーリング。おかしい、気持ちいい、その理由を探っていくと、本来そこに必要だったコンセプトが見つけやすくなったり、必要とされるビジュアルが生まれてくるんです」。さらに自分の経験値と感覚を信じて、そのフィーリングをいかに可視化し、論理的に説明することも重要。さらに目の前の問題を解決しようと思うなら、“俯瞰するジャンプ力”が必要だという。
「目の前のことを知ろうと思ったら、ちょっと次のレベルまで飛んでいって隣のもの=比較対象となるものを探さないと、それは見えてこない。もしくは大きく飛躍して世界と対比してみる。そういった俯瞰するジャンプ力があれば、目の前の問題も明確になります」。

最後に地域の魅力を伝えるツールとして、一眼レフによるムービーを紹介してくれた。これまで地域を伝える映像は、名所や風景といった観光的なものが大半だった。しかし今や、単に美しい景色だけでは人の心は動かせない。
「景色よりも人。その土地で人がどんな暮らしをしているか、それを伝えることによって大きな影響を及ぼしていく」。
一眼レフによる映像は、ビデオカメラでは映せなかったディテールやニュアンスをクリアにとらえ、人の営みを伝えるのに最適だという。
「こういったソーシャルムービーやソーシャルフォトが、その暮らす人の営みをみせることで、土地の魅力を伝えることができ。結果として地域に還元できると思うんです」。

クリエイティブサロン Vol.37 服部滋樹氏
「21世紀的なるもの…」

Think global, Act local 私達が考えるべき事って何だろう?
Open source platform シェアの為の形態は?
Recycle - Life Cycle 物質的な循環と作る循環
Local standard 問題発見と、その解決の拡張性

開催日時

2014年5月2日(金)19:30~21:00

会場

メビック扇町 ロビー

服部滋樹氏

1970年生まれ、大阪府出身。graf代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にインテリアショップで出会った友人たちとgrafを立ち上げる。建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディレクションなどを手掛け、近年では地域再生などの社会活動にもその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

クリエイティブクラスター:(有)デコラティブモードナンバースリー

公開日:2014年06月10日(火)
取材・文:町田佳子 町田 佳子氏