Cahier(カイエ)とは“notebook”。一番身近にあってよく使う、そんな存在になりたい
多々良 直治氏:カイエ(株)
南森町駅にほど近いビルの3階、小じんまりしたオフィスに若者クリエイターの熱気があふれている。カイエ株式会社は2008年4月に生まれたウェブサイト制作会社だ。事務所となるこのオフィスは、同じ時期にできたグラフィックデザイン事務所「明天堂」、そして「OOO(オーオーオー)」とともにシェアし、互いに育ち合っている仲だ。
「常に人が出入りしているんです。それはとてもいい刺激になります。ぼくもがんばらなくちゃって思いますね」
とはにかむ、代表取締役の多々良直治さん。起業にいたるまでの経緯、現在の状況や感じていることなどについて、お話をうかがった。
プレッシャーが刺激の毎日
多々良さんは、和歌山大学システム工学部・デザイン情報科出身。大学卒業後、印刷会社勤務を経て、2006年に吹田市千里万博公園にある彩都メディアラボ(株)に入社。そこで現在の仕事仲間である、和田さんと尾崎さんに出会う。3人は意気投合し、2008年4月、カイエ株式会社を設立する。
「働きやすい環境を自分たちの手で作って、気持ちよく心穏やかに仕事をしたいという想いで会社を設立しました。気持ちよく仕事をすると、お客さんにもそれが伝わると思うし、制作物にもそれが表れると思うので…」
そんな3人は現在、デザイン担当の和田さん、Flash制作を担当の尾崎さん、そしてコーディングなどのシステム関係と営業担当の多々良さんと役割分担され、チームワークはばっちりだ。
「6ヶ月たった今、やっと代表として責任を実感すると同時に、自分が成長しているなと感じるんです。もちろんプレッシャーはあります。でもそのプレッシャーが刺激になってるのかな…」
とあくまでも控えめな多々良さん。28歳という若さでの起業。そして設立して半年という年月。不安な中でも落ち着いた面持ちで言葉を選び、ゆっくりと話す話しぶりには誠実さがにじみでている。仕事に対しても人に対しても、まっすぐで実直な姿勢は、これから信頼と実績を積む土台になるのだろう。
お客さんの気づかないところにまで心を配りたい
設立から6ヶ月の間にも、カイエ株式会社は様々な分野のウェブサイトを手がけてきた。アクセサリー店、美容外科、住宅会社、NPO法人など、顧客層もテイストも多彩だ。制作にあたっては、顧客が自身でサイトを更新できるCMS(Contents Management System)を積極的に取り入れ、顧客への便宜を図り、運用コストも抑える方法も導入している。
「色々なお客さんに出会って話をするのが楽しいんです。言われたことをするだけではなく、お客さんが気づかないようなところまで心配りができるようになればいいなと思っています。それが信頼につながると思っているので。」
そんな多々良さんは、目下のところ人脈作りが一番の課題だ。
「人の集まる場所に顔を出して、たくさんの方と知り合いになることが大切だと思っています。そしてカイエがやっていることに興味を持ってもらいたいし、自分たちのこともアピールしていきたいと思いますね。会社の安定?…それはどうでしょう(笑)軌道に乗るって何だろう、安定するってどういう状態?って答えを探している毎日ですよ。でもそんな状況も楽しんでいますけど…」
あくまでも「自分たちが仕事を楽しむ」ことを大切に考えているという多々良さん。模索の毎日そのものを楽しみ、制作の歓びが制作物に表現されているのだ。
まずは社員が幸せであること
フランス語でカイエ(cahier)とは“notebook”を意味するという。その社名の由来についてこんなふうに語る。
「何かを創作するとき、まずノートにスケッチや発想を書き留めることから始めませんか?ウェブサイトってデジタルの仕事ですが、アナログ的な発想も大切にしたい。そんな気持ちからなんです。クリエイターにとって一番身近にあって、一番いろんなことに使えるものが一冊のノート。お客さんにとって私たちが、そんな存在になりたいという願いも込めました」
ウェブサイト制作から、将来は会社のプロデュースやブランディングまで視野に入れて活動しているという多々良さん。そのためには、まず社員がカイエ株式会社にいることを誇りに思える会社にしなくてはと考えているという。
「まずは僕自身も含めて、このカイエ株式会社で働いているスタッフを幸せにしたいんです。気持ちよく、長く働ける環境を作りたい。そしてカイエを作ってよかった、カイエで働いてよかったと思ってもらいたいんです。それがお客さんにいいサービスを提供して、お客さんに幸せになってもらう基本だと考えているのです」
カイエ株式会社はまだ始まったばかり。しかし若き社長は、自分たちの足元から遠い未来までを視野に入れ、着実に道を切り拓き、歩き始めている。そのまっすぐで確かな足取りは、社員の幸せへの願いを込めた一歩なのだ。
公開日:2008年09月29日(月)
取材・文:株式会社ランデザイン 岩村 彩氏
取材班:株式会社ファイコム 浅野 由裕氏