言葉の中につまった風景を表現したい
田面 遙華氏:書家

田面遙華(たづらようか)さんは、デザイン関連の仕事からアート活動まで、様々な方面で活動を広げている書家だ。物静かな印象ながらも、書について語り出すとまなざしが熱くなる田面さん。

「書の美しさは白と黒の世界であるということです。白と黒の間の無限の濃淡に、にじみ・かすれなどの筆の動きが融合して一つの世界を創り出します。筆の運びや線の動きで、書いた人の心の動きが見る人に伝わるんです。」

田面さんの「書の世界」。その奥深い世界を少しでものぞくことができればと、自宅兼アトリエにおじゃました。

はじまりは町の書道教室から


左は田面さんの作品
「君と私 そこに全てが あるから」

田面さんが書道をはじめたのは、小学一年生の時。習いごとの一つとして、両親に勧められるまま近所の書道教室に通っていた。子どもの頃は内気で恥ずかしがりやだったという田面さん。

「人前で話すのは苦手。まして人前で自己表現などできないと思っていました」

そんな田面さんに転機がおとずれる。中学・高校時代は書道から少し離れていた田面さんは、20代にさしかかる時にこのまま書道を続けるか、やめるかと選択を迫られた。その時に初めて「自由な書」の世界を知る。

「衝撃を受けました。今までいわゆる『書道』の世界しか知らなかったので、書を使ったこんな表現方法があるんだって。そして私も、書で自分を自由に表現してみたいと、強く思ったんです。」

それをきっかけに、本気で書と向き合おうと決心した田面さん。OL生活の中、時間を見つけては雑貨屋やギャラリーなどにこまめに足を運び、少しずつ人脈を広げ、可能性をさぐった。

「2005年に初めての個展を開いたんです。今まで書道界の中しか知らなかった私が外に目を向けたことで世界が広がり、人とのつながりができたと、その時に実感しました」

個展をきっかけに、イベントへの参加や書によるロゴ制作など、書家としての依頼を受けるようなったという。そして2007年、勤めていた会社を退社。書家として本格的なスタートを切った。現在は書道に専念する毎日だが、常に心がけているのは自分の活動を外に向けて発信してゆくことだという。

「一般の人たちにも書を身近に感じてもらいたい。そのためにはいろんな人と知り合って、まずは自分の書に興味を持ってもらうことが大切だと思うのです。」

心の奥に眠っていた「自己表現」への欲求。そこに「自由な書」という表現方法が、ぴったりとリンクしたのだろう。「書による自己表現」は、内気だった田面さんを広い世界へといざない、自分を解放する歓びを教えてくれたのだ。

書いたときの気持ちは人に伝わる


写真家と詩人と、田面さんの
書によるコラボレーション作品

現在は書道教室での教育活動、書道会事務局での仕事に加え、デザイナーから受けるロゴや商品名などを書く「商業書道」の方面でも活躍する田面さん。飲食店のロゴやCDのジャケットなど、多くの文字を手がけてきた。そして、どんな文字を書くときでも大切にしていることは「今、自分が何を表現したいか」ということだと語る。

「一つ一つの線の運びで、言葉の中にある『想い』や『意味』を、自分がどう表現できるかを考えます。それは、お店や商品の文字を書くときでも同じ。その言葉の中につまっている『風景』を感じてもらえるような書を創りたいと思っています」

店名や商品名などの「言葉からイメージする世界」と、店や商品「そのものの雰囲気」を考え合わせ、「こんな文字を書きたい」という純粋な気持ちにそって制作するという。

「筆の動きや書いたときの気持ちは、クライアントさんにも伝わるんですね。何点か見せても、最終的には自分が一番気持ちよく書いた文字を選ばれることが多いんですよ」

書は「音のない音楽」

田面さんがもう一つ大切にしていること。それは他のアーティストたちとのコラボレーションによるアート活動だ。イベントに参加するほか、他のアーティストたちとイベント自体を企画する。パフォーマンスは、三味線、箏奏者と書による「和のコラボレーション」をはじめ、バンド+DJ+書、音楽+絵画+書、写真+詩+書などという異色の組み合わせもあるというから驚きだ。イベントでは舞台に白いパネルが用意され、音楽ライブの横で田面さんが書のパフォーマンスライブを見せる。

「事前に少し打ち合わせはしますが、パフォーマンスは基本的にアドリブ。他の表現方法とミックスすることのおもしろさを、私自身も楽しみます。ライブですからその場の雰囲気を大切に、自分の書きたいと思う気持ちにまかせてノ。いつも作品を後で見ると、とても気持ちよく納得できる」

まさに、その道を極めた人だけが見ることができる精神世界。書に真摯に向き合い、書を通して自分を表現し、そして書を介して世界を観る。そんな中、心は外へ外へと自然に向いてきた。

「例えて言うなら、書は『音のない音楽』。音楽を聴くように、書を見てその人なりの風景を思い浮かべてもらえるようなものを書きたい。『人間の持つ共通の感性』にうったえてゆきたいということでしょうか。それから、書=日本という枠からも一歩踏み出したい。海外に作品やパフォーマンスを持って行ったり、デザインの仕事だと、意外な商品のロゴなどに書を取り入れるなど、新しい表現にチャレンジしてみたいんです」

白と黒による表現の世界。その中に無限の色や音、においや手触りを封じ込め、作品に仕上げる。そのプロセスは「文字の持つイメージ」と「表現への欲求」との間で、偶然と必然が生み出す美を追求する、終わることのない模索なのだろう。おだやかに淡々と、書について語る田面さんの横顔に、自らの挑戦に果敢に立ち向かう静かな気概を感じた。


大阪帝塚山音楽祭にて
和楽器ユニット?響喜×遙華コラボ(三味線と箏)


神戸 住吉 カフェニュートラルにて
能×生け花×書のコラボ

公開日:2008年09月24日(水)
取材・文:株式会社ランデザイン 岩村 彩氏
取材班:株式会社ランデザイン  浪本 浩一氏