マルチメディアは場所を問わない。3Dグラフィックを世界へ発信
前岡 俊男氏:(株)ピーエムスタジオ

海賊とも骸骨とも見てとれる奇妙なロボットが、音楽にあわせて踊っている。くるくる回ったり、蹴飛ばされて転んだり。ピーエムスタジオの3Dアニメーション作品『Robo Dancing』のひとコマだ。不気味なのに愛らしいキャラクターの表情、リアルな身体の動きなど、素人目にもクオリティはかなりのものだとわかる。同社は現在、主にパチンコ・スロットマシーンに内臓する動画やメーカーなどの販促ツールのための3Dグラフィックを制作している。

音楽業界から広告業界へ

会社を設立したのは1985年。当時はグラフィックの制作会社ではなく、ラジオ番組の制作会社だったと、代表の前岡さんが教えてくれた。
「学生時代からスタジオミュージシャンをやっていたこともあり、大学卒業後は流されるまま音楽業界へ。イベンターやCBSソニーを経てラジオ番組の制作会社を設立しました。そのとき、番組のオープンニングやエンディングに使うジングルを作るために初めてmacに触れたんです。まだデジタルなんて普及してなくてテープに録音していた時代でしたから、音楽をデータ化すること自体が斬新だったと思います。その後も、CDのセールスランキングを出すシステムを作ったりしていたら、アパレルメーカーにCD-ROMを使ったデジタルカタログの制作を依頼されて。それからですね。マルチメディアの時代がやってくると確信して、グラフィック専門にシフトしていったのは」

マルチメディアの伝道師

パソコンが普及しはじめていたとはいえ、インターネットは黎明期。同社が手がける音楽・動画コンテンツに対応するメディアはCD-ROMしかなかった。
「ところが、CD-ROMなんて言ってもわかってもらえない。プレゼンに参加するたびにでっかいパソコンを持ち込んで、CD-ROMとは何か、マルチメディアとは何かということから説明しないといけなかったので大変でしたね」

それから2年ほど経って、ようやく時代が追いつく。誰もがマルチメディアの将来性に気づき、こぞって新しい技術に手をのばした。前岡さんの出番だ。顧客向けの販促CD-ROMに社員教育のCD-ROM…。まだ大阪に本社機能を置いていた大手企業から行政まで、さまざまなクライアントからの依頼が舞い込んだ。その頃、ウェブ制作の案件も飛躍的に増えはじめる。デザインやグラフィックはもちろん、システム構築も社内で手がけられるのが同社の強みだった。

マルチメディアは場所を問わない

しかし、状況は数年でガラリと変わった。まず、平面のグラフィックデザイナーがウェブに進出することにより、仕事の単価が急落した。さらに大手企業が揃って本社機能を東京へ移し、関西のマーケットは縮小するばかり。そんななか前岡さんは動かなかった。東京でも大阪でもなく、世界を見たい。マルチメディアは場所を問わないと信じているのだ。だから毎年アメリカまで足を運んで世界規模のCG技術展に出展しているし、世界のクリエイターが集まる3Dグラフィックサイトにも作品を投稿している。また、「ドットコムサイトを持つからには、海外を意識しないといけない」と、自社の公式HPには英語のテキストしか載せていない。実際、HPを見たアメリカの企業からWeb制作の仕事を依頼されたこともある。

もっともっと、新しいサービスを

この数年は発展途上にあったパチンコ業界に着目し、3Dグラフィックを提供しながら業界の成長を見守ってきた。いつも時代を読んできた前岡さんの頭の中は、新しいアイデアでいっぱいだ。
「音楽や映画をダウンロードするとき、現状は音楽ならライナーノーツや歌詞、映画ならサブタイトルやキャストといった本編以外の情報は引っ張ってこれないでしょ。実店舗でレンタルするより高いのに、少し損した気分になる。だから、パッケージごとダウンロードできるサービスがあればうれしいと思うんですよね。どうせなら予約機能やニュース配信機能も付けて、日本の場合は携帯電話を絡めて……」と、楽しそうに話し出したら止まらない。目下、いつくかの新しいサービスをパートナー企業に提案中なのだとか。きっと前岡さんは今も、時代のはるか彼方を見ているのだ。
「僕らが作ってる3Dグラフィックだって、商品としてウェブサイトからダウンロードできるような仕掛けを作れるかもしれない。もっともっと新しいサービスを発信していかなければいけないと感じてるんです。将来的にはグラフィック作品の自社レーベルのようなものが作れたらおもしろいですね」

公開日:2008年04月01日(火)
取材・文:岸良 ゆか氏