映像の「制作」と「技術」を橋渡し
桑野 和之氏:(株)マグネット

テレビや映画業界の制作現場は分業制が確立していて、一本の映像を作るのにも、企画、編集、映像、音声、照明など、それぞれが独立して機能しています。それらは大まかに「制作」と「技術」に大別され、ソフトとハードの関係にあります。そんな2つの機能を併せ持つのが、天六にある映像編集会社「マグネット」。代表取締役の桑野さんは、企画という制作の最前線で活躍するクリエイターであり、映像・放送機器の技術系分野のプロフェッショナルでもあります。分業制が当たり前の業界にあって、各々の分野を機能的に融合させています。

技術の進化が新しい需要を作る

「これまではテレビ制作にもフォーマットのようなものがあって、それに準じて作っていれば良かったのですが、最近はハイビジョンだ、ネット放送だ、LEDビジョンだと、アウトプットが多様化して複雑になっています」。例えば、インターネット向けのVTRを作るとして、ではどんな機材を使うと効率が良く美しい画像を再現できるのかとなれば、分業制ではわからないことも。「そういう企画ならこの技術で、逆に、こういう機材を使えばこんなことができますよ、というのを提案させていただくのがマグネットの仕事です」。

学園祭プロデューサーからテレビのディレクターに

桑野さんがこの道に入ったのは、大学時代に学園祭実行委員として活動していたことにさかのぼります。そこは、部活として4年間、学園祭の企画や交渉、折衝をするところ。年に一度の学園祭を一年かけて創り上げていく中で、桑野さんは主にステージイベントを担当されていました。各部の発表の場として企画を立てたり、出演者の調整、プログラムの編成やタイムスケジュールを作ったりなどプロデューサー的な役割です。

そんな活動が楽しく、テレビ局の番組を作る映像制作会社に就職されました。そこで吉本系の番組やテレビショッピングなどの番組作りに2年半ほど携わり、スキルを身に付けました。

制作系の会社が技術系の会社を設立

その後、中崎町にあるビーワイルドという映像制作会社に転職。そこが新たに技術分野の部署を立ち上げることになり、一部署とするより別会社にした方が良いという経営的判断から、関連会社として2005年に設立されたのがマグネットです。

「技術を柱にしている会社ですが、私自身は演出や制作にたずさわっていました。技術と制作の橋渡しができるのでは」と、業界の新しいポジションを模索しながら事業を展開。現在はテレビCMや番組など映像関係の制作をする一方、放送機材のレンタルやシステム設計の事業も手がけておられます。

映像の可能性はあちこちに

最近は放送以外でも映像を使いたいという需要が増えているとか。「テレビCMの出稿とまで行かなくとも、ネットの動画でこんなコンテンツを作りませんか、販促用のDVDを作りませんかなどの提案はできます。くどくど言葉で説明するより映像を見ていただいた方が早い、という場合はたくさんありますから」。

テレビやネットはもちろん、街頭のLEDビジョンや電車のテレビ型モニター、スーパーマーケットの陳列棚にあるプロモーション用のミニ画面など、生活の身近なシーンで様々な映像が使われています。「これからはワンセグの時代ですし、映像を使ったいろいろな提案ができればと思います」と、映像の可能性はさらに広がる予感に満ちています。

放送から、映像以外のジャンルにも

桑野さんが今やりたいことは「携帯電話での短編ドラマのコンテンツ作り」。映像とは違う分野への進出も計画中。「ずっと映像を作ってきましたが、音づくりも経験してきました。映像のない、音だけで想像をかき立てるドラマもおもしろいな、と思っています」と、これまで培ったノウハウを生かして新たなジャンルの開拓を目指しておられます。

Webの「よろず相談」はどこへ?

しかし、映像は得意ですが、「Web系は不得手」というのが目下の悩み。パートナー探しも桑野さんの仕事です。「実験的にこんなのをやってみたい、という相談ができるところがまだ少ないのが悩みです。仕事になる前に、こんなのできる? いくらぐらいでできる? というのを軽く聞ける人が欲しいですね」。Web業界も放送業界と同じく分業制で、分野外の者にはわからないことが多くあるようです。

コンマ1秒の編集が気になるクリエイター

経営者でありながら、本来はクリエイターの桑野さん。映像クリエイターとしては「観ている人が気持ち良いかどうか」にこだわります。「ストーリーの善し悪しもありますが、引き込まれて観てしまうのはカットのつなぎ方や長さの巧さも関係します。CMとなれば15秒しかないわけで、切り替えが命というところがあります。0.1秒の差でも気持ちいい、悪いの差が出てきます」。家庭でテレビを観ていても、「長すぎ!」とつっこんだり、職業的な目で見てしまうとか。

テレビの番組やCMのほか、ネットの動画やワンセグ、プロモーションビデオ、携帯コンテンツなどなど、メディアは違っても情報を編集して届けるという根っこは同じ。桑野さんはいろんなメディアの橋渡しを考えておられるようでした。

公開日:2008年03月24日(月)
取材・文:福 信行氏・真柴 マキ氏