描くコトが、楽しい
福嶋 正博氏:illustration S P I C E

福嶋的セカンドライフ


事務所にお邪魔し、挨拶が終わるや否や「セカンドライフってご存知ですか?」と福嶋さん。のっけから質問されてしまった。本来ならば、こちらから話しを切り出すところだが、つい先日、仕事でセカンドライフのプロモーションを企画していた私は、つい、話しに乗ってしまい「知ってますよぉ」と答えてしまった。そこからセカンドライフの話題で持ちきりだ。ここ1年くらいセカンドライフにハマっているという福嶋氏は、セカンドライフワールドについて、色々語ってくれた。ロスの大学に通う娘さんとセカンドライフ内で、デートしている話しや英会話教室に通っている話し、バーチャル釣り堀を運営している会社の話しなど、その世界観を楽しくお話ししてくれました。その中でも印象的だったのは、やはり「絵」について語ってくれたとき。「ここには、色んな画廊が存在するんです。中でもこのフランス人がやっている画廊がなかなか面白くって。結構レベルも高いんですよ」とバーチャル画廊内部を歩きながら、説明してくれた。なるほど、日本に居ながらにしてグローバルな作品に触れられるのは、面白いものだと関心してしまいました。「私もこういうバーチャル展みたいなの出来ないかな?」とぽつり。

色んな可能性を秘めた新しい媒体に、しばし二人で意見交換が続く....

この界隈で22年

1985年にイラストレーションスパイスを始めた福嶋氏。前身はグラフィックデザインの会社で2社にお世話になり、もともと絵を描くのが好きでイラストレーターに転身したという。3度ほど引っ越しをし、現在の事務所になってから12年目。この界隈にずっと身を置いてきたけど、ずいぶん変わりましたね。と昔の話しをしてくれました。アナログ時代の筆やペンを使ったお仕事の話しを伺うと、今と全く違ったプロセスで仕事が成り立っていたことを再認識させられた。得にエアブラシで描いていた作品は、ものすごく計画的で慎重なプロセスで作品が出来上がっていく。そのころ描いた作品「ドギーマン」のキャラクターを紹介してくれた。今でこそ3DになってCMに登場しているが、福嶋氏が描いたあの「ドギー」は、今もなお、愛されるキャラクターとして存在している。イラストの力って凄いと感じた。

描くコト。が楽しい。

そんな彼の作品を見ていると、さまざまなタッチが存在する。テクニカルなイラストから、アンニュイなイラスト、キッチュなイラストまで、要望に応じて自由自在といったところだ。タッチの確立や得意分野の確立は、イラストを描く人にとって、いつも付きまとう課題であり、差別化なのでは?と直撃してみた。イラストレーターにとって、こだわりの作風や技法など、いろんな個性があると思うけど、私の場合は「イラスト」そのものが好きなんです。と全く屈託がない。続いて、「音楽に例えると、演歌からクラシックまで。いい物はいいと思うんです。」と、この世界で20年以上イラストを描いてきた彼の言葉には、ある種の重みを感じた。

企画から携わるイラストが描きたい。


ゴール地点が見えている広告の仕事が中心になって、少し寂しいと語る福嶋氏。クライアントが望むどんな要望であろうと、希な才能で答えてしまう彼らしい悩みかもしれない。アートディレクターがタッチまで決めてしまうのではなく、その広告にぴったりあった表現をイラストレーターから提案したり、小説や出版物に使うイラストなど、内容とその世界観をつかんだ上で表現したり。今後は、企画から参加できるような仕事を増やしていきたいと話してくれました。もともとデザイナーだった彼らしい意見だ。

そんな彼の将来の夢は、やはり納得の個展を開きたいということだ。何度か個展を経験しているが、まだまだ納得は出来ていないそうだ。それが出来れば隠居して、趣味の淡彩画を描きながらスケッチ旅行にでも行きたいと語る。そんな彼の作品は、広告分野にほんのちょっぴり芸術のエッセンスを落とすような洒落た大人のセンスを感じる。広告イラストレーターとしての福嶋氏と、イラストの表現力を追求するクリエイターとしての福嶋氏。隠居したいなんて冗談めいたことを仰るが、まだまだ先の様な気がするのは、私だけだろうか。今後もますますのご活躍を期待したい。

公開日:2008年03月11日(火)
取材・文:廣瀬 圭治氏