企画・デザインもできる、みんなを幸せにするイラストレーター。それが「HAPPY CREATOR」
たかいよしかず氏:(株)京田クリエーション

明治「マーブルチョコ」の「マーブルわんちゃん」、西宮観光キャラの「みやたん」など、多くのキャラクターデザインを手がけるとともに、イラストレーター、絵本作家としても活躍する、たかいよしかず氏。代表を務める「京田クリエーション」は、キャラクター、イラスト、パンフレット、製品アイデアなど、あらゆるデザインを創造するクリエイター集団であり、「面白い、楽しい」を追求し続けている。自身を「HAPPY CREATOR(ハッピークリエイター)」と称するたかい氏に、これまでの道のりから創作の秘訣など、たっぷりと語っていただいた。

子ども時代に夢中になった
「好きなこと」を手放さない。

すべての原点は幼少期にあり。純粋に好きなもの、熱中できたものが自分をつくる。たかいよしかず氏のクリエイター人生も、子ども時代に好きだったことの延長線上にあるという。まずは絵を描くこと。ウルトラマンの怪獣が好きで、いつもノートに描いている少年だった。そして読書好き。小学校の高学年の頃からSFやミステリーに夢中になり、読書の楽しみを知る。これは言葉と絵が響き合い、物語の世界を表現する絵本作家としての自分に大きな影響を与えたとか。「図書室に行くと世界が一変する感じ。文章から情景が脳内を駆け巡るのは、このときの経験が大きいですね」。人に喜んでもらう楽しさは、小学校の『学級新聞』に描いた四コママンガが原点。友だちがその漫画を見て笑っているのを見て、人を喜ばせることができるのがすごく嬉しかった。「結局今やってることって、子どものときに好きだったことや興味があったことにつながっているんですよね」
現在のたかい氏を構成する資質がすくすくと育まれた小・中時代を経て、そろそろ人生の岐路がやってくる。大学受験だ。高3の夏休みに新聞で大阪芸術大学の夏期講習の広告を見つけ、講習に通うも成績は「200人中198番」。これはまずいと母に勧められた近所の絵画教室で、ようやく本腰を入れて美大進学を目指し、半年間頑張った結果、合格を勝ち取る。卒業後は、各地の土産物を制作する会社へ。旅行好きだったたかい氏、「企画もできるし、出張と称して全国各地に行ける(笑)。自分のためにある会社だ」と入社。「ここでは、つくったものが売れない辛さを肌で感じました。いかに営業が大変か。だから自分が企画を立てたりイラストを描ける人になったら、営業の人が苦労せずともお店から“売ってください”と言ってもらえるものをつくろうと、そう心に決めたんです」
その会社を半年で辞め、アルバイトをしながら「春になったら東京に出て、イラストレーターになろう」と考えていた頃、京田クリエーションから声がかかった。こちらは学生時代から公募展に出品していた、二科展デザイン部の事務局をしていた会社だ。時はハローキティに代表されるファンシーブーム全盛期。たかい氏は文具メーカーに出向してキャラクターデザインの企画・進行をすることになる。

教育サービスBaby Kumonの公式キャラクターとなった「くろくまくん」。絵本「おはなし・くろくま」シリーズをはじめ、教育ツール、CMやLINEスタンプまで幅広く展開されている。

自分の「立ち位置」を意識する
客観的な視線を持ち続けること。

たかい氏は有言実行の人だ。「自分はさぼりがちなタイプなんです。でも宣言してしまえばやらざる得なくなるでしょ。プレッシャーかけて自分を追い込むんです」。会社に入ってからもすぐに「個展をする!」と宣言していたが、仕事が面白くて作品を描く時間がなかった。ファンシーブームも終わり、仕事の内容もカタログ制作などに変わった頃ようやく、ハーバーランドにあるDUOギャラリーで、絵画塾時代の先輩と2人展を開催。ちょうどハーバーランドができたばかりで多くの人に見てもらえたのが刺激になり、次の年からは個展開催のために、仕事しながら作品を描き続けた。さらに貯金をはたいて、初めての作品集『ネコダルマン ファンタスティックワールド』を自費出版する。この作品集が次の仕事を運んできた。まずは明治製菓の「マーブルわんちゃん」のキャラクターデザインに選ばれ、さらに『怪談レストラン』シリーズの挿絵と装丁を依頼される。「この本が松谷みよ子さんの文庫にあり、子どもが笑って読んでいたのを編集の人が見られて」。これがヒットし、50冊を超えるロングセラーとなり、アニメ化や実写映画化もされた。たかい氏の肩書はイラストレーターでもデザイナーでも絵本作家でもなく「HAPPY CREATOR」だ。楽しそうなこと、面白そうなことは何でやりたいと挑戦していくうちにある時、自分の仕事がイラストレーターの領域を超えていると感じた。一時期は「ライフデザイナー」と名乗っていたが、10年ほど前からこの肩書に。描いた絵を通して、みんなに幸せを届ける。彼の仕事をひとことで物語るのに、こんなふさわしい名称はないだろう。「意識としては半分デザイナーで半分が絵本作家、イラストレーターとしての自分を客観視する、デザイナーやプランナーとしての視線もあり、自分のなかでバランスを取っている感じですね」

日本の民芸品の招き猫とダルマ、ふたつの縁起物を合体させた「ネコダルマン」。「好きなモノを合体させたキャラクターは、ほかにも結構あるのですが、これも振り返ると、昔の仮面ライダーの怪人とかって合体キャラだったことからきてるのかも(笑)」

まずは「キャラクターありき」、
世界観が確立していれば、いくらでも展開できる。

絵が上手い子というのはクラスに必ず一人はいる。みんなから「これ描いて、あれ描いて」と頼まれる人気者だ。たかい氏もそんな子どもだったのかと思いきや、さにあらず。逆に頼む方だった。「ウルトラマンの怪獣が好きで、友だちに描いてもらったら自分より上手い。幼稚園の時、友だちが描いた絵は今も脳裏に焼きついている。この子には勝てないなと思ったんです」。意外にも挫折からのスタート。この時の経験は、たかい氏に「相対化して自分の立ち位置を見定める」という考え方を植えつけた。「大学入試の時も会社に入ってからも、自分より上手い人が山のようにいるのはわかっていた。そういう人と自分は何が違うのか、どこを攻めれば自分の絵がつくれるのかはつねに考えてましたね」。自分の立ち位置を見極めることが、創作の原動力だという。
そこから「おちゃらけたようなギャグっぽい、おもしろキャラクター」に、自分の道を見出した。「このあいだ、引き出しから30年ほど前のノートが出てきたんです。見ると好きな色とか、今とあまり変わっていない(笑)」。たかい氏の作風を代表するのが「ネコダルマン」だ。ある時、アニメ雑誌の付録に目が止まった。それは映画製作よりずっと以前に宮崎駿氏が描いた、『となりのトトロ』のキャラクタースケッチの絵はがきだった。それを見た時、「自分もこんな個性を持つキャラクターをつくりたい」という想いに駆り立てられた。
そこでダルマと招き猫、ふたつの縁起物を合体させた世界で一番おめでたいキャラクター、として考案されたのが「ネコダルマン」。ここから次々と人気キャラクターが生みだされていく。絵本にしても、アニメや漫画やゲームにしても、企画を考えるときはキャラクターありきだという。「キャラクターをつくることは、世界観をつくること。そのキャラクターがどんな子で、どんな行動をするのか、ある程度性格づけをしたキャラクターがあれば、ぼくが考えなくてもキャラクターが勝手に動いてくれます。そしたら映像、コミック、アパレル、音楽、ゆるキャラ、商品と、なんにでも展開できますから」


京田クリエーションに入社した頃からアイデアを描きためたスケッチブックは、270冊を超える。

いいものを見ないと、いいものはつくれない。
先輩から受けたものを後輩につないでいきたい。

先ほど「自分の立ち位置を考えることが原動力」と書いたが、もうひとつの原動力はお客さんの声だ。DUOギャラリーで個展をスタートさせて10年経った時、ひと区切りしようかという思いがよぎった。しかし小学生だった子どもが、大学生や社会人になっても来てくれているのを見て思いとどまる。「自分が描くものを楽しみにしている人がいるうちは、辞めたらダメだと思いました」。そしてもうひとつ。「大学時代に憧れていたイラストレーターのサイン会に行って、作品を見てくださいとお願いしたんです。作品を1日預けて翌日うかがうと、ちゃんと感想を言ってもらえて、とても感激したんですよ。もし自分が有名になれたら、そうやって先輩から受けた恩を後輩に返していきたいと強く思ったんです。それは今でも変わらないですね」
この仕事を「絶対、天職だと思う。辞めたいと思ったことはない」と語る、たかい氏。「なぜぼくがここまで来れたかというと、途中で辞めなかったから。それだけです」。クリエイターとして、会社の代表として多忙を極めるが、「いいものを見ないと、いいものはつくれない」とギャラリー巡りに映画鑑賞、と今も貪欲に吸収することを続けている。「会社に入った頃は先輩がすごい人ばかりだったから、先輩がライバルだと思って頑張ってきた。その方々がいなくなったときには、ライバルを外に探そうと思って、ギャラリーをまわった。ぼくは自分の好きな絵を描いている人は、全員ライバルだと思っています。それと今は素晴らしいクリエイターが揃っているので、社内の後輩がライバル。そういう状況でも社長として一番前を走っていないとダメ。まだまだやりたいことはたくさんあります。アニメや映画もつくってみたいですし」。描いたものを通して人を楽しませ、元気にさせる。そんなたかい氏の、HAPPY CREATORとしての道はまだまだ続く。

2016年4月に刊行された『ナゾのいきものUMAをさがせ!! せかいいっしゅうへん』は、UMA(未確認生物)さがしが楽しめる絵さがし本。今夏この本から西宮、宝塚、芦屋にまたがるスタンプラリーが展開された。

公開日:2016年11月29日(火)
取材・文:町田佳子 町田佳子氏
取材班:yellowgroove サトウノリコ*氏、香工房 藤井香氏