お客さんの『これスゲー!』が聞きたくて
西村 雄樹氏:グラヌーヴ

会社の枠組みを越えて、つねに新しい提案を

西村氏
西村 雄樹さん

この8月に事務所を構え、GRANOUV(グラヌーヴ)の名前で新たに活動を始めた西村さん。遊び心あふれる事務所で、まずはフリーランスの道を選んだ理由を伺ってみました。すると返ってきたのが、
「突き詰めると“デザインが好きだから”ですね」。
意外とシンプルなお返事でした。では、その真意は?
「デザイン会社には、それぞれ会社独自のカラーや枠組みがありますよね。エディトリアルな仕事が大半だとか、一つのクライアントの仕事にひたすら取り組んでるとか。でも、僕は1人のデザイナーとして、それだけではもの足りなかった。会社の枠組みを越えて、自分のデザインを試したかったんです」。
だから、フリーランス。西村さんの“デザインが好きだから”という言葉には、クリエイティブに対する自負と自覚がにじんでいます。
「他の人や昔の自分にできる仕事を繰り返していても、クリエイターは成長できないと思うんです。この先もデザイナーとして働くためにも、新しいことを意識してやり続けないと」。

「無難な感じ」に終わらせない努力

作品
化粧品やフレグランスの
パッケージデザインも
作品

このクリエイティブに真っ向勝負なスタンスは、社名において明確に表現されています。
「GRANOUVは、グラフィックとヌーボー(新しい)を掛け合わせた造語です。グラフィックの新たなアプローチをどんどん提案して、クライアントに“新たな視覚体験”を味わせたいという思いを込めました。裏を返せば『これスゲー!』ってひと言を聞きたいだけですね(笑)」。
たとえば西村さんの作品集の前半には、意匠を凝らしたロゴデザインがいくつもならんでいます。この一つのロゴが採用されるまで、西村さんは何案くらい考えるのでしょう。
「ブランドロゴのプレゼンだったら、ロゴマークを30案は考えます。ロゴタイプも同じくらい作って、そのかけ合わせを合計100案くらい提出する。クライアントのニーズを満たした上で、予想をいい方向に裏切るアイデアを見せるようにしてます」。
なるほど、社名にたがわぬ徹底した仕事です。でも、クリエイティブに理解のあるクライアントの場合はいいですけど、時には『もっと無難な感じに仕上げて』なんて言われること、ありませんか?
「『無難』を求められた時も、話を前向きに運ぶ方法はまだあると思うんです。採否を決めるキーマンが誰なのか、クライアントのホンネはどこにあるのか。コミュニケーションを通してポイントが見えてきたら、次の機会にもっと的確なデザインを提案できます。そこまでやっておけば、その時かたちにならなくても、何かが次のステップにつながっていきますね」。

自分のクリエイティブを周囲に発信しよう

西村氏

「自分のまったく知らない世界に飛び込んでみたい」という好奇心から、西村さんは高校卒業後に単身アメリカに渡り、ボストンでグラフィックデザインを専攻しました。そこでさまざまな刺激を受ける中でも、デザインに対する日米の意識の違いは、西村さんに大きな影響を与えたといいます。
「日本人は目立つことを避け、“出る杭は打たれる”と考えがちなところがあります。しかしアメリカでは逆に“出る杭は後押しされる”のが大前提。文化背景が異なる人間同士が、自分にはない発想や表現方法を認め合い、面白がるんです。だから、自分の作品を周囲に発信することに抵抗がないし、規模の大小を問わずクリエイター同士の交流は盛んですね」。
それに比べると、日本ではクリエイターが仕事や損得抜きで作品を評価しあう機会は、あまりないかもしれません。
「『デザインは受注型の仕事だから、新しいことをするチャンスがなかなかない』ってグチる人もたまにいます。でもそういう人ほど、自分から何かを発信する努力をしていない。それは違うやろ、って思うんですよ。人をあっといわせるような作品やアイデアを、自分から周囲に発表すればいい。発信し続けていれば、一緒におもしろがってくれる仲間やクリエイティブを競い合うライバルが集まって、新しいことができるチャンスも生まれてくるはずです」。

この秋、メビックで展示イベント開催!

準備中

実はこの西村さんたちが中心となって、この10月、街のクリエイターが作品を発表しあうイベント『おてがみten』をメビックで開催することになりました。手紙というツールの良さを生かしつつ、今までにないアイデアやデザインを盛り込んだ数々の「おたより」が展示される予定です。参加者は大阪市北区のクリエイター限定で、グラフィックデザイナーはもちろん、イラストレーターや空間デザイナー、フォトグラファーなど実に多彩な顔ぶれが集まっています。
「事務所を立ち上げたばかりなのに、本業以外にイベントの準備、自分の作品づくりが重なって、今までの人生で一番ハードな毎日を過ごしてます。いやほんまに(笑)。でも、この企画に乗って一緒に動き出したみんながいるから、何がなんでも成功させますよ」。
GRANOUV西村さんの一番新しい挑戦『おてがみten』は、誰でもメビックで体験できます。10月の扇町を、ぜひお楽しみに。

川崎氏

公開日:2007年09月11日(火)
取材・文:株式会社ゼロ・プランニング 川崎 圭氏