次々と新しいアイデアが飛び出す
“4次元ポケット”のような存在めざして
泉大介氏:ワンダーポケット

泉大介氏

家具などプロダクトデザインから店舗内装、グラフィックデザインまで幅広く手がける、ワンダーポケット代表の泉大介さん。「世の中が求めるもの」を鋭く嗅ぎとるマーケット感覚と、旺盛な好奇心。そしてやりたいことを有言実行で叶えずにはいられない行動力。右脳と左脳がフルに交流しあうような思考を武器に、マルチな活動を展開する泉さんのこれまでの道のりと、いま思い描く未来図とは。

「作りたいもの」と「売れるもの」の狭間で悩んだ日々

大学でプロダクトデザインを専攻していた頃から、独立起業の志を持っていたという泉さん。卒業後は、独立に必要なビジネススキルを体得すべく、家具メーカーのインハウスデザイナーとしてキャリアをスタートさせた。コンセプト立案からデザイン、量産体制づくり、海外工場とのやりとりなど、商品誕生に至る一連のプロセスを担当するのはもちろんのこと、商品カタログのディレクション、外装パッケージや取扱説明書の制作、展示会ブースデザインなどの周辺業務まで、一手に引き受けてこなす日々だった。

「でも入社後8年ぐらいは、自分のデザインした家具がことごとく売れなくて、挫折続き(笑)。自分がいいと思うものが、必ずしも消費者が求めるものとは一致しないことを学びました」

「作りたいもの」と「売れるもの」の狭間でモヤモヤしていたこの時期、泉さんはプライベート活動として友人とデザインユニットを結成。「まだ世の中にない新しいアイデアを」との思いを注ぎ込んで制作した器や椅子が、国際的なデザインコンペで見事受賞を果たした。

「仕事ではうまく結果が出せず腐っていた時期でしたが、コンペで認められたことで“デザインで食っていくんだ”という気持ちが固まりました」

友人とのデザインユニットで手がけた作品。蓮の葉を思わせる器や、三方から腰かけられるスツールが、国際デザインコンペで受賞を果たした。

マーケット感覚に裏付けられたデザインへの目覚め

転機は2006年にやってきた。子どもの成長に合わせて自由にレイアウトが組み替えられるようデザインした学習机が大ヒット。翌年以降、競合メーカーもこぞってこのアイデアを取り入れるほど、業界にインパクトを与えた。

泉氏
高校・大学を通じてバンド活動に熱中した音楽好き。

「前年に発表した商品が、競合にコテンパンに負けるという経験をしたんですが、その悔しさで、ものづくりの姿勢が根本からガラッと変わりました。消費者が求めているもの、営業マンが自信を持って売れるものを作ろう、と」

消費者の内面に眠る、まだ顕在化していないニーズを掘り起こし、「そうだ、こういうものが欲しかったんだ!」と気づかせるものづくり。綿密なリサーチとマーケット感覚に裏付けられたデザインへと、泉さん自身の思考が大きく舵を切った。
独立志向を持ちながらも「これまで会社が自分に投資してくれた分を返せるぐらいのヒット作を生み出さずに、辞めるわけにはいかない」という責任感を感じてもいた泉さん。翌年以降も、次々とプロジェクトを成功させていった。

貴重な学びを得た、2年間の飲食店オーナー生活

2011年には、かねてより温めていた飲食店経営の夢を叶えるべく退職。イタリアンバルオーナーへの転身は、周囲をあっと驚かせた。もともと食べることや料理が好きというのもあったが、やはり最大の興味は空間全体のプロデュース。

「仕事を辞める前から、内装を目当てにとにかくいろんな店を見て歩いていました。髪を切りに行くにしても、カットの腕より内装重視で、毎回違うところに行くぐらい」

施工費を抑えるため、内装は家族・親戚・知人、ありとあらゆる人の協力によるDIYで完成させた。店名ネーミングやビジュアルツールのデザインも、もちろん自らの手によるものだ。お客さんと日々向き合い、その反応を肌で感じた2年間は、会社員時代とは違う学びに満ちていたと泉さんは当時を振り返る。ただ同時に、経営者になりきれていないジレンマにもぶつかった。

「自分は本来もっと経営に徹して、多店舗展開に向けて早く次の手を打つべきだったんですが、どっぷり現場に入ってしまったんですね。毎日回すのが大変だったのと、僕自身の未熟さもあって…。店のあったエリアが集客力を失っていたことや、料理人が辞めるタイミングが重なったこともあって、1店舗をこのまま続けていても成長はないなと思い、店を閉めることにしました」

ちょうど「またデザインがしたい」という思いが、内から湧き上がってくるのを抑えきれなくなっていた時でもあった。


自らデザイン・設計を手がけたイタリアンバル「ウタゲノム」(本町)。

衣食住を包括するライフスタイルストアづくりが夢

そして2014年、自らのデザイン事務所ワンダーポケットを設立。社名には「ドラえもんの4次元ポケットのように、次々とワクワクが飛び出す場でありたい」との思いを込めた。会社員時代に鍛えられた、企画立案から販促までトータルに手がける力と、「売れ筋」をつかむ嗅覚。そして飲食店経営を通じて強まった「ビジネスとして一つ上のステップをめざしたい」というビジョン。そこに持ち前の行動力が加わって、日々多忙に活躍中だ。

「仕事を受けた以上、納得してもらえるまでやりたいので、クライアントさんとは密なコミュニケーションを心がけていますし、気に入らない時はそうはっきり言ってくださいとお願いしているんです。ただし、クライアントさんを満足させることがゴールではなく、実際にその先にいるお客さんの心に刺さることが一番大事なので、そこはちゃんと伝えるようにしています」

アイデアを発想する時は、頭の中で異質なもの同士を足し算したり、逆に複雑になったものから何かを引き算したりして、そこで起きる化学変化をあれこれ想像してみる。そんな発想のヒントや手がかりを求めて、専門分野外の、たとえば女性もののアパレルやコスメ、雑貨のトレンドにも興味津々だという。
今後はクライアントワークに加え、自社ブランドのものづくりにも両輪で取り組んでいきたいという泉さん。夢は衣食住を包括するようなライフスタイルストアをつくること。今が何度目かの転機だと感じているそうだ。はたから見る者の目には、前のめりな攻めの姿勢に映るが、本人は「まだまだスピード感が足りない」と首を横に振る。

「実現させたいことは人に言って回って、後戻りできないようにするんです。自分では、今はまだ助走をしてる感じで、早く離陸したいってウズウズしてます(笑)」

ワクワクするようなニュースが、ワンダーポケットから届く日も遠くなさそうだ。

公開日:2015年07月07日(火)
取材・文:クイール 松本幸氏
取材班:株式会社グライド 小久保あきと氏、株式会社PRリンク 土井未央氏、有限会社ブルーム 松木のんこ氏