めざすは、欧州のデザイン・コンサルティング集団
横田 雅章氏:(株)バスコス

斜め上の交流

バスコス事務所

「一見、こわもて。その実、気さくでおもしろい人がいる」とのふれこみで取材に伺ったのは、大阪、東京を拠点に、パリ、シンガポールにもパートナーオフィスを持つ企画・デザイン会社〈バスコス〉。お目当ては、代表取締役専務にしてチーフディレクターの横田さん。なごやかな笑顔と穏やかな声に迎えられ「こわもてちゃうやーん」と、ほっとしたところで取材はスタート。そこを明かしていただいていいのですか?と思うほど、目からウロコなマネジメント・ノウハウがぎっしり。

まずは、企業の方へのセミナー講師までこなす経験値も含め、『目線が“斜め上”の人との交流が大切』との言。一瞬ピンとこない私に「プライベートの友人は“横”、会社の上司は“上”。ではなくて異業種の人やまったく関係のない“斜め上”目線の人といかにつながるかですよ」と。自身もそんな交流が仕事上で役立つことも多く「あの人、あんな仕事していたなとか。この商品を取り扱ってもらえるかなとか」、企画のヒントや後押しになっていることを実感。友人たちとのローカルな関係を意識しすぎて視点が偏ってしまうより、「若い人こそもっと外に出て、ジェネラルな視点を持って欲しいですね」と。それは私も同感。今回、井の中から外へでたことで横田さんにお会いできたのだし。

新しい契約方法の試み


横田さん

“斜め上”の交流は、大阪に数ある中小企業へ目を向けはじめた会社の方針ともうまくかみ合い、新たなビジネス関係も生みだしていく。しかし「景気も徐々に回復して企業側も新しいことをしたいという思いがある。でも予算がない」というのがここ大阪の現実。それはまずいと断念してしまえばタダの人。このお話はドロップアウト。その障壁をどう乗り越えるのか…横田さんは考えた「そうか、契約方法を変えればいい」。
他業界ではありでも、終わった仕事への対価が基本のこの業界では珍しい試み。予算がないなら、売れるまで待ちましょう。もしくは分割払いにしましょう的発想で契約を先に交わす。例えば『イニシャルコストを低く抑えて成果報酬契約をするマージン型』、『もう少し長いスパンで企業のブランディングに関わるコンサルフィー型』など、企業の状況に応じた最適プランを提案していく。ここで固定概念を払い、目線を変えた横田さんの戦略が功を奏す結果に。

なくてはならない存在になる

そんな独自の試みは、クリエイティブ面にも及ぶ。7?8年携わっているという海外旅行関連の仕事では、現地ホテルや風景などの写真はすべて〈バスコス〉の自前、クライアントに撮影フィーを一切請求していないとのこと。「写真の所有権をうちにおいて無償で提供している状態です。そうすることで別アングルの写真は他の仕事で使うこともできるし、企業との関係を緊密にすることになりますから」。そこで思わず浮かんだ言葉は“損して得とれ”。『クリエイティブだけにとどまらない、工夫や仕組みを作っていくこと』をつねに考えていますよと。
他にはタイアップ提案した商品の什器を中国で手配したり、航空会社のキャンペーン企画では、工場出荷ストップ状態だった子どもに大人気のおもちゃを、直接メーカーの社長に話をつけてひっぱってきたり。大手代理店にひけをとらない、いえ、それ以上に柔軟な発想でクライアントにその存在感を示しているよう。

さまざまな能力の集合体


プラダの一連のプロジェクトに携わった建築家レム・コールハースを例にしながら、めざすは『ヨーロッパのデザイン・コンサルティング集団』と次のカタチを語る横田さん。そこにはマーケッターやエディターがいたり、法務に詳しい法律家がいたり。いろいろな専門分野の人が集まり、最適なユニットで企業に対してアプローチしていく。「日本には“畑”意識が強く、ひと方向に偏ってしまいがち。その垣根を取り払っていきたいですね」。人それぞれに能力や性格の違いがあるからこそ面白い。いろいろなコンテンツを持つ人が集まることで、それが強みになっていくのだと。昨年の4月にカメラスタジオも構え、またひとつめざす理想に近づいていく。
最後に、これをフリーランスや起業する人にあてはめると、それは「どれだけ人とつながり、バックにどんな人が控え、どんなユニットが作れるのか」ということと同じですよ。それがその人の全体の能力となるのですと、横田さんは教えてくれた。

公開日:2007年05月24日(木)
取材・文:hi-c 石田 多美氏