クライアントの抽象的なイメージを現実に落とし込むのが僕らの仕事なんです。
藤木 潤一氏:フジキックス

藤木氏

大阪天満宮の南に専用スタジオ「FUJIKIX STUDIO」を構え、ファッション、商品、料理などの撮影から、企業VPやミュージックビデオ、WEB CMといった映像まで幅広く手がけるカメラマンの藤木さん。ボサボサ頭にひげ面、飾り気のない飄々とした語り口とは裏腹に、商業カメラマンとしてクライアントに向き合う真摯な姿勢と、チャーミングな笑顔が魅力の40歳だ。
天井以外はすべて自作という、藤木さんのガーリーで素敵なスタジオを訪ね、カメラに興味を持ったきっかけから、現在の活動や仕事に対する想いなどを伺った。

バスケと筋トレ、絵が趣味だった学生時代

「もともと写真って全然興味なかったんですよ」取材は藤木さんのそんな意外な一言から始まった。高校では剣道部、大学ではバスケと学生時代は体育会系。「写真部の人たちを見て、こいつら暗!きも!ありえへん!って思ってました(笑)。でも実は僕、母親の影響で絵が好きで、バスケとか筋トレをめっちゃしつつ、家では絵も描いてたんです」。体育会系男子としてスポーツで活躍しながらも、自宅では黙々とキャンパスに向かう文化系。そんな二面性を持つちょっと不思議な大学生だった藤木さんにカメラの面白さを教えたのは、普段から趣味の合う友人だった。自由に描ける絵と違い、写真は真実を切り取るだけというイメージだったのが、実は撮る側の意思や想いを表現できるものだと知る。興味を持った藤木さんはさっそくアルバイト代で一眼レフカメラを購入。当時は油絵を描いていたことから、撮ってすぐに現像できるそのスピード感も魅力だった。「絵だと一ヶ月くらい悩んで何度も描き直して、結局気に入らないとかしょっちゅうでしょ。でも写真はすぐにできる。これは手っ取り早いわ〜。俺に合ってる!って(笑)」。

事務所風景

“好きなことなら寝ずに働ける”。
フリーターからカメラの道へ。

高校を卒業後は外大に進み、フリーターに。写真を続けながらもアルバイトとして働く日々が続く。そんなある日、フリーター仲間の友人が就職し、そのときに彼が言った一言が、藤木さんに就職を決意させる。「就職した理由を聞いたらそいつ、“時給はもういやだ”って言ったんですよ(笑)。それを聞いて、“そうだ!ずっと時給は嫌だ!就職しよう”って決めたんです」。
就職するにしても、興味が持てないことは多分できない。でも写真や映像といった好きなことに関わる仕事ならきっと寝ずにやれるはず。そう考え就職先を探し始めたとき、知り合いからカメラアシスタントの仕事を紹介される。カメラマンのアシスタントといえば、安くてキツいが当たり前の世界。怒鳴られることもしょっちゅうだったが、そこは元体育会系の藤木さん。「まったく気にならなかった」と、当時を振り返って笑う。就職したスタジオは通販のカタログ撮影がメインだったため、専門学校や美大で写真を勉強した新卒の社員たちはキツさに加え、描いていた夢との落差でどんどん辞めていったが、藤木さんにとっては見るものすべてが新鮮。短い期間で撮影技術を身につけ、休日には同じビルにあったstudio STRのカメラマン石川氏の元に、半ば押し掛けるようにアシスタントとして通うようになる。それまで淡々と生きてきた藤木さんが、強い意思を持って歩みだした瞬間だった。

取材風景

お客さんが喜んでくれる写真を撮りたい

石川氏に師事して10年。藤木さんは独立を決意する。カメラマンとしてキャリアを積み上げていくなかで、“撮りたいもの”は明確になったのだろうか。「未だに明確ではないですね。撮っていて楽しいとかもまったくない。自分の作品に関しては突き詰めていきますが、基本的にお客さんに満足してもらえるかどうかしか考えてないです。喜んでもらえたら、“あーよかった”って。石川さんの下では技術的なことはもちろん、そんなお客さんとの向き合い方も学んだと思います。“星の数ほどいるカメラマンの中から選んで連絡もらえるってすごいことやで”って、いつも言ってましたね。僕、広告カメラマンの仕事って、お客さんの抽象的なイメージを現実に落とし込むことなんじゃないかと思うんです。だからその場で相手が望むことをぱっと提案ができるスピード感とか勘所は大切にしています」。その一方、「作品」と位置づけるアパレル系の広告写真では、クライアントからの要望やチェックは一切なく、スタイリストとヘアメイク、モデルと共にひとつの世界観を創りあげていく。ギャラは発生しないものの、カメラマン「藤木潤一」のクリエイティブワークのひとつであり、クライアントが藤木さんを知るための重要なポートフォリオになっている。
そして今、新たに取り組んでいる一眼レフカメラでのミュージックビデオやWebサイト用の動画撮影では、“飽きさせないアングル”や“ストーリー性”を追求し、それが写真にもフィードバックされているという。「数十秒のCM、映画なら2時間、飽きさせないってすごい大変なことなんです」。大変、と言いながらも映像の話になると表情が輝く。「そうですね。すごい楽しいです。写真をはじめたくらいのモチベーションかも」そう言ってはにかんだ笑顔が印象的だった。
未知の世界や自分が楽しいと思うことに子供のように夢中になる藤木さん。今後も一つの場所に留まることなく、活動の場を広げて行くだろう。

作品 作品
クリックで拡大

公開日:2014年07月31日(木)
取材・文:N.Plus 和谷 尚美氏
取材班:360 清水 友人氏、HDO/ache design office 山中 広幸氏