主観に捉われないよう、幅広い視野からデザインします
正田勝之氏:(株)モート商品デザイン

正田氏

工業製品、家具、雑貨、パッケージなど幅広い製品を形にしていく、プロダクトデザイン――。株式会社モート商品デザインの代表、正田勝之氏は、自転車、家電製品、オリジナルブランドを幅広く手がけるプロダクトデザイナーとして活躍している。なぜ、正田氏はデザインの道に進んだのか?仕事についたきっかけや魅力、今後の展望などについて話を聞いた。

高校時代に基礎を学び、物をデザインする面白さを知った

京都・伏見工業高校の工業デザイン科で基礎を学び、物をデザインする面白さを知った。
高校卒業後は京都デザイン専門学校に進学、カーデザインを専門にした同校でプロダクトを学んだ後、田中商品デザイン事務所に就職、プロダクトデザイナーとして13年間活動した。
2001年1月に独立し、「株式会社モート商品デザイン」を設立。当初は北堀江に事務所を構え、プロダクトデザイナー2人、グラフィックデザイナー1人の3人でスタート。2012年4月には現在の事務所に拠点を移し、大阪、東京、高知あわせて5人のスタッフと共に運営している。

取材風景
白を貴重としたお洒落な事務所内

見た目の良さだけではなく、商品の位置づけを大切に

手がける商品は、自転車用品、家庭雑貨、お弁当周辺アイテム、家電、スノーボード用品、スポーツ用シューズ……等々、スポーツ用品から日用雑貨に至るまでジャンル問わず多岐にわたる。業務用品の分野でも海外製品の輸入品の影響からか、フォルムにこだわる傾向があり、デザインの需要が出てきたという。
一方、グラフィックデザインの受注も多く、パッケージ、雑誌広告、POP、WEB制作、ロゴマークなども自社で手がけている。
「プロダクトデザイナーというと、“形を作るだけの作業では?”と捉えられがちですが、商品企画から商品デザイン、そこに付随するロゴ、グラフィック、パッケージ、Webサイトまでが揃って、そのプロダクトのコンセプトが表現できると思っています」。
デザインするにあたっては企画段階から携わり、商品のあり方そのもののマーケティングリサーチを行うことから始める。雰囲気や見た目の良さに頼った表面的なグラフィックではなく、その商品が売り場で“どういう位置づけにいることで消費者の手にとってもらえるか”“どうすれば売れるか”を念頭において提案していく。
「メーカーさんとの打ち合わせでは、好みだけで形を決めてもらうのではなく、“なぜこの形なのか?”という趣旨や意図を明確に共有しながら進めていきます。“こっちの方が好みだから”といった主観に偏らないことが大切で、先方の要望を十分に聞いた上で念入りにすり合わせしてから制作するので、相手の求めている世界観とブレることも少ないですね」
緻密なやりとりを重ねることで、“デザインを何パターンも考えてきたのに全部ボツになった”というような無駄を省くことができ、効率的な結果につながる。
「とはいえ、完全な受け身にはならないように心がけています。企業側の技術的な強みや営業的な強みも把握した上で、新しいものをこちらから頻繁に提案していくようにしています」。
常に相手メーカーの担当者よりもそのメーカーのことを懸命に考え、心を込めて提案するのがモート商品デザインの特徴なのだ――と、正田氏は力を込めて語る。

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ジャンル問わず多彩な商品のデザインを手がけている(クリックで拡大)

オリジナルブランド「moca」の全国展開

自転車メーカーとの付き合いは20年以上。この分野専門のデザインに長けている会社は意外と少なく、自転車業界からの依頼は多い。とはいえ、自転車市場はヨーロッパがメインなため、小規模な日本市場において動向を踏まえながら企画する際、自社のブランド力が重要視される。
「デザイン事務所といえば控えめで表に出て行かない傾向がありますが、デザイン事務所としての価値を上げていくためには、もっと自分達の事を知ってもらわないといけない、そんな思いで自分たちのブランドを作りました」。
2010年、オリジナルブランド「moca」を立ち上げる。「モート・オリジナル・サイクル・ アクセサリー」を略し、自転車アイテムをメインに、多機能で洗練されたレザー素材のバッグや小物を揃えている。現在、全国40箇所の雑貨店などで展開し、百貨店の催事にも出展している。
「“moca”の商品は、自転車アイテムからスタートしましたが、今後はジャンルにこだわらず、シンプルでミニマムなアイテムをどんどん生み出していきたい。このブランドが全国の店舗に入り自分たちの事を知ってもらうべく、“モート商品デザイン”の広告塔という位置づけにもなっています。今後は各地方の技術とコラボし、地域性を取り入れた商品も作っていけたら面白いですね」。

商品
洗練されたレザー素材でできた“moca”の小物(クリックで拡大)

人生も“デザイン”すれば、ハッピーに

最近、デザインだけではなく生産手配もしてほしいとの要望も増えてきた。デザインした上で、工場手配から納品まで手がけることがメーカーとの絆を深め、ヒット商品が生まれると、すなわち力強いリピーターとなっていく。
「僕らからすると、メーカーさんは技術を持っているので、デザインを提案するだけで夢のような面白い商品が生まれる可能性があります。だからこそ、その技術を駆使することでより多くのユーザーに向けた商品が作れる、と、こちらから積極的に提案しています」。
おそらく近い将来には国内のみならず、海外との取引も増えてくるだろう。先を見据えてスタッフは英語を習い、貿易会社とのつながりも築き上げている。
「本音はね、何かをきっかけにやっぱりデザインがやりたいんですよ。メーカーさんにプレゼンして新しい商品を作りましょうと提案するのも、結局その商品のデザインをやりたい気持ちが強いからなんです」。
会社としての目標は、これまで得た実績とmocaというツールを武器に、全国各地に拠点を置き、事業展開していくこと。デザイナーたちが様々な土地で活躍していくことを願っている。また、個人としての目標は、“デザインする“という考え方を、もっと一般の人にも広げていくことだと語る。
「僕たちデザイナーの仕事は“回答を導く”ことだと思っています。メーカーに必要とされている物とは何か、この商品で販路を広げたい、新しいユーザー層をつかみたい、ブランドイメージを高めたい、下請け業態から脱却したい……と、物の生まれてくる理由は様々です。提供するためには、数々の問題を解決し、回答を出していかなければなりません。人生に置き換えてみても、同様のことがいえると思います。今起こっている問題を解決し、夢をつかむためにはどのような行動をとればいいのか、目標に向かうには、難問に回答を出していかないと進めない。“デザインする”心で築き上げていくことができたら、みんながハッピーな人生を送れるのではないでしょうか。この考え方は全ての人にとってプラスになると思いますので、できれば義務教育にも取り入れてもらいたい。そういったことを後世に伝えていける自分になりたいですね」。

公開日:2013年10月21日(月)
取材・文:堀内優美 堀内 優美氏
取材班:株式会社PRリンク 神崎 英徳氏、ベルベット・ナンバー 田中 敦士氏、株式会社モグ 藤田 朋氏