クライアントが描く未来図を共有して、ビジュアルに投影。
伊坂謙氏:Ken isaka photography

伊坂氏

人の表情や移り変わる風景の、ほんの一瞬を捉えてさまざまな世界観を表現するフォトグラファー。その作品に込められた鮮烈なメッセージは、ときに見るものの心を掴み、また見たものの記憶にプリントされる。伝えたいことや思いを発信するという目的において、絶大な威力を発揮する写真。それゆえ写真は、ターゲット層に向けて情報を発信したいクライアントにとって、大切な“武器”のひとつになり得ると言える。そんな広告写真の世界に魅せられ、フォトグラファーという職業を選んだ伊坂謙氏。
荒涼とした大地とのコントラストが鮮やかなドレス姿や、繚乱の花畑での幻想的なシーン。かと思えば、眼光の鋭さが際立ったモノトーンのポートレート。独自の感性で被写体のキャラクターを浮かび上がらせ、ストーリーを描き出す。それが伊坂氏の仕事だ。

ビジネスにおける写真の可能性に開眼

伊坂氏がフォトグラファーとして独立したのは2010年のこと。そこに至るまでの経歴は、ちょっと変わっている。高校卒業後に進んだのは美容業界。ヘアサロンに勤務する美容師として6年間働き、所属サロンのトップスタイリストとして活躍した。日々の仕事は多忙で、やりがいもあり、学ぶことも多かったと振り返る。しかし当時、美容業界ではヘアスタイリストが飽和する状況にあって、伊坂氏は自らの将来に展望を見出せずにいた。考えた末に選んだのは、アパレル業への転職。社交ダンスなどをメインに扱うドレスショップで企画から製造・販売までを担当して、インターネット通販のWebショップの運営も任された。
ヘアサロンとアパレル業、一見、畑違いのように思えるが、“お客様を美しく見せる”という点では共通する部分がある。また、いずれも販促のために写真を用いることが多かったことから、自然とカメラマンの仕事に接する機会に恵まれた。
「写真によって商品やショップの印象がガラリと変わり、売り上げが推移するのを目の当たりにしました。そして、写真や映像が果たす役割の大きさを知って、ワクワクしました」。表現することを売り上げにつなげる人との出会いは、伊坂氏に写真のビジネス的な可能性を知らしめてくれた。そこから、自店のWebショップに掲載する写真を自身で撮影するようになり、やがて写真の可能性を追求するようになった。

技術は独学。プロとしての立ち位置を明確に展望を描く

とは言え、写真や映像の技術を学ための専門学校や講座に通うわけでなく、カメラマンに弟子入りするわけでもなく、技術はほぼ独学で習得。
「初めて一眼レフのカメラを買ったのは4年ほど前。自店の商品を撮るためでした。カメラに詳しい知人に操作方法などの指南を受けつつ、やってみたら写真を撮るのが楽しくて。すっかりのめり込んでしまいました」。
そうして、徐々に作品の幅を広げていった。また同時に、かつて身を置いた美容業界へカメラマンとしてアプローチも開始。初めて一眼レフのカメラを手にして1年半ほどを経たころには、自店以外のクライアントから仕事の依頼を受けるようになっていた。やがて少しずつアパレルの仕事の比重を減らし、現在はカメラマンとして撮影の仕事のみを受けるようになった。最近は動画の撮影を依頼されることも増えてきた。
「当初、撮影の仕事だけで収入を得られるのかどうか、正直、少しだけ不安はありました。でも、収入が足りなければアルバイトでもして補えばいいか、と軽い気持ちで(笑)。ヘアサロンや自店以外のWebショップなど、定期的に仕事を依頼してくれるクライアントも増えてきて、ある程度、収入の見込みをつけられるようになって。さあ、これから頑張って仕事をこなしていこう。そんな明るい展望が広がっています」。独立からの着実な歩みに自信を見せる。

作品作品

目的と方向性を明確に、価値ある仕事に取り組む

伊坂氏の仕事に対する自信には、裏打ちがある。それは、自らの果たす役割についての明確なビジョンだ。
「写真や映像は単にイメージの表現だけでなく、クライアントにとっては売り上げを伸ばすことが目的。どんな事業展開で売り上げをアップするのか、また将来的に目指すビジョンはどんなものか。共有することで、どんなビジュアルを表現すれば良いのか、おのずと見えてきます」。オーダーどおりの撮影をこなすだけでなく、クライアントの将来や目標を見据えたうえで、ともに広告物たるビジュアルをつくりあげていこう。このスタンスこそが、クライアントの信頼を獲得して、より価値のある制作物としての写真・映像を生み出しているのだ。
「僕の役割りは素材としての写真や映像を撮影するだけでなく、それをどう活かすか。それにはクライアントの思いを引き出し、いかに投影するかを考えることが大切」と伊坂氏。だからこそ、撮影に至るまでのプロセスを丁寧に、また制作物が完成した後の結果も重視すると言う。
「クライアントはコストをかけて広告を打ち出すのだから、それに対しての効果を得たいと考えるのは当たり前。それゆえ費用対効果を明確化して、納得してもらうことを怠りたくない。これは費用に対しての責任です。クライアントに写真を活用する意義を認識してもらうことで、より強い信頼関係を築き上げ、お互いの未来をつくることができるはず」。
伊坂氏の目指すのは、“上手なだけの写真”ではなく“付加価値の高い写真”だ。それゆえ、クライアントと同じ立ち位置での提案型のものづくりに取り組み、高いレベルでのアプローチを行っている。
「自分の撮った写真を有効活用してもらうのではなく、有効活用できる方向を考え、それを写真や映像として表現したい」。
そして、表現することで人の役に立つことで、自らの存在意義を高めていきたいとも言う。

作品

公開日:2013年09月13日(金)
取材・文:植田 唯起子氏
取材班:ベルベット・ナンバー 田中 敦士氏