デザインの力で、どんなものでもおもしろく魅せる。
佐藤 健氏:(有)デイズ

佐藤氏

シンプルなのにガツンとくるひと言が響いたり、旧知の商品なのに意外な一面を見せられたり。街角に掲げられた一枚のポスターに視線を奪われ、ときにそのメッセージが強く心に残ることがある。アートディレクターとして活躍する佐藤健さんの作品が、まさにそれ。表層のビジュアルに留まらない力強さが、濃厚なメッセージとなり記憶にプリントされる。

自分の好きなことで生きると目標設定

3人兄弟の次男坊として育った佐藤さんは、子どものころから自立心が強かったと言う。
「いずれ自分は家を出て独立する。そうなったときは絶対、自分の好きなことで食べていこうと思ってました」と少年時代を振り返る。とは言え、確固たる目標があったわけでもなく、ただ何となく将来についての展望を膨らませていた。転機は自らの進路について考えはじめた高校生のころ。
「自分の好きなこと、得意なことをあらためて考えたときに思いついたのが、絵を描くこと。学校の授業で好きだったことや展覧会で賞を貰ったりしたこともあって、少しは自信があったんでしょうね。美術の道に進むことを決めました」。
ところが当時、担任だった美術の先生から、芸術で収入を得ることは容易ではないから、と勧められたのがグラフィックデザイナーだった。「グラフィックデザイナーがなんたるかも知らないまま、仕事にできるならと思い、とにかく東京の美大を受験しました」。時代は有名アートディレクターやグラフィックデザイナー、コピーライターらの活躍が注目を集めていたころ。

仕事するなら、人間がパワフルで個性的な関西で

「関西の人は独創的でパワフル、おもしろい。どうせ仕事するなら、そういうパワーのある人が集まる場所でやりたい。自分に実力さえあれば、どこで仕事をやろうと変わらない」。そう考えて、ツテもなく、就職も決めずに大阪に転居。大胆な行動ながら、自分の力で生きていくという若い力がみなぎっていたそう。そして持ち前の引き寄せ力で広告制作会社に就職。グラフィックデザイナーとしての道を歩み始めた。
「まだ駆け出しでしたが、少しでも自分のたずさわった仕事がメディアに載り、世に出ているのを見て、自分もいよいよデザイナーの端くれになったんだ、と一気にテンションが上がりました」と当時を振り返る。また、大きな案件を任されるようになってからも、クライアントからの依頼をそのまま形にするのではなく、自分なりに考え、アイデアを膨らませるのを楽しみながらいろんな方向で提案。いかなる変化球でもクリーンヒットにしてしまう。
「どんな案件がきても自分からどんどん提案していかないと、自分はその仕事に必要とされない。そんな思いでつねにチャレンジしていました。でもそのチャレンジもまた、ワクワクとして楽しい」。その感覚がやがて、佐藤さんの仕事スタイルそのものとなる。

コミュニケーションでメッセージの根っこを捕まえる

広告制作会社での経験を買われて転職した広告代理店でも、同じくクリエイティブワークを担当。制作会社とはまた違ったスケールの大きな案件も任され、仕事の幅も広がった。
「任された仕事は、どんな仕事でもおもしろくするのが自分。予算や時間など、決められた枠の中でいかにおもしろいものにするか、どう魅せるか。それを考え、表現するのがクリエイティブワークの醍醐味。型どおりに淡々とこなすのでなく、その型枠を越えた新たな提案をすることで、クライアントも喜んでくれました」。世の中にどう商品をアピールするのか。クライアントに納得してもらえる提案をするために、ゼロから世界観を作り出していく。小手先だけのおしゃれっぽさや感覚だけでは、クライアントの求める結果を得ることができない。ひとつの商品を売るためには、ときに企業のブランドバリューを高める提案を行うこともある。それゆえ、感覚的なクリエイティビティだけで、話を前に進めることができない。
「表面的なビジュアルだけでなく、メッセージの根っこを捕まえて、表現の骨格づくりをしないと、何の説得力もありません」と断言する。大切なのはクライアントとのコミュニケーション。相手の考えること、課題、狙いを丁寧に掘り起こすためのコミュニケーション力と、自分の考えを伝えるコミュニケーション力。佐藤さんは広告代理店に勤務した6年間で、それらのスキルを磨き、持ち前の“アイデアを膨らませる”クリエイティブ力を鍛錬。2000年10月、存在感のある広告物を制作するクリエイターとして独立を果たした。

取材風景

デザインの力で新たな価値創造を

独立してからも、「ものづくりの現場でワクワクしていたい」という仕事へのスタンスは変わらず。いつまでもグラフィックデザイナーとしてスタートしたときと同じ気持ちで、自分が何をやるべきか、求められているのかを考え、取り組むことに徹している。一方で時代の変化に合わせて、違った視点でのデザインへの取り組みも考え始めている。
「誰でも簡単にパソコンを操作して、ちょっとしたチラシやポスターを作れるようになっている状況にあって、クライアントが求めるものも変化してきたと感じます。それを私たちデザイナーがどう捉えるか。これからの課題ですね」。そして佐藤さんは言う。もっと街の景色に溶け込み、景観の質を高めるために、グラフィックデザインの力が期待されていると。
「クリエイティブ表現することで、新たな価値創造につながる。そんな可能性を模索しながら、新たなチャレンジにワクワクしながら、また新たな世界を開いていきたい」。
グラフィックデザイナーとしてスタートし、アートディレクターとしてクリエイティブワークにたずさわってきたからこそ、まだまだ佐藤さんの挑戦が続く。

公開日:2013年04月08日(月)
取材・文:植田 唯起子氏