クライアントに応えるクリエイティブ
入潮 泰浩氏:(有)クロスメディア・コミュニケーションズ

クライアントの言うことを聞かない


入潮さんとスタッフの方々

撮影風景

映像をプロデュースするというのは、難しい仕事である。自身がクリエイターという意識なら、イメージを決定するのは造作ないかもしれない。だが、常に背景にはクライアントが存在し、求められる結果としての映像がある。独りよがりの創造ではないのだから。
映像を核に据えながらも必然性のあるメディアの提案を心がけている入潮さんの会社には、映像化するには困難なオファーがあまたある。
そうした多彩なクライアントの要望があるにしても、入潮さんはいう、「クライアントの言うことを聞かない」と。
誤解を招きそうな発言だが、よく聞いてみると、その言葉には理由がある。
それはクライアントであろうが、自分が起用するクリエイターであろうが、「目的とそれが目指す結果を見ていないような意見は聞かない」ということに他ならない。それは「オーダーされたメディアに先入感を抱かない」という考えにも通じる。メディア自体を目的化しない、求める効果にもっとも適切なメディアを選択し、表現するのが入潮さんの考えだ。
「新しいからといって飛びつくことはないが、結果を求めてたどり着くなら、どんな斬新な表現にもチャレンジする」
結局、制作物がめざす最終目標をクライアントと共有できるかどうか、それが最初に確立されていなければ、確実な課題解決の提供にはたどり着けないからである。
「表現に制限がないのがクリエイターだとすれば、ボクは制限の壁を感じさせなくするプロデューサー的な仕事かな」
その底流にはしっかり「必然性のあるメディアで確実なソリューションを提供する」ことが刻まれているのだ。

目標は、これからの10年でいい経営者になること


撮影風景

施設見学者向けクイズ画面

入潮さんは同志社大学工学部出身。その専攻からすれば、かなり変わった進路を取ったことになる。
「卒業当時はコピーライターのブーム。技術系の職種には向かないなあ、と思っていたところ、たまたま法学部の友人にコピーライター教室に誘われて」どういう訳か映像制作の道を歩んだという。まさに「マルチメディア」という言葉が独り歩きしていた時代だ。その後、起業し、現在の会社を始めて今年で10周年を迎えた。
起業のきっかけは、一つは勤めていた会社の社長が亡くなったこと。「アグレッシブな視点を持って仕事を創り出すタイプのリーダーがいなくなり、他の人の下では働きたくなかった」。
もう一つは阪神大震災を目の当たりにして、「明日自分がどうなるかわからない」ことを痛切に感じたためだ。起業して省みると、「何とかなるもんやね。現在は100%幸せだよ」と言い切る。
「根がいい加減だからなんとなくこれまでやってきたけど、これからの10年は、いい経営者になることを目指したいね」という入潮さんのビジョン。そのおおらかな物言いに、筆者はニンマリせずにはいられなかった。

里居 正裕氏

公開日:2007年02月20日(火)
取材・文:里居 正裕氏