小さな変化の積み重ねが、大きな目標へとたどり着く道になる
佐藤 彰晃氏:佐藤彰晃デザイン事務所

佐藤氏

人懐っこい笑顔で取材メンバーを迎えてくれた佐藤彰晃氏。グラフィックデザイナーとしてのキャリアは20年以上。企業や病院を中心に、数々の会社案内・病院案内のパンフレットやイベント用ツールなどを手掛けてきた。周囲からはベテランと言われつつも、「話のわかるオヤジでありたい」と言って笑う佐藤氏の、これまでの足取りやそこから生まれたこだわり、若手へのメッセージを伺った。

コピーライター志望からデザイナーへ

専門学校でデザインを学んでいた佐藤氏。就職にあたって目指したのはコピーライターだった。しかし、志望した企業は最終面接まで進んだものの入社に至らず。業界誌の編集者としてキャリアをスタートさせた。とは言うものの佐藤氏は、この仕事に「なんとなく違和感を持っていた」という。そんなとき、転機が訪れる。デザイナーを募集している会社を知人が紹介してくれたのだ。しかも候補は2社あった。
「1社は大手のデザイン事務所で、デザイナーとしての募集でした。もう1社は5人程度の小さな事務所で、デザインとコピーの両方を扱う人員の募集。会社の規模か仕事内容かで悩みはしたのですが、やりたいことを優先して後者を選びました。」
ここで学んだことが、現在の佐藤氏の仕事の土台を築くこととなった。
佐藤氏の仕事スタイルは、「企画立案から完成まで、トータルで関わる」というもの。単にデザインだけでなく、コピーライターやカメラマンへのディレクションも行っている。
「当然、クライアントの思いは大切です。でも、『自分はこう思う、こうやりたい』という意思もしっかりと盛り込んでいきたいんです。もちろん、独りよがりになっていてはダメですし、そんな意見にはクライアントも耳を傾けてくれない。そこでいつも考えているのは、パンフレットなどを手にするエンドユーザーの気持ちです。」
常に視点をエンドユーザーに置き、わかりやすさ、おもしろさを考え抜く。だからこそ、言葉や写真による表現の1つひとつにまでこだわりが生まれてくる。佐藤氏のディレクションにクライアントや制作メンバーが信頼を寄せ、期待にたがわぬ作品を生み出し続ける原動力はここにある。


人材採用のためのパンフレットやイベント出展時に使用するツール、社史など、活躍の分野は多岐にわたる。

あらゆる場面で大切なのは、リズム感

佐藤氏は仕事を行ううえで気を付けていることがある。それは、「リズム感を大切にすること」だ。
「デザインの技術的な面で言えば、例えば白場とそれ以外の場所のリズム感です。写真の構図も、寄りと引きの使い方でリズム感が生まれます。デザインから離れた点で言えば、遊びと仕事のリズムや、恋愛での押しと引きもリズム感ですよね。おそらく、世の中のほとんどの『心地いい』と感じるものには、適切なリズム感が潜んでいるんです。」
リズム感は、佐藤氏の日々の仕事の中にも見て取れる。コンペなどで提案する企画やデザインに行き詰ったとき、佐藤氏は「さっさと家に帰ります。パソコンを眺め続けていてもいいアイデアが浮かぶとは限らない。それなら、家に帰って子どもの顔を見た方が効果的なことだってあるんですから」とのことだ。また、年末年始は必ず家族でスキーに行くという。これは、1年間頑張った自分へのご褒美であり、次の1年を頑張るための動機付けでもある。1年という長いスパンの中でも、佐藤氏にとって心地いいリズムが刻まれているのだ。

若手が夢を抱き続けられる業界にしていきたい

佐藤氏

リズム感を大切にする佐藤氏が最近気をもんでいるのが、クリエイティブ業界は若者にとって夢のない世界になっているのかもしれない、ということだ。
「長時間労働や納期前の徹夜などは、業界の悪しき慣習だと思います。若いうちはそれでもいいかもしれません。でも、結婚して子どもを持つようになると無理が生まれてきます。仕事とプライベートのリズムが完全に崩れた状態ですからね。結果、才能ある人材が業界を去ってしまっています。この傾向は特に女性に顕著です。このままでは、誰もこの業界を目指さないようになってしまうかもしれません。」
実は佐藤氏は、「イクメン」でもある。佐藤氏の奥さまはフルタイムで働いており、休日や勤務時間などの条件は佐藤氏と変わらない。そこで、現在8歳になるお子さんの子育てにあたり、出勤時間の遅い佐藤氏が朝食作りと保育所へ送る役割を担当していた。また、行事ごとには欠かさず参加。そして、「仕事はできるだけ早く終わる」「土日は休む」「盆は9連休にする」というスタイルを貫いている。
「業界の慣習に風穴を空けたいという思いもあったんです。もちろん、最初からすべての条件を満たすことができたわけではありません。周囲に対して少しずつ、そして粘り強く言い続けてきたから、理解も得られるようになりました。同時に、限られた時間を最大限に使って、ほかの人以上の成果を出す努力もしてきました。変化は待っていてもやって来ません。小さなことでも積み重ねていけば、必ず大きな目標にたどり着くことができるんです。それを身をもって示し、後輩たちに道をつけてあげることが今の自分の役割だと思っています。」

スタイルを確立することが、将来の財産に

佐藤氏

そんな佐藤氏から、若手へメッセージをいただいた。
「若いころに経験することに、ムダなことは何ひとつありません。もし伸び悩みを感じているとした、それは伸びている証拠です。大いにもがいたらいい。それらはすべて成長への財産になります。そのうえで、自分なりのスタイルを確立することをお勧めします。スタイルとは、『これだけは絶対に誰にも負けない』と言える得意なこと、と表現することもできます。『とにかく仕事が早い!』などでもいいんですよ。それをどう活かしてあげるかは、私たちの世代の役割なんです。焦ることなく、いろんなことに挑戦してください。」

公開日:2012年10月12日(金)
取材・文:ウィルベリーズ 松本 守永氏
取材班:株式会社スマイルヴィジョン 林 智子氏