自社商品で情報発信&世の中にアプローチしたい!
川畑 美穂氏:unLimit.design

川畑氏

カタログやパンフレットなどのグラフィックデザインを中心に、最近はパッケージデザインなども手掛けるアンリミットデザインの川畑氏。現在は、南港にある大阪デザイン振興プラザのインキュベーションで出会ったデザイナーとオフィスをシェアしている。今回はデザインの世界に飛び込んだきっかけやクライアントとの信頼関係構築の秘訣、さらには自社開発商品などのお話をおうかがいした。

イラストレーターになりたかった学生時代

子供の頃から絵を描くのが好きだった川畑氏。高校卒業時にイラストレーターを目指して専門学校のイラストレーション科に進学し、本格的にイラストレーターを目指すことに。たが、進学は厳しい現実を突きつけた。
「イラスレーターとして就職するのは非常に難しいことを知りました。でも、そんな現実を受け入れた上で、デザインの仕事には携わりたかった」

そこで印刷会社に就職し、Macを使って飲食系のカタログやチラシなどを制作する部署へ。グラフィックデザインもイラストもデザインという視点から見ると似ている部分もあり、楽しみながら仕事ができていた。
「ただ、同じ年齢の友達がフリーランスとして仕事を始めたり、仕事を通じてフリーランスのデザイナーと知り合うことが増えてくると、なんとなく『自分もいつかああなるのかな』と思うこともありました。少しずつ“独立”の二文字が刻まれていったのかもしれませんね」

そして印刷会社を退社。最初は独立するつもりはなかったが、やはりデザインやイラストの仕事がやりたくなった。
「クリエイティブ関連の会社に勤める友人にお願いして仕事を紹介してもらい、少しずつ自宅でデザインの仕事を始めました。今思えば、退社前から独立を心の中で決めていたのかもしれませんね(笑)」
こうして川畑氏はフリーランスデザイナーとしての活動をスタートさせた。

人の縁が仕事をつなぐ

独立当初は実績や作品集を片手に、広告代理店や制作会社への飛びこみ営業も行ったという川畑氏。
「私がまだ20代前半で若かったというのもありますね。でも、受注できても楽しい仕事にはならなくて、飛びこみ営業はやらなくなりましたね」

そんな経験を踏まえ、現在では基本的に人からの紹介や声を掛けてくれる人々と一緒に仕事をするなど、『人の縁』を大切にした営業スタイルが中心だ。
「フィーリングや人を重視するようになりましたし、同時に自分で『縁』を作って行く楽しみや喜び、出会った人たちに助けられている自分を実感しています。会いたい人や良い人との縁は、つながっていくものなんですね。つなげるための秘訣は“自分の感性を信じること”。第一印象や話してみた印象が良い人とは、自分から積極的につながるようにしています」

現在のオフィスもそんな『人の縁』からつながったもの。かつて大阪・南港のデザイン振興プラザのインキュベーションセンターに入所していた時の縁だという。
「同じグラフィックデザイナーで、お仕事やイベントでもご一緒する機会があって。次の事務所をどこにしようかと考えている時に声を掛けていただき、シェアさせてもらうことになりました。自分ひとりでは出会えない人や情報と出会うので、とても刺激になっています」

イイ仕事にはイイ信頼関係が必要

『人の縁』で巡り会った人と仕事をする際の進め方について尋ねると、『まずはその人と仲良くなります』という答えが返ってきた。
「お客様に自身をさらけ出してもらうことを目指します。打ち合わせの初期は、どうしてもカッコいい言葉や表面的なやり取りになりがち。でも、それでは本当に良いデザインは生まれません。やはり目指すベクトルの向きを合わせるためにも、本音でコミュニケーションができる関係が必要です。もちろんそのためには、まず私が素の自分をさらけ出します。そして、冗談が言いあえるぐらいの関係になってきたら、本当に良いモノを作るためのコミュニケーションの素地ができてきたかな、と」

そんな良好な信頼関係を構築するための秘訣を尋ねると、『正直に』という言葉が返ってきた。
「正直に接するということは、仕事をする上で大切なことだと思っています。それが誠実さや信頼につながっていくはずですから。『正直であること』が信頼関係を築くための第一歩だと考えています」

+U

自社商品で情報発信!

最近は通常業務のかたわらオリジナル紙製品を開発し、自らの情報発信につなげていく試みも行っている。印刷の際に出る端紙を再生させた『+U』は、そんな川畑氏の思いが詰まった商品だ。
「様々な特殊紙をランダムに入れたメモサイズの商品が『+U』です。中に入っている紙は選べませんが、使い方も選びません。使う人の発想によって用途が変わる余白のある商品です。使い方を限定した便利な商品ではなく、自分らしい使い方をシェアし、自由な発想で使う商品です」

作品

ほかにも動物や旅をコンセプトにしたカードなども商品化が進んでいる。
「こちらのカードも使い方を特に決めてはいません。使う人に好きなシチュエーションで自由に使ってもらいたいですね」
すでに販売取扱いの依頼はもちろん、この商品が縁となってイラストやパッケージデザインなどの仕事依頼が来ているそうだ。
「きちんと情報発信すれば、やりたい仕事に繋がっていくのだと実感しました。しかも、開発商品を先に見せた上でいただいたお仕事は任せてもらえることが多い。その分責任も大きいんですが、やはり楽しいんですよ。ただ指示通りのデザインを作るだけじゃなく、発信していきたい。今後は、デザイナーらしい世の中へのアプローチ方法を探りたいですね。様々な世の中の事象についても、デザイナーの視点から情報発信していきたい。もちろんイラストもどんどん描いていきますよ」

公開日:2012年08月02日(木)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社Meta-Design-Development 鷺本 晴香氏