クライアントを“編集力”でサポートしたい
わかはら 真理子氏:(株)アールコンシャス

わかはら氏

(株)アールコンシャスの代表・わかはら真理子氏は、双子の子供を持つコピーライターだ。株式会社リクルートと株式会社コピー制作室での計6年間の会社員生活を経て、2003年にフリーのコピーライターとして独立。2009年から約1年間、メビック扇町に入所していた。出産を機に一度クリエイティブの世界から離れながらも、仕事に対する想いと周囲の人々のサポートによって、再び制作の現場に戻ってこれたという。今回は、メビック扇町のことや、育児と仕事の両立のこと、さらには将来についてお話をうかがった。

妊娠&出産後も、周囲のサポートで仕事に復帰

大学卒業後、株式会社リクルートで広告制作を担当していたわかはら氏。現在は、大手新聞社関連の雑誌媒体、大手企業の顧客向け媒体やパンフレット、IR関連の制作物など、女性、子ども向け媒体とビジネス系媒体を2本柱に、さまざまな制作物の編集とコピーライティングに携わっている。時には編集者、またある時はコピーライターなど、さまざまな立場で多様な仕事の実績を持つ。
「最近は、文章を書くだけでなくディレクターという立場でみんなで仕事をすることも多いです。クライアントを含め制作スタッフみんなで一つのものを作るのが好きです」

逆に、別のディレクターから『書いて欲しい』『企画を出して欲しい』とお願いされれば、喜んで引き受ける。「作るモノのクオリティーには非常にこだわりがあるんですが、作る中で自分がどの部分を担うかは全くこだわりがありません。自分に頼んでいただいた役割を、発注者の期待以上で返したい。そのために、いかなる媒体や制作物でもその媒体を作る『目的』と、どうやってターゲットに『スッと届けるか』を常に意識するようにしています」

今は双子の育児と仕事に奮闘するわかはら氏も、双子を妊娠し出産した頃は、もう仕事は続けられないだろうと考えていたそうだ。
「それが、出産して3カ月ほど経ったある日、突然クライアントから電話が掛かってきて『そろそろ頼める?』と。仕事を再び依頼してくださったんです。自分でも仕事復帰は半ば諦めていたので、あの1本の電話がなければ復帰していなかったと思います。チャンスをくださって本当にありがたいです」

プライベートが仕事に直結する楽しさを味わう

作品

育児と仕事の両立は決して楽ではありません、とわかはら氏。しかも、双子の育児という普通の育児よりも大変な状況が想定される中でも両立できているのはなぜだろうか。
「これは周囲のサポートに尽きますね。主人や両親、子どもたちの理解はもちろんのこと、クライアントも含めた周囲の人々の理解があるからできることです。だから出産後は、周囲の人に感謝する気持ちがさらに強まりました」
同時に、自分自身を冷静に客観視し、自身のキャパを見極める能力も磨かれた。
「育児に時間が必要な分、仕事の時間が取れなくなるのは必然。当然、納品物の質を下げることはできませんから、必然的に量を減らすことになります。加えて、すべてをひとりで取り組むのではなく、周囲の優秀な仲間の力を借りてチームで仕事に取り組む体制にしています」

しかし、育児と仕事の両立は決して苦労ばかりではないという。出産後まもなく、赤ちゃんを持つ母親向けの媒体から仕事の依頼が来たことも。
「ターゲット読者となる人々の日常に触れているからこそ出せる企画、書ける内容があるということに気づきました」
このように、最近は双子の子供の存在が仕事に繋がることも少なくない。
「子供たちは自由にのびのびと育てる方針ですが、打ち合わせでお受験対策が話題になったりすると、実際に子供と一緒にお受験対策塾の体験講座に足を運んでみたり……。今は仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちですが、そのおかげで仕事を楽しめている部分もあるかもしれませんね」

メビック扇町は戦場だった!?

メビック扇町が水道局で迎えた最後の1年間が、わかはら氏にとってのメビック入所期間となる。1年後に一時閉館が決まっていたメビックになぜ入所を決めたのだろうか。その理由を尋ねると『腹をくくりたかったんです』という言葉が飛び出した。
「家で仕事をすると、内職のような雰囲気になってしまって……。仕事が辛くなると、育児を逃げの“言い訳”にして、仕事を諦めてしまいそうな気がしたんです」

メビックで過ごした1年間は『取り憑かれたように仕事をしていた』というわかはら氏。事業のスタートアップという濃密な時間をメビックで過ごしたからこそ、現在のアールコンシャスがあると感じている。
「私と同じ起業間もない人の頑張りを見て刺激になっていたんでしょうね。現在、レギュラーの仕事を中心に据えて、楽しみながら仕事に取り組める環境があるのは、あのメビックでの多忙な1年間のおかげであることは間違いありません。あの時間が私の仕事の幅を広げてくれた、と」

常にベストメンバーを組み続ける体制を目指す

作品

今後のアールコンシャスが目指す方向を尋ねると、わかはら氏が考える理想的な仕事への取り組み方や制作の体制が、現時点でかなり構築できているように感じられた。
「ひとつひとつのプロジェクトは、それぞれ求められることもテーマも内容も異なります。常に妥協することなく、それぞれのプロジェクトで考えられるベストメンバーでチームを構成し仕事をやりたいですね」
目指すのは組織を大きくすることではなく、あくまでクライアントの期待に応え続けること。
「目指すのは会社担当者や読者に喜んでいただくこと。私たちが前面に出るのではなくて、あくまでクライアントや読者のサポーターでありたいんです」

今後育児の時間が減ることで、仕事に向きあえる時間を増やすことができたら、各クライアントにさらに深く入り込んで仕事をしていきたいという。さらには、地域への貢献というテーマも頭の中に膨らみつつある。
「主婦に限りなく近い立場にいながらビジネスの最前線を深く取材するという、両極端な状況にいる意味を考えています。そこで得たことが、仕事だけでなく、地域や社会など今の自分を支えてくれている身近な場所で活かせるのなら還元したい。まだ漫然としていて、何ができるかはこれから見つけていきますが、自分ができることを全力でお手伝いしたいですね」

公開日:2012年08月02日(木)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏