クリエイターの個性を活かすのはマネージャーの“営業力”
近藤 哲士氏:un +plus un management

近藤氏

大阪・島之内。にぎやかな大阪ミナミの一角だが、心斎橋や道頓堀とはどこか違った空気が流れている。
この街に古くから佇むレトロなビル。そこにフリーランスのカメラマンをマネージメントする「un plus un management」はある。代表の近藤哲士さんがこちらにオフィスを構えたのは2010年のこと。
10年以上、外国人モデルのエージェンシーに勤務し、そのネットワークを生かして現在の仕事をはじめた。
自らもクリエイターのような、個性的なルックスで登場した近藤さんが語る、マネージメントの極意とは。

関西では数少ない、カメラマンのマネージメントオフィス。

多くの媒体で活躍するカメラマン。その多くはフリーランスである。東京ではそういったカメラマンをマネージメントする事務所が多く存在するが、関西では極わずか。そんな現状を打破すべく、近藤さんが設立したのが「un plus un management」だ。「前の会社ではカメラマンに向けてモデルを売り込んでいたわけですが、これからは逆で。設立にあたっては、付き合いの会った方や面白そうだと思うカメラマンに、とりあえず売り込みをさせて欲しいとお願いして、ポートフォリオ(営業用アルバム)を持って営業にまわりました」。
現在は約5名のカメラマンとイラストレーター、レジデントの外国人モデルのマネージメント及びキャスティングを行っている。その中には仕事で立ち寄った大阪が気に入り、現在もこの地で活躍するロブ・ワルバースさんの姿も。外国人カメラマンにとって大阪は事務所が少ない上、繋がりの深いマーケットに入り込むのも難しい場所。当時ロブさんは日本語も多く話せなかったので、英語のできる人間も必要だ。そこで知人を通じて近藤さんを紹介された。

設立当初を振り返り、「けっこう怪しまれましたね」と笑う。大阪の制作現場では、カメラマンとの仕事は“直”でとの不文律があり、そこに何かが介在するのを嫌がるという。「長く大阪でやっているカメラマンには、クライアントとの間に築かれた信頼関係がありますから」。その中に割って入るのではなく、あくまでカメラマンとクライアントの両者にとっての潤滑油として、スムーズに仕事ができる環境をモデルエージェンシーでのキャリアを生かして、整えていくのが近藤さんのやり方だ。「お付き合いさせていただく中で、マネージメントに入ってもらって良かった、と思っていただけるよう努力はしています」。

モデルエージェシーで培われた、マネージメント力。

幼少期にパラグアイへ家族で移住し、学生時代は海外で過ごした近藤さん。ファッションは大好きで、スタイリストを志したことも。帰国後、就職にあたり堪能なスペイン語を活かせる仕事を探した。目に飛び込んできたのは、モデルエージェンシーのマネージャー募集。「求められていたのは英語の話せる人材。こちらは堪能ってほどではないけど、スペイン語が喋れるからいいかと思って(笑)」と、得意分野をアピールしてみたところ見事採用され、以来マネージャー業一筋でやってきた。「今こうして仕事に繋がっていっているのは、モデルエージェンシー時代に営業にまわったおかげです。営業先から仕事がまわってくるのは
数年かかることもあります。でも行かなかったら、それすらないわけですから」。
10年ほど務めたモデルエージェンシーを辞めたのは、「独立するタイミングは今しかない」と思ったから。とりあえず辞めてから、何をしようか考えた。それはやはり、長年培ってきたノウハウや人脈を活かせるマネージャー業だった。モデルがカメラマンに代わっただけに思われるが、そういうわけでもないらしい。海外の招聘モデルに関しては、短期間の滞在期間にどれだけ仕事を取れるかがポイントになってくる。セールスポイントは決まっていて、それを求めるクライアントに当てはめていく。「そのやり方で外国人の有名なカメラマンを呼び、短期間に仕事を取るという方法もありますが、ぼくは日本で頑張っているカメラマ
ンを、永くサポートしたいと考えているので」。


カメラマンの作品の集合

売れている時に営業する、それが営業の極意。

カメラマンに関わらず、フリーランスでの商売となると、自分で営業をして仕事を得ることになる。ものをつくる力はもっていても、営業力やマネジメントとのバランスが欠けているとうまくいかない。近藤さんの仕事の基本も、まず営業だ。「最初はお付き合いのあった制作会社さんに1件1件電話をかけてアポイントを取るという地道な作業から。その会社がどういう仕事をして、どんなスタイルのカメラマンを求めているか、自分なりに、ある程度はリサーチしたつもりです」。
営業について、近藤さんには強い持論がある。「自分で営業にまわれるうちはいいんです。ただ、売れて忙しくなると営業に行けなくなります。売れている間はそれでも仕事がまわってくる。でもそこが盲点なんです」。売れてる時こそ営業して、今後の繋ぎをつくっておかないとダメだと語る。「忙しいと時間の余裕もないし、いつまでもいい時が続く気もする。でも実際にはそう上手くはいかないでしょ」。
これもカメラマンに関わらずフリーランス全般に共通する話だ。ある程度キャリアがあって、名前が知られていれば、営業に行っても頭を下げづらいし、下げられた方も当惑する。売れるほどに新しい仕事が入りにくいジレンマに陥ってしまうのではないだろうか。マネジメントが入って常に営業できる状況をつくることは、フリーランスとして活動する人間にとって、理想の環境とも言える。

ゆくゆくは、“日本発”のクリエイター集団に。

「今カメラマンの他に、イラストレーターも1人契約していて、最終的にはクリエイターの集団にしたいと考えています」。クリエイター相手の仕事は、気を使うことも多いのではないか?「それぞれ個性が強いし、志しているところも違う。だからこそ面白いんです。一緒に仕事することで刺激を受けますし、こちらもエンジョイさせてもらっています」。こちらで契約するカメラマンは、すべて近藤さんが選んでいる。似たタイプのカメラマンを集めて自社カラーを打ち出していくというよりは、いろんな個性の人がいる集団していきたいという。トンがったものから穏やかなものまで、すべてに対応できるスタンスではいたい。見せる
側(カメラマン)の考え方と、見る側(デザイナー&編集者)の考え方は違う。近藤さんは両者の考えがわかるからこそ、ニュートラルな感覚で作品を見ることができるのかもしれない。
「クリエィティブな仕事とそうでないもの、バランスよく取りつつ、カメラマンの個性を活かせるようにしたい」。最近、仕事の幅を広げるために東京にも事務所を設けた。ファッションにおいて大阪は生産地、発進は東京という構図ができ上がってしまっている。しかし近藤さんの中で活動する場所へのこだわりはない。「大阪とか東京の垣根を取っ払いたいんですよね。どこでお仕事されているんですか?と聞かれたら、“日本です”と答えたいですから」。

公開日:2012年08月09日(木)
取材・文:町田佳子 町田 佳子氏
取材班:株式会社ファイコム 浅野 由裕氏、株式会社Meta-Design-Development 鷺本 晴香氏