インターネットを活用した留学生の教育システムを開発・運営
藤木 秀紹氏:(株)ザム

藤木氏

2000年、藤木秀紹氏の個人事業としてスタートし、2007年に法人化した株式会社ザム。2008年、メビック扇町のインキュベーションオフィスへ入居し、2010年3月、同施設からの卒業に伴い北区天神橋に移転し現在に至る。WEBコンテンツの企画・制作をはじめ、映像制作や採用活動支援など幅広い事業展開を行っている中、今最も力を入れて取り組んでいるという教育関連プロジェクトを中心にお話をうかがった。

「映画への情熱」がすべてのはじまり


オフィスを彩る映画のポスターやフィギア

中学生のころ、ウルトラマンの制作舞台裏を書いた本と出会ったことで人生が変わったという藤木氏。すっかり映像制作の魅力にはまり、中学生にして友人達と映画を作り、高校では映画部に。大学に入っても映画への情熱は高まり続け、ついに自力でスタッフや出演者を集め、シナリオから、監督、撮影、編集まで全てを藤木氏が担った1時間40分に及ぶ本格的な8ミリフィルムの映画を完成させたという。

「大学卒業後は映画監督を目指し映画業界に入ろうと思っていました。ところが、日本映画について考えているうちに、日本には映画プロデューサーがいないことに気がつき、プロデューサー志望に方向転換。そのために、資金調達やマネジメントの勉強になりそうな広告代理店を就職先に選びました」

ところが、いざ入社してみると、やりたいと思っていたことと現実の仕事内容のあまりのギャップにショックを受けたそう。そうしたジレンマを抱えつつ社会人としての経験を積み重ねているうちに、世の中にWEBが現れ広告メディアとして台頭。独学でWEBの勉強をしていた藤木氏は、「WEBなら自分が思っているものを自由につくれる」と確信し会社を退職、独立開業を果たす。

「しばらくSOHOで活動していましたが、事業の拡大には自宅を出て自分のフィールドを広げなければならないと感じ、メビック扇町のインキュベーションオフィスに入所を希望しました。入所してからは、新規のクライアントも増えましたし、自分だけでなく周りの環境も変化しました。なにより、同じ施設の中にいろんな人がいていつでも話をすることができたのが良かった。多くの刺激を受けましたし、つながりもできた。この時のネットワークは卒業後も続いていて、今でも色々助けてもらっています」

「前例のないシステム」が生まれた背景


「TNG net」マイページのイメージ画面

現在、藤木氏が力を入れているのが、「インターネットを活用した留学生の教育システム」。日本の大学から海外の大学へ派遣留学中の学生に向けて、インターネットを使って教育的なアプローチを行い、単位を付与する画期的な仕組みだ。

「2005年ごろ、龍谷大学・国際文化学部様から、『インターネットを利用して留学中の学生に、何か教育的なアプローチが行える仕組みができないか』とのご相談がきっかけでした。紆余曲折を経て、2012年の春から『TNG net』という名称で、試験運用をスタートさせることができました。本システムの特徴は、与えられたアサイメント(課題)をこなし単位を認定する『eラーニング』としての機能と、SNSの機能を利用して、学生が自由にコミュニティを立ち上げ、異文化ネットワークを構築する、『主体的異文化コミュニティ』の両輪で構成されていることです。いろいろと調査しましたが、『留学中の教育は現地の大学にお任せ』となっているケースも多く、このような取り組みを行っている大学は今のところ他にないと思います」

この企画が生まれた背景の1つに、藤木氏が最近の学生と接して感じた危機感があるという。
「私の仕事に、企業の採用支援の分野もあり、年に数百名の大学生とお会います。一昔前であれば『留学した』というだけでアピールポイントになっていましたが、現在は珍しいことではなくなり、それだけで差別化はできない。そこで企業側は、『留学して何を学んだのか』ということを知りたがります。ところが、それをしっかりと答えられる学生が非常に少ない。このことに強い危機感を覚えました。『異文化にふれてどんな経験をし、どのような成果を得たのか』主体性のある答えを期待する企業に対して、学生が異文化の中でネットワークを構築しそのプロセスを含めて可視化できる仕組みができないかと考えたのが、このシステムの原点です」

留学生の異文化コミュニケーションと、プレゼンテーション能力向上を後押し


「TNG net」活動報告サイトのイメージ画面

TNG netのコアとなるシステムはFacebookやmixiのようなSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)。参加学生はIDとパスワードを付与されTNG netにマイページを持つ。
「eラーニング的な側面として、サイト上に約60以上の課題が提供されていますが、すべて異文化コミュニケーションを行わないと取得できない内容になっているんです。例えば『誰かの為にパーティーを企画し、その様子をムービーでSNSにアップしなさい』といったもの。提出された課題は、教員が精査し個別指導を行います。内容がOKであればメダルが与えられマイページ上に表示。このメダルが目標数に達すると単位が認定されることになっています」

提出された課題は参加メンバーであれば誰でも閲覧することができ、コメントの書き込みも自由だという。また、「Interesting(興味深い)」ボタン、いわゆるFacebookの「いいね」ボタン機能で評価することができ、ランキング上位者をリアルタイムに表示することで学生のやる気を引き出す仕組みにもなっている。
「それと、自分でコミュニティをつくれるのもポイント。これは、課題に関わるものはもちろん、課題に関係ない自身の趣味などでもOK。例えば、『英国内ミュージアム見学ツアー参加者募集』など、自由にメンバーを招待でき、活動レポートをマイページにアップできます。この部分で、主体的な異文化ネットワークづくりのツールとしての機能を果たし、プロセスの可視化も実現しています」

最終的に、各課題のレポートやコミュニティ活動の足跡、日記など、TNG netに蓄積された自身の記録を整理しまとめることで、就職活動に活用できる「自分のプレゼンテーションツール」へと昇華させることが可能となる。また、TNG netはアカデミックな面以外に、危機管理機能にも優れているという。
「まず、留学生は海外で知り合った友人など誰でも自由にTNG netに招待することができますが、そこからの二次招待はできません。半クローズドのコンテンツにすることで、管理の目が行き届く。これが、Facebookなど一般のSNSを利用するのとの大きな違いです。また、ログインの日時やエリアから学生の動向を把握できるため、大学、保護者双方に安心を提供することができます」

最後に、今後の展望をお聞きした。
「産学連携事業として、今後も改良を重ね、将来的には、横断的な留学ネットワークを構築し、コンテンツの蓄積による留学情報や日本人留学生のアカデミックな『集合知』的ポータルサイトを目指します」

公開日:2012年07月27日(金)
取材・文:C.W.S 清家 麻衣子氏