CGアニメ振興のフィールドは日本から世界へ!
鎌田 優氏:(株)ドーガ

鎌田氏

電化製品の街からオタクやアニメの街へと変貌を遂げつつある日本橋。日本のCG黎明期からCGアニメの振興に取り組む(株)ドーガもこの街に事務所を構えている。今年で24年目となる「CGアニメコンテスト」を主催するなど、その活動は今なお健在。そんなドーガも2003年5月から2006年4月までメビック扇町に入所していた。今回は代表取締役の鎌田優氏に、メビック卒業後の足跡やCGアニメの現状、そして未来についてお話をうかがった。

CGアニメ振興活動、継続中!

(株)ドーガは、大阪大学と京都大学のコンピュータークラブの共同研究プロジェクトとして、1985年に設立された非営利団体『PROJECT TEAM DoGA』が母体となっている。
「クラブのメンバーで、日本初のPC用CGアニメ制作ソフトを開発し、コピーフリーで無料配布しました。当時はインターネットはまだなく、パソコン雑誌の付録フロッピーディスクとして配布していたんですよ」

すると、その活動に賛同して、日本中からたくさんの寄付が送られてきた。当時鎌田氏は、既に大学を卒業して松下電器産業に入社していたが、全国のファンに応える形で株式会社化を行った。
「名目的な株主は私ですが、本当は全国から寄付してくれた方々です。だから、利益が出ても株主としての私に還元するわけにはいきません。利益はすべてCGアニメの振興活動に使うという、変な株式会社になった訳です」

ただ、国や行政の支援があるとはいえ、非営利活動だけでは会社運営はできない。そこで、会社としてはシステム受託開発業務などで収益を上げている。
「社員のほとんどが、コンピュータクラブの仲間ですから、システム開発はたいていのことができます。もちろんCG系は強いです。また、CGアニメ振興活動でそれなりに知名度もありますし、設立時の全国のファン、つまり当時パソコン雑誌を読んでいた方々が、今ではシステム開発を発注する地位になっていて、結構お問い合せをいただいたりします」
最近はスマートフォンアプリの開発なども行っており、京都高度技術研究所と『TimeScope』というアプリを共同開発するなど、その技術は高く評価されている。

メビックに入所して会社らしくなった!?


TimeScope

ドーガは2003年から2006年までメビック扇町に入所していた。
「メビック入所前は、淡路にあるごく普通のマンションの一室を借りていました。そこでシステム開発の仕事などもしていたのですが、クラブの後輩達も出入りしていたので、完全にコンピュータクラブの部室の雰囲気でしたね」
それがメビックに入所したことで、一気に会社っぽくなったという。
「今思えば、メビックに入所するまでは学生のお遊びの延長だったのかも。でも、入所することで外見が整い、意識もきちんとした会社になっていきました。古いけどどこか威厳を感じさせる水道局の建物も、クライアントには『ドーガってちゃんとした会社だ』という印象を与えていたようですし(笑)」

メビック入所当時は、TVアニメや劇場アニメといったアニメ制作業務も行っていた。しかし、最近はほとんどしていないという。
「既存のアニメ業界全体が下降線を辿りつつありますから。また、首都圏中心ですし。しかし、CGアニメ=TVや劇場アニメとは限りません。その辺を開拓して、関西のクリエイターに仕事を供給するような仕組みを作っていきたいと考えています」

24年目となる『CGアニメコンテスト』

CGアニメの黎明期にスタートし、2012年で24年目を迎える『CGアニメコンテスト』。まさに、日本の自主制作CGアニメの歴史そのものと言っても過言ではない。
「第1回のころは、とりあえず動いていれば入選というレベルだったのですが、最初の10年間で、基本的な技術が確立されました。その後、ストーリーが本格的になり、今や映像作品としてのエンターテイメント性、芸術性が求められるようになっています。」
応募しても入選できるのはほんのひと握りだが、入選者からは、TVアニメ・劇場アニメの監督や世界の映画祭で活躍するようなトップクリエイターを多数輩出している。

「最近は『CGアニカップ』というイベントにも力を入れています。これもCGアニメの上映会ですが、競技的要素を盛り込んでいて、国対抗の団体戦になっています。コンセプトは、CGアニメクリエイターのオリンピックです(笑)」
コンテンツの重要性に気づいた諸外国が、国策としてコンテンツ振興を行っており、日本はもはや世界一のアニメ大国とは言えなくなってきている。
「例えば韓国のクリエイターの話を聞くと、『我々は国の最先端の産業を開拓しているのだ。だから、それを国が支援するのは当然じゃないか』と言うんです。その点日本のクリエイターは、CGアニメが好きで、それを作れたら幸せという個人感覚です。意識がそもそも違うんです。ただ、『CGアニカップ』は優劣を決めるのが目的じゃありません。他の国の作品と見比べることで他国の文化を知り、日本のクリエイター達に刺激を与えることが目的です」

映像分野の裾野拡大は新たなサービスやビジネスにつながる


DoGA制作TVアニメロストユニバース

将来の目標や夢について尋ねると、「学生時代に考えたことを、もう7割方実現したので、あんまり残ってないのですが」という答えが。
「DoGAの活動を始めたのは、学生時代に8mmカメラで映画を作ったりしていて、『個人でも、もっと簡単に映像を作って発表できるようになれば、テレビや映画とは異なる新しい映像文化が生まれてくるんじゃないか』と考えたからです。それを実現する道具としてCGアニメを選んだんです」
CGアニメコンテストの入選作品などを見ていると、もう十分新しい映像文化に育っている、と。

だが、やり残していることが無いわけではない。
「小中学校の授業で使うCGアニメ学習ソフトを開発したのですが、まだ全国で1,000校程度しか使われません。もっと広めて、誰もが、子供の頃にCGアニメ制作のスキルを身につけ、必要に応じて、映像を作れるような世界にしたいのです」

しかし、100人の子供がCGアニメのスキルを身につけても、プロのクリエイターになれるのは1人いるか、いないかぐらいだろう。
「それは構わないのです。むしろ、残る99人が大切。なぜなら、映像は自分の考えを表現するのにものすごく強力なメディアなんです。だから、多くの人々が文字や絵と同じように映像を作れるようになれば、映像を活用して従来になかった新しいサービス、産業、文化がいろいろ生まれてくると思うんですよ。それを見てみたいですね」

公開日:2012年07月25日(水)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏