動画を気軽に使える“道具”として世の中に広めたい
森 康裕氏:(株)プロモード

大阪市淀川区。西中島南方駅にほど近い雑居ビルの2階が株式会社プロモードのオフィスだ。ドアを開けるとたくさんの機材が並び、その奥に数名のスタッフが真剣にモニターに向き合っている。「現在、私と5名のスタッフがいます。アルバイトスタッフではなく、全員正社員なんですよ」とにこやかに話しながら、甘酸っぱい外国製の果実飲料を勧めてくれる代表・森康裕さん。炭酸のはじける軽やかな音とともに会話がスムーズに始まる。起業する前は、公的機関の職員だったという森さん。そんな森さんに、起業から今までの経緯や現状、これからの展望などを伺った。

回り道、でも大切なことに気がついた

森氏

「起業のきっかけ?なんでしょうねぇ…なにしろ動画制作に関しては、人脈も経験もスキルもなかったですから。ただ、学生の頃から映像の世界に興味を持っていました。いつか起業できたらという当時から抱えてきた想いが、ある時に爆発したんです。気がついたらあと先考えずに会社を辞めていました」
2004年、起業と同時にメビック扇町のインキュベーションオフィスに入居した。人脈も経験もゼロからのスタート。動画の制作の方法についても営業のノウハウについても、分からないことばかりだった。もちろんはじめから動画制作の仕事ばかりがあるわけではなく、スタートして2年間は「実はまるで稼げていなかった」と自嘲気味に苦笑する。

はじめは要領をつかめず、大きな回り道をしたと話す森さん。そこは持ち前の洞察力と探求心を生かし、独学で克服。数々の苦労を乗り越え、ようやく軌道に乗り始めたのは3年目のことだったという。
「起業当初は制作技術、営業方法ともに素人のようなものでした。そんな中、いろいろな経験を重ねながら模索し、やっと気づいたことがありました。それは“お客さんの方を向く”ということ。お客さんが何をほしがっていて、自分がそれにどう応えられるか。そんなこと今から思えばあたりまえのことですよね」。
と自身の過去を明るく語る森さん。今、その口調は力強く前向きだ。

分かりやすく構成された動画であることを大切に


動画の活用方法についてのパンフレットを自社で制作、無料で配布している

こうして少しずつ事業が上昇気流に乗り始めた。メビック扇町を卒業したのは2009年のことだ。以来、この場所で仕事を続けているという。
「お客さんの方を向く。こんなシンプルなことで気づいたことがありました。それは、中小企業に本当に必要な動画は、派手で作り込まれたものではなく、地味だけれどきちんと内容が伝わる動画であるということです。今まで動画を使ったことがないような中小企業に、営業ツールや社内伝達ツールとしていかに動画を利用してもらうか。そこには二つの課題があると考えました。一つは制作コストを下げること。もう一つは納期を短くすることです。動画制作は工程が多いので、どうしてもコストが高く、納期が長くなってしまいがちです。だから、その二つの面のハードルを下げることが、多くのビジネスシーンで動画を利用してもらえるようになるポイントだと考えたのです」

理路整然とした語り口からは、森さんが理論的な思考力と分析力を持ち合わせる人だということは容易に想像できる。だからこそなのだろう。どんなにハードルを下げたとしても、制作物の“構成”は大切にしたいと語る。
「コストを下げ、納期を短くしたからといって、内容まであいまいであってはならないと思っています。特に私たちが得意としている分野は、イメージ映像というよりは、情報伝達のための動画です。そのために大切にしているのがシナリオ作りです。分かりやすく端的に整理された情報を、きちんとした構成とナレーションで制作する。これこそが私たちの動画制作の基本理念です」

気軽に動画を利用できる環境を


動画ファクトリー
webサイト画面

その理念に基づいてプロモードが新しい試みとして行っている事業が「動画ファクトリー」だ。撮影を顧客が、シナリオ作りから編集までをプロモードが行う。基本的にはメールや電話ヒアリングで打ち合わせを行うので、全国から受注が可能。制作費の面でも、納期の面でもハードルを下げられているのだという。
「例えば社内マニュアルや機械操作法などの業務伝達用動画、展示会用動画などは、定式化されたパターンに要約できることが多いので、動画ファクトリーの利用によって労力を大幅に削減することができます。ゴテゴテと余計な作り込みをすることなく、伝えたい内容をきちんと伝えられる動画。そんな必要にして十分な動画を、文房具のような感覚で気軽に役立ててほしい。このサービスはそんな想いから生まれたサービスです。 “動画ってよく分からないけど、なんだか役に立ちそうだ”。この感覚はまさに私にとって動画の世界の入り口でした。そして多くのお客さんが持たれている感覚なんじゃないかと思うんです。だからもっと楽な気持ちで動画を制作しようと思えるサービスを提供したかったんですよね」

こうして着々と新たな方法を模索する森さん。現在プロモードは“第3ステップ”にさしかかったところだと語る。
「いろいろと苦労を乗り越えた第1ステップ。何とか軌道に乗ってやってきた第2ステップ。今、サービスの形と売り方を、改めて試行錯誤しているところです。でも方針の軸は変わりませんよ。“動画を気軽に使える道具として世の中に広めたい”。そのニーズに応えるのが私たちの役割だと考えていますから」
大きな回り道をした。だからこそ、そこから見いだした“方針の軸”に迷いはない。終始話に筋道を立てて慎重に語る森さんの表情には、決意と使命感にあふれていた。

公開日:2012年07月23日(月)
取材・文:株式会社ランデザイン 岩村 彩氏