広報活動を通して社会性の高い企業・NPOをサポートする
神崎 英徳氏:(株)PRリンク

神崎氏

社会性のある企業やNPOを広報で支援することを目的に、プレスリリースの企画制作をメイン事業として2008年1月に起業した株式会社PRリンク。同年3月にメビック扇町のインキュベーションオフィスへ入居、2009年12月に卒業。以前より「いつかはここに事務所を持ちたい」と願っていた登録有形文化財「芝川ビル」への移転を実現させた。代表取締役の神崎英徳氏に起業から現在へ至る経緯と思いをうかがった。

広報活動支援企業としての道のり

起業から現在に至る4年間で、変わったことと変わらないことの両方があるという神崎氏。
「変わらないことは、企業理念。“社会性のある企業やNPOの質の高い情報をメディアに届けることで子どもたちが安心して暮らせる社会の実現を目指す”という思いは、起業以来ずっと変わっていません」

では、変わったことは?
「目的は同じでも、それを達成するための事業内容やクライアントさんとの関わり方が変わってきました。当初は、“メディアに確実に届くプレスリリースをつくる”ことで企業の広報活動をサポートすることをメイン事業にしていましたが、現在はその一歩手前からより深くクライアントさんと関わり、“どんな会社になっていきたいのかを一緒に考える”ところから始めます。いわば、よろず相談のアドバイザーのような立場です」

一過性の話題づくりで終わるのではなく、社会的信頼の積み重ねによって企業力を向上させるにはどのような活動を行えばよいのか、広報の専門企業として客観的な視点を持った長期的なサポートを展開している。

広報の成功には、プレスリリース以外も重要!


壁にズラリとピンナップされた掲載事例

事業内容の変化は、過去の反省点を真摯に受け止めた結果だという。
「いいプレスリリースが書けたと思ったのに、メディアにあまり取り上げてもらえない場合もあって。理由をさぐってみると、“プレスリリースを読んで興味は持ったが、ホームページを見たら情報が少なく採用しなかった”と。これを聞いて、プレスリリースだけ上手く書けても広報の成功とはいえない、この問題をなんとか解決したいと思ったのが、今のスタイルになる出発点でした。ここから、リリースをしっかりと裏付けできるホームページづくりのアドバイスを行ったり、企業理念を一緒に考えるなど、単なるプレスリリース制作代行にとどまらないサービスの流れが生まれました」

現在の事業内容は、経営課題の聴き取りを行うコンサルティングから始まり、市場・競合・ニーズ分析といった広報計画の作成を経て、プレスリリースの企画・作成、メディア発信という流れになっている。

「社会や子どものためになること」を応援したい


芝川ビルで行われているセミナーの模様

「月に一度セミナーを開催し、“広報とはなんぞや”という事からお話ししたうえで、広報の本質を理解していただいた方とパートナー契約を結ぶ」という神崎氏。重視するのは、「社会性の有無」だという。
「直接的に社会貢献につながる事業をしていなくてもいいんです。社会や子どものために、なにか役に立ちたいという“想い”があれば、それをサポートしていきたい。今、そういう企業さんは多いんです。ただ、それをどうやって形にしたらいいかわからないって。それでいいんです。そこを一緒に考えるのが私の仕事ですから」

その一例が「小さな職人さん」プロジェクト。
「最近の子どもが、ものづくりに興味を持たなくなっていることに危機感を抱いた東大阪の板金加工会社さんから、子どもたちにものをつくる楽しさを知ってもらうにはどうしたらいいだろうかというお話があって。この想いに賛同した企業サークルで意見を出し合い、“小さな職人さん”という金属製の工作キットを商品化したんです」
板金状になった部品をニッパーで切り出し、やすりをかけ、金槌などで叩いて曲げて、ネジでとめる。その過程で道具の使い方を覚え、自分の手でものをつくる喜びを味わってもらおうというのが狙いだ。神崎氏がプレスリリースを制作し、たくさんのメディアに取り上げられたという。

「こういった取り組みは、商品の売り上げ如何よりも企業価値そのものを高めることに効果があります。社会性の高い活動を行っている企業であることを発信することで、世間からの信頼が高まり、結果的に本業の仕事の増加につながることが多いんです」

将来を支える若い世代を育成する「学生通信社」の試み


学生通信社で活躍する学生記者たち

精力的な活動を続ける神崎氏が現在特に力を入れているのが「学生通信社」の運営支援。学生が記者となって関西の中小企業や社会企業、NPOを取材し、学生視点での記事を発信する取り組みだ。
「PRリンクでは2010年より学生インターンを受け入れており、仕事の一つとして記事作成を任せてきました。学生通信社はその発展形。現在、11大学から約20人の学生が参加しています。特徴は、現役の新聞記者が学生たちを直接指導すること。この経験を通して、記事の書き方といったスキル面だけでなく、社会への興味、考える力、伝える力などが養われ、学生たちがめきめきと成長していく姿を目の当たりにしています。また、学生だからこそ見つけられる新鮮な視点は、メディア側にも大きなメリットとなっています」

この取り組みには、学生と中小企業のマッチングという側面もある。
「関西には、いい企業がたくさんあるんです。でも発展につながっていない。その理由は、いい若い社員がいないから。このことを痛感しています。現在の就職制度では、学生が中小企業の魅力にふれられる機会はほとんどありません。情報を公平に得た上で大企業を志望するのならいいのですが、関西にたくさんある中小企業ならではの価値を知らないままなのは、なんとももったいない。この取り組みが、学生の選択肢と可能性を広げる一助になればと願っています」

最後に、PRリンクの未来についてお聞きした。
「今後は、広報という枠からはどんどんはみ出して行くと思います。もっと広く、社会の役に立てる仕事が増えていくと思う。その中でも、若い世代を育てバックアップしていくことが非常に重要な使命だと考えています」

公開日:2012年07月05日(木)
取材・文:C.W.S 清家 麻衣子氏