人に誠実に、仕事は粛々と。
電化製品から日用雑貨まで幅広く手がけるプロダクトデザイン会社
竹中 英二氏:(株)ディ・フラット


iPadを見ながら作例について説明する竹中さん

大阪市都島区。絶えず人がせわしく行き交う京橋駅にほど近いビルの一室。真っ白な本棚に数々のデザイン書が整然と並ぶ。株式会社ディ・フラットの事務所は、周囲の雑踏を忘れさせる静かで洗練された空間だ。「まだこの場所に来て一年足らずなんですよ」とにこやかに話し始める代表・竹中英二さんからは、空間の緊張感とは対照的に、柔和で穏やかな印象を受ける。プロダクトデザインを志した頃からずっと独立を意識していたという竹中さん。大阪市内に事務所を構えたきっかけは、かつてのメビック扇町にあったインキュベーション施設だったという。そんな竹中さんに、2009年にメビック扇町を卒業してから今までの経緯や現状、これからの展望などを伺った。

創ることが好きだからこそ、人との関係を大切に


「シンプルさに徹することで道具としての存在感を引き立てる」という考えでデザインされたレンジ

「メビックを出てから?…何も変わらず淡々と粛々と仕事をしていますよ」と、軽やかに話す竹中さん。電化製品から車用品、日用雑貨まで、プロダクトデザインと言われる分野は幅広くこなす。iPadを持ち出して今までの作例を説明する竹中さんの、その気取らない話し方に、「固い・難しい」イメージを持っていたプロダクトデザインとは、実は私たちの生活のすぐそばにあるものだと気づかされる。
「考えることが好き、創ることが好き。だからこそ人との関係には特に気を配っています。一定のクオリティのあるものを作り出すためには、常に平静な気持ちが大切ですから」。
プロダクトデザインというと、企業の商品開発段階から関わることも多いので、情報の守秘義務などクライアントとの約束事が多くつきまとう。またクライアントとは長いつきあいになることが多く、濃密な人間関係も生まれるという。しかし今までにクライアントとの大きなトラブルや危機はない…というより、竹中さん自身の仕事への情熱と努力、絶え間ない人への心配りが、その状況を導き出しているのだろう。
「どんな仕事でもまず“人ありき”でしょう?特に私たちの仕事は、クライアントがいて、商品があって、そこに制約がある。そして発注者であるクライアントの先には、常にそれを使うユーザーがいる。ひとりよがりではだめなんですよね」

GUIも立体物も同じ“使いやすさのデザイン”

こうして「粛々と」続けてきた事業活動。メビック扇町を卒業退所時は1人だったスタッフも、今や竹中さんを含め4人となった。最近では、従来のプロダクトデザインの案件に加えて、GUI(Graphical User Interface)の案件が増えているそうだ。GUIとは、スマートフォンやiPad、PCデスクトップなどに表示されるインターフェイスのデザイン。平面上の表示なので、プロダクトデザイナーが手がけることが意外であるような気もするが、竹中さんはこう語る。
「GUIは単なる絵作りではありません。インターフェイスを見たときに誰もが直感で使える、理にかなった操作性が大切なのです。私たちプロダクトデザイナーは家電製品のタッチパネルなども考えます。今で言うGUIはその延長上にあるようなもの。“ここを押すと次にこの画面に移ると分かりやすい”というような階層を含めた操作性をデザインします。だから“使いやすさのデザイン”という意味では、立体物と同じ。人間工学的な立場で考えられるのは、私たちプロダクトデザイナーの強みですから」
プロダクトデザインと聞くと“モノ”と対峙するイメージが強かったのだが、やはり大切なのは“人”。人のことを知らなければ、理屈に裏付けられた合理的な美しさは生み出せない。竹中さんの柔らかな語りが、そう気づかせてくれる。


GUIパーツデザイン ボタンなどに金属の質感を表現した例

プロダクトデザインに関すること全てを引き受ける会社に

「ほら、あそこのドアにProduct Design Firmと書いてあるでしょう?」と、おもむろにドアを指さす竹中さん。確かに、事務所入り口ドアのガラスに張られた社名の下に、小さくそう書いてある。
「あえてFirmとしたのは、プロダクトデザインについて総合的に取り組む会社をめざしているからなんです」
長いつきあいの顧客を大切にする。新しい仕事は直感で引き受ける。そして受けた仕事は顧客の期待以上のものに仕上げる…こうして誠実に日々の仕事をこなしていると、必ず次につながっているのだと竹中さんは話す。その誠実さこそが、竹中さんの言う「淡々と粛々と」と仕事をするということなのだろう。大阪のプロダクトデザインというと指折りの存在である竹中さん。一定の満足感や達成感を感じられているのかと思いきや、
「現状には?全然満足していないですよ。やりたいことがたくさんあるんです。好奇心は人一倍強いので…ぼく、きっとこの先ずっと満足することはないだろうなぁ」
そう言って朗らかに笑う竹中さんの表情に、工作好きの少年の面影を垣間見た。


被写体に向けるだけで状況を自動判別して撮影するシャッターレスカメラ

公開日:2012年06月28日(木)
取材・文:株式会社ランデザイン 岩村 彩氏