プログラム開発者にとっての理想的な就労環境を追求する、
企業向けiOSアプリ開発専門会社
大石 裕一氏:(株)フィードテイラー

取材風景

北区西天満のビルの一室。株式会社フィードテイラーのオフィスは、部屋全体がとても静かで人の気配があまりない。
「実はこの部屋には、開発者はいないんですよ。開発をするための部屋をもう一つ借りていまして…」
と、静かに話し始める大石さん。自身の経験から、プログラム開発者にとって働きやすい環境を追求した結果、今のような形になったという。大石さんが、メビック扇町にかつて設けられていたインキュベーション施設に入居・創業したのは2006年。はじめはWebシステム開発会社として一人で始めた事業も、今や4名の開発者を含めて5名となった。関西では屈指のiOSアプリ開発会社といえる。そんな大石さんに、今までの経緯や現状、今後の展望についてお話を伺った。

理想的な就労環境の徹底的な追求

「開発者にとっての理想郷を作りたかった」と語る大石さんは、独立創業前、数々のプログラム開発会社で開発者として勤務してきた。そのたびに自身を含め、開発者が労働力を搾取される現場を目の当たりにしてきたという。
「よりよい就労環境を求めて、いくつかの職場やいろいろな立場を経験しましたが、理想的な環境には出会えませんでした。だったらそれを自分で作ろうと決心したのです」
こうして始まった“理想的な開発会社の追求”。その徹底ぶりはプログラミングの世界と同様に、ひとつひとつに明確な理由と根拠があるようだ。別室に設けた“開発室”もその一つ。「開発に集中できる環境を作るため」だという。接客はもちろん、メールや電話による対外的なやりとりは全て大石さんが応対。一日のタスクは、大石さんがマネジメント役として指示・管理する。開発者はその名の通り、プログラム開発作業に専念できる環境だ。
「いわば“知的な流れ作業”ですね。開発者の作業が余計なことで中断されるのは、当人にとっても経営者にとっても不幸なことですから」

“報酬”と“ライフワークバランス”を軸にした会社作り

大石氏
西天満の事務所にて
言葉を慎重に選びながら語る大石さん

大石さんの考える被雇用者にとっての幸せな就労環境。それは“報酬”と“ワークライフバランス”の2点を軸としている。高い給与水準。独自の報酬金制度。残業はほとんどゼロ。有給休暇に加えて家族分の誕生日休暇、結婚記念日休暇までとれる休暇制度。その上、就労時間以外のプライベートな時間での副業を勧めるというから驚きだ。
「会社が富を生み出し、それがきちんと再分配される。加えて個人、つまり被雇用者が富を生み出すのをじゃましないという考えからです。その分、就業時間中は最高のパフォーマンスを発揮してほしいと伝えています。弊社では、半年ごとに社員一人ひとりのミーティング時間を設けて会社への要望などを訊くのですが、ほとんどの場合、社員は何もないと答えます。経営者とスタッフがお互いに全幅の信頼をおいている。このような関係は理想的といえますよね」
淡々と語る大石さん。そもそも全幅の信頼をおくことができる人材は、どのようにして見つけ出しているのかという質問に「引き寄せの法則が働いているのだと思います」との答えがさらりと返る。フィードテイラーでは、求人を一切しない。大石さんがある開発者を仲間に加えたいと思っていると、その開発者側からメールやTwitterを通して入社を希望され、そのまま決まることが大半だったという。

自社をブランディングし、発信することが人脈と世界を広げる

ここ数年“自社のブランディング”に力を入れてきたという大石さん。「自社が、そして自身が何をしているのか」ということを意図的に発信すれば、求める人材やビジネスパートナーが引き寄せられるようにやってくるのだという。
「iOSアプリも、Androidアプリも、Webも、イベント運営も…何でもやりますというスタイルでは、結局何をしている会社なのかということが伝わりにくい。事業内容を特化させ、それを明確に発信する。そうすると、必要な人材もパートナーも自然に集まってくるのです。自社をブランディングすることの大切さを体感しました」
2008年からiOSアプリ開発事業に取り組んできたというフィードテイラー。以来、その専門会社として研鑽し、同時に自己発信してきた。その結果、数年前から人が集まるところに顔を出すと「iOSアプリ開発の会社ですね」と声をかけられるようになったという。今現在、フィードテイラーは、さらに一歩踏み出して「企業向けiOSアプリ開発」に特化しようとしている。その代表的な製品がDropboxの企業向け版ともいえる“SYNCNEL(シンクネル)”だ。セキュリティ管理など信頼性の高さにも定評があり、すでに100社以上の企業が導入しているという。

SYNCNEL

さらに、新サービス“Slidrs(スライダーズ)”は、プレゼンテーション資料の共有サービス。今は無償のサービスだが、こちらも企業向け商品としての展開を予定している。当面はこの事業を新たな収益源へと発展させていくことがミッションだそうだ。

Slidrs

「事業内容を一点に特化させる、つまり“尖っている”からこそ広がる人脈。それによって広がる世界。この経験則を実感するようになってから、事業の幅を広げるのではなく、事業に深みを持たせることを意識しています」という大石さん。理路整然とした話しぶりにはとまどいや迷いを感じさせない。ライフワークバランスの追求についてもしかり。
「開発者による、開発者のための理想的な開発会社を作っているという自負があります。これはフィードテイラーの特長。新しい働き方を具現化しているつもりなので、今後は事業だけでなく、このテーマについてもメディアに取り上げてもらったり、講演ができるといいなと思っています」
日進月歩で驚くほど便利になる世の中。その裏には日々地道に開発に取り組む人たちがいる。便利さ=幸せの追求であるならば、その技術の開発者も幸せな環境で働かなければならない。終始おだやかに語る大石さんの言葉の根底に、そんな一筋の信条を感じた。

公開日:2012年06月29日(金)
取材・文:株式会社ランデザイン 岩村 彩氏