信頼関係で繋がる、ゆるやかな組織の会社づくり
水谷 好宏氏:(有)みなとねっと

水谷氏

大学などの教育機関を中心としたITインフラ関係のシステム構築、例えばサーバや情報処理教室のインターネット環境などの設置を中心に行うのが、有限会社みなとねっとだ。代表取締役の水谷氏は、2010年3月までメビック扇町のインキュベーションオフィスに入居しており、卒業後も旧メビック扇町が建っていた近くに事務所を構えている。今回はメビック扇町入所時代の話や、現在の事業、さらには今後の展望についてお話をうかがった。

IT業界の『インフラ屋』

自らの仕事を『IT業界のインフラ屋』と語る水谷氏。家を建てる仕事に例えるなら大工のようなもので、建物の設計や基礎工事、柱や屋根を付けたりといった、内装に入る前の建物の骨組みまでを構築する仕事と似ている。プログラムやアプリケーションソフトなどを開発するお馴染みのIT事業とは異なり、あまり表に出てくる機会がない仕事だそうだ。

「私の場合は、大学などの学校関係が多いので、学校が長期休暇となる1〜3月、6〜9月頃が繁忙期となります。この時期は複数の大学を掛け持ちすることも少なくありません」
大学などのIT設備は、数年で新しい機器に取り替える傾向があり、みなとねっとも同じ学校に2回目の納入を行う機会が増えてきた。

「創業当時に比べると経営も少し安定したかもしれません。不思議なことに、この事業を当社のように小さな法人規模でやる会社は少ないようで、多くの競合が個人事業主か大企業のどちらか。法人としての信頼性と小規模ならではの小回りが利く体制がアピールポイントになるんだと思います」

“自主自立”が成立させる、ゆるやかな会社組織

事務所入口

みなとねっとの社員は水谷氏を含めて4名。だが、東京、和歌山、大阪など、各自がそれぞれの場所で仕事をしており、社員が事務所に集まることはもちろん、顔を合わせることも希だという。
「会社組織ではありますが、仕事柄、個人をベースに動くケースが多いんですよ。1年に1回程度しか顔を合わせない社員もいます。会社に集まる必要がないんですね。パソコンと通信環境があれば、仕事も情報交換も不自由なくできますから」

会社組織に属することで、社員には働きやすい環境が生まれている。
「社員は給与支払なので細かい経理作業が軽減されて、より仕事に集中できます。ただ、当社は自分の仕事は自分で受注するスタイル。そういう意味では自由な分、自立した考えが必要とも言えます。指示待ちでは何もやることがないんですよ。ただ、仕事柄、一人で受注しても特定の期間だけマンパワーが必要な時があります。そんな時には、離れた場所にいる社員が自らヘルプすることもありますし、各自のネットワークを使って積極的に人員の手配をサポートします。お互いがお互いを助け合う意識や環境がきちんと醸成されていて、勝手気ままとは全然違った堅い信頼感でゆるやかにつながっている感じでしょうか」

堅い信頼感とゆるやかなつながり、この方法が一番自分にあっている、と水谷氏。
「きっと、この経営手法に合っている人、ゆるい感じが好きな人同士だから社員でいてくれるんだと思います。だからこそ、労働分配率はできるだけ高くしています。頑張れば頑張っただけもらえるのは当然ですから」

メビックでの会話や人間関係の大切さを実感

メビック卒業後は、旧メビックのすぐ近くに事務所を構えた水谷氏。少し不安があったというが、それ以上に建物が取り壊されていく様子を目の当たりにして寂しさを感じだそうだ。
「旧水道局の建物が消えていく様子を毎日目にしていました。建物はしばらくはそのままでしたが、ある時を境に一気に更地になりました。でも、更地になった後で完成したのが駐車場だったんですよ。駐車場になるなんて話ではなかったような……」

メビック入所時は、さまざまな入所企業と話すことが多かった。
「卒業後は、同じ建物内の人と雑談をする機会が無くなりました。唯一、同じビルに入居する卒業企業の(株)エアフィールさんとは、今もよく話しますね。私のような積極的にコミュニケーションを取りに行かないようなタイプでも、たくさんのコミュニケーションが生まれ、それに伴って多くの刺激が生まれる場所、それがメビック扇町だったと思います。今のメビックもすぐ近くなんですが、私の活動範囲から少しだけ外れているんですよね(笑)」

クライアント企業の事務員になって、その会社を変えたい!

作業風景

みなとねっとの未来について話を聞いてみた。
「少しずつ社員を増やしていきたいですね。一度に増やすのではなく、確実に一人ずつ。このスタンスはメビック時代と変わりません。私自身、昔は幼稚園をやりたかったのですが、最近は海外商品を取り扱うECサイトを作って運営してみたいと思っています。特に物流の部分に興味があって。とにかく色々なことに挑戦してみたいんですよ。ITには全然こだわっていませんね」

また、たくさんの会社のITインフラを構築してきた視点から、会社の中に入り込んで中小企業を良い方向に導く仕事をしたいと考えている。
「私が中小企業の事務員として3カ月ほど働いたら、その会社のムダやロスをかなり削減できるんじゃないかと。コンサルとして外から口を出すだけじゃなくて、日々事務員として働きながら、その場でムダやロスをカットする仕組みを構築していく感じです。密かにスーパー事務員になる自信、あるんですよ(笑)」

これまでの仕事の中で、数多くの事務員とコミュニケーションをしてきた水谷氏だからこそ、見えてくるものがある。
「従来のシステム会社の仕事は、お客様の問題点や悩み、要望をITやシステムを使って解決、実現することでした。私は要望がない部分、まだニーズとして感じていない部分を提案して解決していくことを目指したい。そのためにはヒアリング&提案ではなくて、実際に会社の中に入って働く必要があるんじゃないかと。日々の業務を通じて会社の効率化、改善をお手伝いする仕事に取り組んでみたい。面白そうでしょ」

公開日:2012年06月27日(水)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏