100年後も「めっちゃおもろい」クリエイター集団
芦谷 正人氏・越智 明氏:(有)ドライブ

南森町を拠点にするブランディング会社

芦谷さんと越智さん
芦谷さん(左)と越智さん(右)

“世界一「めっちゃおもろい」ブランディングを生み出すクリエイター集団”。自分たちのことをそう呼ぶ。手がける仕事は、美容室の空間デザイン、販促ツールの企画制作からホテルの美容施設プロデュースまでさまざま。全国を股にかける「めっちゃおもろい」ブランディングは、今のところ南森町の小さな事務所から発信されている。たくさんのマーケティング本やデザイン本に囲まれながら、越智さんが出迎えてくれた。少し遅れて、笑顔の芦谷さんが登場。スタッフはみんな気さくな人ばかり。汗まみれの訪問者を気づかって、卓上の扇風機をつけてくれる。

芸術家からデザイナー、講師、経営者へ

K-two 心斎橋店
今では東京進出も果たした
K-twoの心斎橋店

芦谷さんは、ドライブの社長であり、デザイナーであり、版画家であり、学校の先生でもある。芸大を卒業後、就職はせずに芸術家をめざした。でも、芸術だけで食べていくのは難しい。そこで、目をつけたのがグラフィックデザイン。デザイン事務所に勤めたあとフリーのデザイナーと専門学校の講師を掛持ちして、2003年にドライブを設立した。
「フリーでデザインを始めたころは細々とやっていて、これならずっとひとりでいいかなと思ってました。それが、どんどんいろんな人に出会って、仕事の幅も広がっていって。空間デザインや店舗プロデュースなんかは、仕事をしながら勉強させてもらったようなもんです」
いつも穏やかで物腰やわらか。社長にありがちな押しの強さがまったくないのに、なぜそんなふうに事業を拡大していけるのか、不思議に思った。
「フリーになって間もないころ、K-twoという美容室の店舗プロデュースを依頼されました。100坪もある大型店で、場所は心斎橋。空間デザインの経験もないのに自由にしていいと言われ、うれしい反面ものすごいプレッシャーでした。先方にとっても当時の出店は大きな賭けで、腹くくってましたから。無事にオープンを迎えたとたん、僕は虫歯でもないのに歯が一本抜け、K-twoのオーナーは血尿が出たんです(笑)」
この人なら、何かやってくれるだろう。そんな空気を纏っていることが、どんな経営手腕にも勝る芦谷さんの魅力なのだ。

デザイナーにはこだわらない、縁の下の力持ち

ir 外観
堀江のビューティーサロン
「ir」もプロデュース

一方、ドライブを影で支えるのが越智さん。先方との打ち合わせに出かけ、企画を練って、制作の進行を管理して、ドライブの広報活動をして……と、今は裏方に徹する越智さんも、じつは元グラフィックデザイナー。大阪のデザイン事務所に勤めたあと東京の映像制作会社に移り、テレビ番組やCMの制作を手がけた。ディレクターとして仕事の指揮を執るまでになったのに、去年の春に帰阪してドライブに加わった。
「専門学校時代の講師だった芦谷さんに声をかけられて、おもしろそうやなぁと思ったのがきっかけ。でも、ドライブに参加するなら、制作はしないって決めてたんです。今までいた場所からは視点を変えて、もっと全体を俯瞰したくなったというか。自分よりセンスのいい人がいたら、デザインはそっちに任せればいい。クリエイターって、何かを創りだす人のことでしょ? それなら、デザインしたり絵を描いたりする人だけじゃなくて、営業する人も経理する人もクリエイターですよね。クリエイティブという言葉に興味はないけれど、ドライブという組織を使って何かおもろいもんを生み出せたらなぁって」

100年後の「めっちゃおもろい」を見据えて

オフィスを覆う模造紙
年始の企画会議では、
使った模造紙で会議室を覆った!

この店はこういう店、この会社はこういう会社ですよと消費者に認識させる手伝いをするのがブランディング。デザインの技術はもちろん、先方とコミュニケーションを重ねることが何よりも大切だ。かっこいいデザインだけにこだわりがちなデザイナーのため、芦谷さんは『あなたのための3分間ブランディング』というメルマガを毎週発行している。
「こういうものがあったらおもしろいなぁと感じたことをどんどん形にしていきたいですね。たとえば中学生が読んでもおもしろい会社案内とか。将来的には大学を創るのが夢なんです。世の中に対する、ドライブという会社のミッションを考えるようになりました」と芦谷さん。
越智さんは「当面はドライブという組織を存続させることに全力を尽くしたいです。1年後のドライブ、100年後のドライブはどうなってるんやろうって考えただけでおもろいじゃないですか」と笑う。
ふたりの話をきいているだけで、理由もなくわくわくしてしまう。ずっと南森町にいてほしいけど、東京や世界に飛び出していく日も近いのかもしれない。この人たちなら、何かやってくれるだろう。

岸良 ゆか氏

公開日:2006年08月01日(火)
取材・文:岸良 ゆか氏