“いいデザイン”をするだけでなく“いい仕事”をしたい。
荻田 純氏・古川 智基氏:(有)サファリ

荻田氏と古川氏

今大阪のクリエイターの間で「いいデザイン事務所ない?」と聞けば、かなりの確立で耳にする答えの一つが「サファリ」。大阪北堀江を拠点に、東京恵比寿にもオフィスを展開する気鋭のデザイン事務所だ。代表を務める荻田純氏とパートナーの古川智基氏は、ともにメビックともご縁の深い(株)ピクト出身。2003年に独立して(有)サファリを立ち上げ、現在の活躍に至る。この8年間で業界要注目の存在となった背景にはどのようなストーリーがあるのか、お話をお伺いした。

いい仕事をすれば、いい繋がりが生まれる。

作品

「コツコツとしたもの作りは好きだけれど、社交的ではなく、経営理念もなく、アグレッシブに外に出て行くタイプでもない」と言うお二人。にもかかわらず、全国から多くの仕事が多く舞い込んでくるのはなぜなのか?「基本的には、誰かからの紹介というのがほとんど。目の前の仕事を一つ一つ丁寧にやっていたら、そこから繋がりが広がっていったという感じ」と、古川さん。ただ最近は、別のスタイルのコンタクトも増えたという。「数年前からデザインの業界誌や、専門書籍に自分たちの実績や作品をよく取り上げてもらうようになったので、それを見た方から連絡があり、東京や海外の仕事も増えてきた」のだという。また、創業以来のおつきあいが続く企業も多数あるそう。新規もリピーターも問わずクライアントを魅了し続ける秘訣はどこにあるのだろうか。

作品としての完成度と、クライアントの要望のバランスをいかに取るか。


荻田純さん

荻田さん曰く「単にカッコいいデザインをするだけなら、センスが良ければできる。そうではなく、“いいコミュニケーション”と“いい仕事”もできるデザイン事務所を目指しています。一緒に楽しく仕事をしながら、よい関係を築いていきたいし、相手に喜んでもらったり、売れる為にはどうすればいいかも考えています。また、あらゆる条件や要望の中でいいデザインをどう作っていくかという、バランスの取り方に気を付けています。相手の要望に応えつつ、別の発想で可能性を探ったり、クリエイターの視点でないと思い浮かばないような+αの提案をしていきたいと思っています」とのこと。
一方、古川さんは「相手が何をしたいかを感じ取ることが、すごく大事」とも。「デザイン的には最高のクオリティでなくてもとにかく売れたいのか。売れたいのはもちろんだけれど、イメージアップのほうが大事なのか。どこにプライオリティがあるのかを見極めるのが重要。『この人はどうなりたがっているのか』をしっかりと理解した上でバランスを取ることが大切だと思います。うちはクライアントの担当者と直接お仕事をすることも多いので、その人がどうしたいのかを理解しやすい環境にあります。直接会って、その人のファッション、趣味、好みなどを知っていくと、その人にとっての格好良いとはどういうことなのかがわかってくる。その上で仕事を進めると、新しい提案をしてもそれほど揉めることはないですね」。

お互いに歩み寄って、ベストを見つけてゆきたい。


古川智基さん

問題なのは、単にハイセンスなものだったり、カッコいいものを作って欲しいと言われれば作れてしまうことなのだという古川さん。「でも、それが本当にその商品や企業にとって必要なヴィジュアルアイデンティティなのかを僕はやはり考えてしまいます。目標や目的にあったコミュニケーションが成り立っていれば、最終的にクライアントにも、エンドユーザーにも伝わりやすいメッセージとなるし、そういう方向のほうが僕としては嬉しい。必ずしもクライアントが思い描いている理想のデザインだけが正解とは限らないし、それを再現するだけの業務となると、僕は気持ち悪いんです。お医者さんじゃないですけど、きちっと診察と診断をして、お互いに歩み寄ってベストを見つけてゆきたい」と力強く語ってくれた。このような考えで丁寧に仕事をしていくと、クライアントとよい関係を築きあげる事ができたり、手がけたブランディングの商品をベストセラーに導く事ができ、多くの評価を受けるようになってきたそう。

今後の野望は、ペット関連!?


モデル犬もこなすハチ君

最後に、今後の展望をお聞きした。まず荻田さんは「色々と強気な事も言ってしまいましたが、実はまだまだ勉強しなければならない事がたくさんあると思っています。『あれ、なんでこんな修正や展開になっちゃったんだろう』と疑問に感じる事があったり、事務的な対応に追われてクリエイションに集中できない状況になってしまったりする事もあります。どれも仕事の一つだとは思うので、よりいい環境になるようにコントロールして、素敵なものづくりに集中できる事務所になっていきたいです。それから、今までは、いろんな依頼に応えるのに精一杯だったのですが、もっと多くの自主的な活動や、積極的に面白い事が出来る事務所に育っていきたいと思っています」。

古川さんは「スタッフが楽しんでやれる仕事が常にある会社でいたい。自分がそれを与える役目になってきたので、その辺をちゃんとやっていかないと、というのが一つ」。もう一つは、障害者とアーティストのランデヴーから生まれた手作り雑貨ブランド「SLOW LABEL(スローレーベル)」の仕事を通して「自分たちの利益追求だけでなく、世の中にちょっとでもよいことをしていきたいという思いが強くなった」という。これには隣の荻田さんも大きく頷きながら「そういうことって、自分たちに気持ちの余裕がなければ、なかなか実現できなかったりするもの。そのために、そんな機会があればいつでも一歩踏み出せるような、ちょっと余裕のある事務所を目指していきたいですね」と真剣な面持ちで話してくれた。

それから、「あ、あと、犬関係も!」と笑顔を見せる荻田さん。実は、サファリの大阪オフィスには、二人の愛犬ハチ君も在籍中。彼は捨て犬などを保護するドッグシェルター「アーク(アニマルレフュージ関西)」から引き取った雑種犬。しかし、そんな悲しい過去はみじんも感じさせない美しい毛並みと幸せそうな表情が、愛情いっぱいに育って来たことを物語る。「ドックフードのパッケージとか、ドッグランのプロデュース、ペット関係の商品デザインとかやりたいなぁ…」と冗談めかして語りながらも、「ドッグシェルターにいる犬の存在をもっと世に広めていく活動もしていきたい」と、犬に対する深い愛情がにじみ出る。犬関連はもちろん、グラフィックデザインだけにとどまらないサファリのさらなる飛躍の予感に、期待は高まる一方だ。

公開日:2012年01月12日(木)
取材・文:C.W.S 清家 麻衣子氏
取材班:株式会社ルブリ 増田 泰之氏