チームだからこそ、個の力を磨くことが大切
リトウリンダ氏、吉澤 智華氏、妹尾 譲氏、藤島 順子氏:(有)リビドゥ&リンダグラフィカ

取材風景

福島にある築70年以上の倉庫をリノベーションし、オフィスとして利用している有限会社リビドゥ & リンダグラフィカの代表・リトウリンダ氏。広告やCIなどのグラフィックデザインを中心に、映像、アート、出版など、広範囲で活動している。今回は、リトウ氏がグラフィックデザインの世界に飛び込んだきっかけや、スタッフとともにチームとして広告やデザインを生み出していく想いをおうかがいした。

版画の世界からグラフィックデザインの世界へ

出石にあるそば屋の息子として生まれたリトウ氏は、子どもの頃から絵を描くのが大好きな少年だった。高校生の時にはサッカーでインターハイに出場するも、ヒザをケガしてしまって断念した。
「サッカーでケガをする以前、子どもの頃からアートやデザインをやりたいと思っていました。そこで芸術大学入学を目指して東京の大学を受験したんですが、見事に不合格で(笑)」

それでもアートやデザインに関わりたいと考えたリトウ氏は、当時、特に興味があった版画を学ぼうと、京都の工房に雑用として入ることに。
「そこで下働きをしながら版画を学びました。今の作品にも版画好きの想いが反映されていると思います。当時は版画がブームとなり、グラフィックデザイナーと版画家の距離が縮まっていたんです。そんな時に、師匠となるグラフィックデザイナーの方に声を掛けてもらってアシスタントとして東京に行くことになったんです」
こうしてグラフィックデザインの世界に足を踏み入れたリトウ氏。その後、師匠の会社の後を継ぐという話もあったが、自分の可能性を追求したいと大阪に戻り、有限会社リビドゥを設立して独立した。

常にブランディングの思考でデザインし続けたい


リトウリンダ氏

さまざまなジャンルでアートディレクター、グラフィックデザイナーとして活動してきたリトウ氏。年齢を重ねるにつれ、すべての仕事をブランディングとして捉えるようになった。
「ロゴも広告も、たとえチラシ一枚でも、リビドゥが関わる以上はブランディングの思考で取り組みます。つまり、消費者や視聴者を意識したデザインをつくっていくということ。クライアント企業の情報はもちろん、商品がどのように消費者の役に立つのか、デザインがどのように社会性を持って行くのか、ロゴによってブランドイメージがどう変化するのか……。単に商品情報を伝えるだけで終わってしまうのではなく、『想い』に応えるようなブランディングを中心とした考え方でデザインすることを常に意識しています」


30歳の頃のリトウ氏

とかく成果物を納品してお金をいただいたら終わり……となりがちな時代。しかし、リトウ氏はそんな時代だからこそ本質的なブランディングを突き詰める必要があるという。
「我々は記憶に残り、簡単には捨てられないようなメディアづくりを目指さなければなりません。常に最高のモノを作る気概がなければ新しい価値は生まれませんから。デザインには世の中を変える力があると信じています」

チームだからこそ生まれるクリエイティブがある

取材風景

リビドゥのクリエイティブスタイルは、リトウ氏がアートディレクターとしてコンセプトなどを構築し、スタッフがカタチにしていく。メンバー全員がチームとしてひとつのクリエイティブに取り組むスタイルだ。
「コンセプトをもとにスタッフ全員がアイディアを持ち寄ってブラッシュアップします。ミーティングの中で、他のメンバーのアイディアから全員が気づきを得て、一人では思いつかないアイディアが生まれますからね」

最近は、コンセプト部分からスタッフが担当することも増えてきた、とリトウ氏。実は、各スタッフの成長の源泉もまた、チームでクリエイティブを生み出す作業の中にあるという。
「チームの力を上昇させるには、各スタッフがデザイナーとして個の力を磨かなければなりません。リビドゥは虎の穴みたいなもの。個の力を磨こうと奮起するのも、チーム内で切磋琢磨しているからなんですよ」

スタッフの吉澤氏と妹尾氏にチームでの仕事の取り組み方についてたずねた。
「他のメンバーのアイディアはとても刺激になります。また、リトウの無理難題をいかにクリアするか(笑)。チームで知恵を絞ることで個の力もチームの力も磨かれていくのを感じます」(吉澤氏)
「リビドゥに入社する前はひとりでやっていたのですが、ひとりだと自分の世界の中でしか考えられなかった。チームで取り組むことで、タッチや表現の幅が大きく広がったと思います」(妹尾氏)

『ていねいに創る』ことの大切さを学んでほしい

事務所外観

リビドゥのクリエイティブで最も大切にしていることをたずねると、スタッフの妹尾氏が“ていねいに創ること”と教えてくれた。
「リトウから言われる言葉なのですが、最初はていねいに作業する事だと思っていたんです。でも、そうじゃなくて“ていねいに考える”ことなんですよね。お客様に喜んでもらう方法を突き詰め、クライアントから要望された商品の背景、市場、世の中の様子……あらゆる情報を集めて吟味する、手間を惜しまない姿勢です。与えられた費用と時間の中で、どこまで妥協せずに追求できるかが勝負なのだと」

優秀なデザイナーはみんな明快だ、とリトウ氏。
「明快さがデザインには必要です。その明快な答えを引き出すのは、Macintoshの技術じゃなくて知恵。知恵をスキルにまで昇華させ、常に引き出せるようにしておくことが大切なんです」

最後にリトウ氏に、将来の展望についてお話をうかがった。
「デザインの素となる刺激を求め、日本中で遊び回りたいですね。遊びというと不謹慎かもしれませんが、マジメに考えながらデザインの中で自由に遊びたい。そして、デザインの力を再認識しながら、リビドゥメンバー全員でアンテナの感度を磨き続けていきたいですね」

公開日:2011年12月14日(水)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:arbol 一級建築士事務所 堤 庸策氏