強力無比なクリエイティブサポートで川上をめざす!
阪井 信夫氏:(株)一光


代表取締役社長の阪井さん


株式会社 一光

「株式会社一光」はJR玉造駅前、レトロな雰囲気漂う日の出通り商店街の奥に立地する製版会社。主要な業務は刷版(さっぱん)だ。印刷会社さんといえば、クリエイターにとっては重要な連携相手。しかし一方どうしても「知ってるつもり」になってしまいがちな分野でもある。
「株式会社一光」は、最新のデジタル刷版技術を導入すると共に、大変にユニークなクリエイティブサポートも展開しているという。代表取締役の阪井信夫さんにお話を伺った。

アナログの世界だった製版業

阪井信夫さんは1968年創業、43年続く製版業の二代目社長だ。「以前は写真製版と刷版の焼き付けが主な業務。20名ほどの社員が、手作業で製版をやっていました」まさに職人の世界。阪井さんも写真製版の営業をしながら、いずれは後を継ぐと思っていた。しかし「仕事の内容は100%下請け。クリエイティビティを発揮する機会なんかありません。古い体質の中にいたのでは、何も変化できないと思い、父の会社を退社しました。それで少しでも川上の仕事がしたいと印刷の仲介をしたり、デザイン会社でグラフィックデザインを学んだりしていました」

二代目社長のデジタル大改革!


「デジタル改革」について語る阪井さん

ところが先代が病に倒れ、阪井さんは呼び戻されて社長に。そこで一大改革を行ったという。「まず写真製版の会社を解散し、それまで個人業でやっていた刷版の事業を法人化しました。そしてMacを導入して、毎晩、仕事の後で、知人にDTPの講習会をしてもらいました」
昔からいる社員さんたちは完全なアナログ世代。パソコンを触ること自体に拒絶反応があったという。しかしデジタルを使えないと時代に取り残されてしまう。本人たちのためと思い改革を進めた。
また刷版もフィルムを使わないCTPを導入し、古い体質の製版業を、9年かけて最先端のデジタル製版会社に変えてしまった。もちろん阪井さん一人の努力だけではないという。「本当にいろいろな方々に助けられました。感謝していますし、今でもお付き合いをさせてもらっています」

最新のデジタル刷版、CTPとは?


一光が所有するKodak社製のA倍CTP出力機(B倍サイズまで出力可能)

さてここで「知ってるつもり」の刷版のお話を阪井さんから伺った。詳しい方はおさらいのつもりでお読みください。
これまでのオフセット印刷では、版下データからCMYKのフィルムを作り、そのフィルムを「版」に重ねて感光させる。「版」とはアルミの薄板のことで、表面には感光剤が塗られている。感光した部分はインクが乗るので、この「版」をローラーに巻き付け、インクをつければ印刷ができる。
ところがCTPは、この中間材料であるフィルムが不要で、直接、レーザー光線で「版」に絵柄を描いてしまう。フィルムがないぶんコストカットができるし、使用済みフィルム(産業廃棄物)も出ない。
「うちのCTPの特長は、A倍という超大判サイズの版を作れることです。これは国内でまだ数少ないので、全国から依頼が来ます。たとえば地図とかは、こういう大判が必要なんです」さらに次のステップも考えているという。
「オフセット印刷は、フィルムだけでなく、ドラムを洗った廃液とか、産業廃棄物がいっぱいでるんです。だから環境問題の意識が高い欧米では、高速なインクジェットなどに移行してきています。我々もCTPのさらに次を考えて対応しないと、生き残っていけません」

強力なクリエイティブサポート!

その「次を考える」方策のひとつとして、阪井さんが展開しているのが、強力なクリエイティブサポートだ。「クリエイターサポート工房みたいなことをやっています」具体的にいえば小ロット印刷やシール、ステッカー印刷、サンプル作成などに、企画・提案も含めて柔軟に対応している。
「出力センターのようなものですが、私自身、クリエイターでもあるので、一緒にものを創る、という姿勢で臨んでいます」単にデータを預かって、機械的に出力する、ということではなく、阪井さん自身の印刷や版に対するノウハウを提供し、場合によってはプレゼンに参加することもあるという。
「クライアント様には、現物そのものズバリをお見せするのが一番。しかし現物そっくりのサンプルを、気軽に安く短納期で作ってくれるところってあまりないんですよ」紙やその他の素材についての知識、サンプル印刷のノウハウから、実際に量産するところまでコンサルティングが可能だ。

白インク・UV印刷からパッケージまで

たとえば白インクや透明素材への印刷。デザイナーにはどうしても「高くつく」という先入観があって、最初からプレゼンの選択肢に入れないことが多い。また提案するとしても、サンプル作りがとても難しい。「弊社なら社内で白インク込みのUV印刷ができます。もちろん2、3点でもお作りします。白インクの上に重ねてカラーを乗せる、または透明素材など白インクだけ裏面から刷るとか、そういうノウハウも提供します」
またパッケージの提案も、サンプル作りはいつも苦労するところだ。既存の箱のデザイン変更ならともかく、箱のかたちそのものを提案する場合、デザイナーがカッターナイフで手作業をすることになる。
「キャドプロッター(切り抜き機)やカッター付きのUVインクジェットがあるので、オリジナルのパッケージやステッカーをきれいに作ることができます。さらに透明素材を組み合わせたり、白インク印刷したり、とにかく現物そのもののサンプルをご用意できます」
とにかく質の高いサンプルがなければ提案ができない。仕事そのものが発生しない。提案の幅を広げたいクリエイターにとって、これほど心強いサポーターはいないのではないか。

自分たちで仕事を生みだしたい!

阪井さんがめざしているのは、クリエイターが自分の発想を自由に形にしてプレゼンに使え、新しい仕事を生み出せるサポート工房だ。「いまは制作物にお金をかけたとしても、かけたお金に見合った売り上げが、より厳しく求められる時代になっています。名刺ひとつとっても工夫が必要だと思います」だからこそ素材のレベルから相談できるサポーターの存在はありがたい。
「私たちも100%下請けではなく、提案する側、企画する側に回ることによって、川上をめざしたい。自分たちで仕事を生みだしていきたいんです」物静かな口調とはうらはらに、二代目社長のチャレンジ魂は熱い。クリエイターの皆さんも提案の幅を広げるために、ぜひ「サポート工房」の門を叩かれてはいかがだろうか?

公開日:2011年08月10日(水)
取材・文:上間企画制作室 上間 明彦氏
取材班:情熱の学校 エサキ ヨシノリ氏、株式会社明成孝橋美術 孝橋 悦達氏