さまざまなテイストのデザインあります。
タナカ タツヤ氏:DesignSALAD[デザインサラダ]

タナカ氏

ホームページにアクセスすると、なぜだかニッコリ。見ているだけで楽しい気持ちにさせてくれるロゴやポスター、フライヤーが目に飛び込んでくる。
その中には、偶然にもとあるお店で心惹かれ持ち帰っていたショップカードも並んでいた。控えめに日本タイポグラフィ年鑑2011入選とも。クオリティの高いポートフォリオサイトに、お会いするまでもっとベテランの方だと思っていた。


DesignSALAD HP

あくまでもシンプル、でも“ちょっとヘン“なもの。


nicomiya book 2

独立してまだ3年目だと言う。屋号『DesignSALAD』に込められた想いそのままに“さまざまなテイストのデザインを生みだす”のは、デザイナーのタナカタツヤ氏。
気取りのないやわらかな語り口ながら、「デザインはつねにシンプルに。でもいい意味でヘンだったり、ちょっと違うものを作ろうという意識を持っています」との話に、目指すところが伺える。
もうひとつ大切にしているのは、「デザインだけに走らない、コンセプトやバックグラウンドをしっかりと捉まえたうえでの制作」。あくまでもクライアントの要望に応えていくことが大前提。当然のようであり、デザインに夢中になるとおざなりになってしまうからこそ、肝に銘じて取り組んでいくのだと。もちろんその中に“ちょっとヘン”なものをちりばめながら。
「提案のひとつとして必ず自分のテイストのものは混ぜていきます。たまに“あーこれキタなっ!”と思うときもありますよ」と照れ笑いながらも、クライアントがピンとこなければお蔵入り。ムリに押し通すものではないのでと。
ちなみに私が心惹かれたショップカード、じつは半分手作りだそうで…A3ポスターとポストカードを別々に印刷。それを自分で切って折って1枚のポスターから冊子を作り、表紙としてポストカードを貼り付けた…という、こだわりのものだった。「それにOKを出してくれた店長さんのおかげで、面白いものができたと思っています」と、やはりクライアントありきの真摯な姿勢はブレない。

流れにまかせながらも、自分のものに。

取材風景

そんなタナカ氏の経歴も“ちょっとヘン”な道を経てきている。大学の専攻は社会学とのことで、慎重な洞察力や視野の広さを感じる所以はそこなのかもと納得。
「デザインへの憧れは当時あったのですが、美大ではない自分には無理だと勝手に諦めていました。ただ在学中にデザイン科の友人と出会って、“情報を集めて整理して一つの答えを導く”ということがデザインの要素であるとわかって、その考え方なら自分でもできるんじゃないかと思いました。あとパソコンでデザインをする時代になっていたことも大きいと思います」と振り返る。そんな想いから卒業後に専門学校へ通いグラフィックを専攻。特殊カリキュラムでスキルや考え方を1年間みっちり学んだのち小さな広告制作事務所に就職、ようやくデザイナーとしての道をスタートさせた。
新人のころは世間一般の例にもれず、怒られたり、失敗したり、時には褒められたりを経験し、その後、一般企業の制作部勤務などを経て『DesignSALAD』を立ち上げるまでに。
「在職中は、自己表現を抑えていたかもしれません。でも独立しようという意識があったわけではなく流れでそうなったのですが、不思議と迷いはありませんでした。食べていけているのかと問われれば“まだまだ”なんですけどね」と苦笑。
フリーランスになってから何でもやるようになり、必要にせまられてWEBも独学でマスター。ときには自分でコピーを書くこともあるのだそう。
ただし営業は不得意ゆえ、前職からのつながりや紹介がほとんどだとか。最近、実際に手がけたフライヤーを見て、うちも作って欲しいとの依頼があったとかで「デザイナーとして本当に嬉しいことです」と、奢ることなく少し照れながら喜ぶ姿が印象的。この腰の低さとクオリティの高さ…タナカ氏に依頼したくなる気持ちが少しわかるような気がした。
余談ながら、後日、ショップカードの置いてあったお店のマスターに偶然タナカ氏を訪問した旨を伝えると、「信頼の厚いデザイナー」として周りから評判が高いよと教えてくれた。

人と人とがつながるギャラリー『hitoto』。


光の庭 フライヤー/ライブの様子

最近の新しい流れは、それぞれに本業を持つ4人の仲間と、一年半前から共同運営をはじめた土日限定ギャラリー『hitoto』の存在。
大阪天満宮にほど近い、レトロビルの一角。
「自分たちの表現の場として、仲間が集まるスペースとして」まずは運営メンバーの写真展やドローイング展をはじまりに、作家展からライブの企画・開催、出張ショップやバーなど。ちょっと無謀かな?と思うことにもトライしながら、その活動の幅を広げている。
タナカ氏はおもに、ここで開催されるイベントのフライヤー制作を担当。「『hitoto』でつくるものは、自分の中で実験的要素を含んだデザインが多いです。印刷手法や色あいなど普段の仕事ではできないことにもどんどん挑戦しながら、自分なりの表現の場として楽しませてもらっています。小ロットなので自分で加工することも多いですよ」と、そのひと手間も楽しそうに語ってくれた。事実、日本タイポグラフィ年鑑2011の入選作も、このギャラリーから生まれたものだったりする。
そして、メンバーのひとりがネーミングに込めた想いの通り、このギャラリーをきっかけに、いろいろな人と出会い新たなつながりが生まれているとのこと。今後もこの界隈を中心にまたどこかで偶然、『DesignSALAD』タナカ氏のデザインを手にする機会が増えそうな予感。そしてまたそのお店やイベント、商品に興味を持ってしまうのだろうなと思いつつ、エンドユーザーとして楽しみにせずにはいられない。

公開日:2011年08月10日(水)
取材・文:hi-c 石田 多美氏
取材班:株式会社GOSiZE 藤田 豪氏