顧客、取引先、スタッフへの思いを大切に
中島 公次氏:(有)中島事務所

中島氏

「思いを伝えるお手伝い」をコンセプトに、有限会社中島事務所の代表・中島公次氏は、コピーライティング、デザイン、コンサルティング、企画と、幅広い角度でクライアントをサポートする。今回は中島氏に、コピーライターになったきっかけ、百貨店に勤めていた頃のエピソード、起業に至るまでの経緯、プロとして仕事に携わる姿勢についてお話をうかがった。

百貨店での経験が“視点のフットワーク”の訓練に

取材写真

「世の中に出ている広告を見て、自分がその広告の担当者だったら、どんな風に作るだろう、と常々思っていたんです」
中島氏は、コピーライターを志した当時を振り返る。
大学卒業後、一度は流通企業に就職したが、その後広告制作に興味を覚え、コピーライター養成講座の門を叩く。
修了後はデザイン会社を経て、1988年に神戸の百貨店・そごうの宣伝課に入社した。当時、コピーライターもデザイナーもカメラマンも抱えていた宣伝課では、さまざまな媒体を社内で制作。
「スタッフがほぼ同世代だったので、おのずとライバル意識が芽生え、触発されました。競争心が互いのスキルアップにつながり、プラスに働いたようです」

百貨店では、新聞広告・折込・ポスター・ダイレクトメール・ラジオと媒体に恵まれた。扱い品目は食品・ファッション雑貨・家庭用品・紳士服・婦人服・子供服・美術工芸品・外商と多岐にわたり、そのすべてを担当。
「お子様の目になったり、お母さんの目になったり、時には現地の生産者の気持ちになったりしたのが、視点のフットワークの訓練になりましたね」
さらに人事課とタッグを組んで従業員のモチベーションアップのポスター作成にも尽力。≪あなただって、お客さま。…(略)…お客さまの気持ちになって考える。それって特別むずかしいことではないはずです。だって、あなたも何かをどこかで必ず買って、毎日の生活を楽しんでいるのだから。≫
優しさをも感じられるこのコピーは、社内のみならず外部の評判も呼んだ。
「顧客第一主義、お客様満足という言葉は間違いではありませんが、その言葉だけでは心は動かされない。押しつけがましくないコピーで心に届けたい、そんな思いで作りました」

震災、民事再生を経て、独立・開業へ

事務所看板

ところが、阪神淡路大震災の数年後、会社は民事再生という事態に急展開。
会社の方針が変わり、内部制作していた広告は外部に任せることになり、制作メンバーの多くは退社せざるを得なくなった。
当時、役付者だった中島氏はディレクション業務担当という形で会社に残っていた。が、その後の人事制度の変更により、転勤や配属先の異動を逃れることができなくなる。広告の仕事がしたくて入社した彼は退職を決意し、2001年に独立。2004年には船場ビルディング(大阪市中央区)に事務所を移し、2005年12月に「有限会社中島事務所」として法人化した。

独立後は、人との縁やつながりで仕事を積み重ねていく。
コピーライティングにとどまらずどんな仕事も請け負った。
「まさに“ひとり販売促進部”というような感じです」。
メーカー・信託銀行・ゴルフ場・大阪市・駅中ビジネス・ホテル・サービスエリア…さまざまな業種を手掛けるようになり、会社案内やニューズレター、ポスターの制作からプロモーションなどのアドバイスまで行って顧客との絆を強めていく。
また、百貨店時代に従業員のモチベーションアップを手掛けた経緯からそのような依頼もあるという。

期待を“心地よく裏切る”

中島氏

一昔前とは違い、昨今はコピーライターに限らず専門職だけで食べていくことが厳しい時代にさしかかっている。
PhotoshopやIllustratorなどの誰でも簡単に操作できるソフトや高性能のカメラの普及により、それなりの販促ツールなら手軽に作成できる世の中になった。
「だからこそ、“デザイナーやコピーライターに頼んだらやっぱり違うよね”というものを出し続けていきたいですね。想像通りのものが仕上がってくるのではなく、“そうくるか!”“この引き出しはなかった!”と、期待を“心地よく裏切る”ことが大切だと思います。答えはお客様との会話の中にあります。その答えが言葉として出てこなかった時には、それを引き出してあげることも私たちの務めです」

“主役”はお客様、私はお客様の“アシスタント”

中島氏

コピーライターとしての醍醐味は目の前の依頼主やその先にいるエンドユーザーをはじめとする人たちに喜んでもらい、何某かの貢献ができたと感じたときだという。
「肩書にはコピーライターと書いていますが、私は、お客様が誰かに何かを伝える時の“アシスタント”だと思っています。“主役”はお客様であり、それぞれのご担当者です。任せてよかったと思っていただけるよう、アシストしていきたい。結果としてお客様にご迷惑がかかる誇張表現や虚偽の表現、紛らわしい表現をお望みでない限り、“主役”が気持ちよくプレイできるよう、精一杯お手伝いさせていただきます」

公開日:2011年07月26日(火)
取材・文:堀内優美 堀内 優美氏
取材班:株式会社グライド 小久保 あきと氏