苦しい時、大変な時、楽しい時、私は人と会う。
前田 家代子氏:エコーズ

前田氏

大阪のトレンド発信地のひとつ、南堀江でグラフィックデザイン事務所を営むエコーズの前田家代子氏。インパクト満点のデザインから柔らかいデザインまで、クライアントが求める雰囲気に合わせてテイストは変幻自在。だが最近は「前田さんらしい」と言われることが増えて嬉しいという。独立して7年になる前田氏に、グラフィックデザイナーを志したきっかけや仕事に対する考え方、将来についてお話をうかがった。

2年間の大学生活で“やりたいこと”が明確に。

子どもの頃は絵を描くことが好きだった前田氏。中学生の時には、すでに美術系大学への進学を志していたという。当時から、体育祭や学園祭などのイラストやロゴマークといったビジュアル部分を作る時は、率先して取り組んでいた。高校に入学すると美術教室に通って、水彩画や色彩構成、デッサンなどを受験勉強として学ぶなど、美大への進学を目指して勉強し、見事に美術系短期大学へ進学した。
「最初は絵が好きで美術系大学への進学を考えていたのですが、実はグラフィックではなくインテリアデザイン科に入学したんです。ちょうど受験の頃、興味はインテリアデザインの方面にあったからなんですよ」

ただ、入学してみると興味がある授業の多くがグラフィック関連で、インテリアデザインには苦手な科目を学ぶ必要があることを痛感した前田氏。気がつけば写真実習やシルクスクリーンといったグラフィック関連の科目を多く取得していた。
「教授たちからは『なぜインテリアデザイン科に入ったの?』と聞かれてばかりでした。作品展でもインテリアデザイン科の人は多くが模型や立体物なのに、私だけグラフィック系の作品で、明らかに浮いてましたね(笑)でも、この2年間で明確になりました、私はグラフィックデザインがやりたいんだと」
そこで就職活動はグラフィックデザインの会社をターゲットに活動した。活動中は大学時代に作っていた作品がグラフィック系のポスターやチラシだったために学科による不利はなく、グラフィックのデザイン事務所に入社を決めた。

自身をスキルアップさせるために、目標を持って働く。

作品

新卒で入社するため、教育環境が整っている会社を選んだ前田氏。
「運がいいことに、入社したのが会社にMacを導入したばかりのタイミングで、社員全員がMacについては知識がほぼゼロという横並びの状態。そこでアナログの既成概念がない私が2人目のMac担当として選ばれたんです。私も初めて触ったのですが、先輩の見よう見まねで使い方を覚えていきましたね」

3年後、ステップアップを目指して新しい制作会社に転職。
「クライアントも大手が多くて堅めの仕事が多かったので、もっと柔らかめというかアイディアや思い切った企画を形にできる仕事がしたくて。入社後は、自分をステップアップさせるために、クライアントとの打ち合わせに参加して、上司であるディレクターがどう判断してどんな方向性にコントロールしているかを間近で見たり、カメラマンやスタイリストなどへのディレクションを担当したり、多くのことを経験し学びました」
さらに、マス媒体への広告を中心に制作するデザイン会社や、派遣社員としてさまざまな制作会社で経験を積み、再びデザイン会社に入社することに。
「この時、29歳でした。入社時点から『退社する時は独立する時』と自分自身の中で考えていました」

前田氏はこの時から、将来の独立に備えてネットワークを構築すること、制約に縛られない自由な作品を作ることを目指して、友人や知人のクリエイターとともに作品展やグループ展を開催した。
「何回か開催したのですが、作品展のテーマに合わせたポスターやTシャツ、タペストリーなどを制作していました。多い時は20人以上のクリエイターが集まりましたね。他の人と好きなモノを作るのは刺激になりましたし、より濃い関係の仲間になれたと思います」

当たり前のことを当たり前に。

作品

そして満を持しての独立。だが、クライアントも仕事も全くゼロの状態からのスタートだった。
「初めての仕事は勤めていた会社に出入りしていたフリーのライターさんが依頼してくれて、とても助かりました」
今思えば無謀だった、と前田氏は笑うが、当時はひとりで仕事をするのが楽しくてしょうがなかったそうだ。だが、電話の故障では?と思うほど仕事量が少ない時期もあった。
「不安を和らげるために飲みに行って、よく先輩や仲間に相談していましたね。特に仕事上の先輩と話すととても刺激になりました。最近は意識的に時間の余裕を作り、多くの人と会うことを心がけています。人に会えば何かが起こるのだと感じたんです」

独立した前田氏が仕事の上で最も大切にしていることをたずねた。
「時間を厳守することです。当たり前のことですが、当たり前にやり続けたいですね。さらに、デザインは必ず提出の前日に一度完成させて、翌日もう一度そのデザインを確認します。こうすることで、客観的な目で見ることができるんです。一人でやっているので、どうしても客観性が疎かになりがちですから、このステップが必要なんです」

自分のペースを大切にしながら、自分自身を磨きたい。

取材風景

最後にエコーズの将来についてたずねた。
「当面は私ひとりで仕事を進めるスタイルを続けるつもりです。誰かを雇って事務所を拡大する選択肢もありますが、私自身の仕事のペースや制作物のテイストを守るためにも、一人でやる方が自分に合っていると考えています」

ただ、本当にやりたいことをやるためには、変化する必要があることも承知しているという。
「例えば映画のパンフやライブのパンフレットといった、私が興味を持っているジャンルの仕事に携わりたいのですが、それにはエコーズの仕事のキャパシティを広げる必要があります。そのためにも、スケジューリングの段階で上手に対応したり、マネジメント力をさらに磨いて、自分自身の仕事量のキャパシティや表現の幅をさらに広げたいですね」

公開日:2011年07月25日(月)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社キョウツウデザイン 堀 智久氏