コンセプトワークがつくる「人」のコミュニケーション。
佐々木 哲氏:(株)BeatLogue(ビートローグ)

企業の採用ツールや会社案内の制作を中心に、販促ツール、WEBサイトなどの企画、コンセプトワーク、ライティングを手がける株式会社BeatLogue。代表の佐々木哲氏は、独立以前からディレクターとして企業の経営者や人事担当者と、ダイレクトにコミュニケーション戦略の立案を行ってきた。クライアントは、大手企業から成長中の中小企業まで様々。いずれも継続したお付き合いになることが多い。今回は、西区新町のオフィスにて制作のルーツや、スタンスをうかがった。

漁師に憧れた少年は、フランス文学の世界へ。

佐々木氏

学校から帰ると魚釣りに直行し、外を駆け回っていた佐々木氏。小学校の文集に寄せた最初の夢は、「まぐろ一本釣りの漁師」。やんちゃな少年が、言葉の世界と本格的に出会うのは大学生になってからだった。専攻はフランス文学。研究会にも入り、創作の文章を綴る機会も持った。「もともとSFが好きで、筒井康隆さんの小説などを読んでいました。そこからいろいろなジャンルを読むようになって辿り着いたのがフランスの幻想文学。フランス文学って少し世の中の常識や一般的な価値観を問い直すようなところがあって、そこは今の仕事のスタンスに結びついているのかも知れません。クライアントが持つ強みを、一度客観的に見て、埋もれている価値を発見することがコンセプトワークの原点ですから」。4回生になり、書くことで「人」に伝えることを仕事にしたいと考えた佐々木氏は、就職先に人材採用や学校広告を扱う企業を選んだ。

プロは「発見者」、答えはクライアントのなかにある。

会社案内の作品事例

採用ツールの制作を担当した新人社員時代。一番鍛えられたのは決断し発見する力だった。「4年目に、異動で先輩のいない京都の支社に配属されました。そこでは支社の制作部門をすべて任される立場だったので、予算組みやデザイナー、カメラマン、ライターの取りまとめをし、企画の中心を自分で考えながらディレクターとして動く毎日。それが後に独立の基礎になりました」。人材採用の広告は、その成功が企業の成長につながる。経営理念やビジョン、企業が抱えている課題感を深く理解することが必要だった。企業が持つ想いを、どう学生にメッセージするか?採用の軸になるコンセプトワークにはとことんこだわった。「何を伝えるのか?その答えは、外から借りてきたものではなくて、企業のなかにあるもの。ただ、企業の中にいるとそれが見えにくい。だからプロフェッショナルとして客観的に掘り下げて見つけていくんです」。また、自分自身でコピーワークまで手がける案件も増やしていくことで、クライアントとの関係は、一層濃密なものに。企業に近いクリエーターとしての表現力も磨いていった。

ひとつの企業と15年の関係も。全社員の入社のきっかけに。

オフィス風景

2006年、佐々木氏は独立し、後に株式会社BeatLogueを起ち上げる。採用広告の経験を活かし「言葉のもつ力を軸に、胸がどきどきするような表現をかたちにしたい」と考え行動した。社名には、(鼓動)と(言葉)と言う意味が込められている。書類ひとつあふれていないオフィスからは、仕事の丁寧さ正確さが見て取れる。「独立前からお付き合いがあるクライアントの中には15年以上も採用広告を制作している企業もあります。よくよく考えると、今では、大部分の社員様が自分のつくった入社案内を見て入社していることに(笑)。当初は、200名程度だった社員数も、今では1,000名近くになっていて、本当に企業の成長と一緒に歩んできた歴史だなあと思います」。この信頼感はどこから生まれているのだろう。「ひとつには、かかわった業界の豊富さだと思います。流通、金融、メーカー、インフラ、サービス業など実際に仕事の現場を見て取材してきた経験が活きています。単にパンフレットやポスターをつくるだけじゃなく、世の中のリアルな動きや、現場の方のスタンス感を自分の実感値で語ることがきるので、クライアントとの共感度を高くできるのだと」。

声楽のステージマネージャーを動かしたクリエイティブ。

声楽コンサートのフライヤー

数年前から、趣味で始めた声楽。そこから広がった仕事で佐々木氏はモノづくりにかかわる価値を再確認することになった。声楽コンサートのフライヤーを制作したときのこと。会場を訪れた佐々木氏は、ある人に声をかけられた。“佐々木さん、私はこのフライヤーの企画案を見て、今回の仕事を引き受けることを決めました”と。「実はそのコンサートのステージマネージャーだったんです。フライヤーは声楽に馴染みのない方にも関心を持ってもらえるよう、詩人である金子みすゞさんのイメージをイラストで伝えたものでした。その主旨が一目でステージマネージャーにも伝わり、快諾して頂けたようです」。自分が手がけているのは、まさにコミュニケーションをつくる仕事なのだと実感したという。「仕事の範囲は販促ツールやWEBキャンペーンなど、どんどん広がっています。媒体が違っても人を動かすのは同じ。人と人をつなぐ真ん中にクリエイティブがある。それを忘れずやっていきたいと思います」。

公開日:2011年07月22日(金)
取材・文:weather 東 善仁氏
取材班:有限会社ガラモンド 帆前 好恵氏