コミュニケーションこそが、モノづくりのキモであり醍醐味。
南 利治氏:SOPHIA

南氏

商業空間やショップに関するコーディネートからデザイン、空間に合わせたオリジナル什器の設計など、空間に関することすべてに携わっているSOPHIA。代表は、間宮吉彦氏が(株)インフィクスを立ち上げた際に創業メンバーとして参加するなど、関西の空間デザインの最前線を間近に見てきた南 利治氏。今回は南氏に、空間デザインの仕事に携わるきっかけのほか、デザインする際に大切にしていることやコミュニケーションなどについてお話をうかがった。

子どもの頃からモノづくりにトキめいていた。

子どもの頃から、何かを組み立てたり分解するのが好きだった南氏。
「小学生の頃は建築中の家に入って中を見たり、勝手にハシゴを掛けて上に登ったり、大工道具を触ったりしていました。当時からカタチを作ることが好きだったんでしょうね」

大学進学時には“モノづくりをする学校”としての芸術大学に興味を持ち、大阪芸術大学に入学。多くの課題に取り組みながら、仕事にしたいと感じたのは空間デザインではなくプロダクトデザインだった。そこで、大学卒業後は就職せずにプロダクトデザインの専門学校に通った。

だが半年ほどしてプロダクトデザインに向いていないと感じ始めた時、紹介されて面接を受けに行ったデザイン事務所にいたのが間宮吉彦氏だった。
「行って初めて空間デザインの事務所だと知りましたが、見習期間を経て採用してもらえました。当然空間デザインの経験はゼロ。入社後の仕事は雑用と三角スケールの使い方も含め図面の書き方を学ぶために物件の平面図を書いたり、現場に放り込まれ現場の流れを経験することでした。そして、初めて店舗設計を全て任されたのが2年後。ゲームセンターでしたが、自分が設計した店で多くのお客様が楽しんでいる様子を見て幸せな気持ちになったんです。『この仕事、面白いわぁ』って」

間宮吉彦氏との出会い、そして独立。

取材風景

空間デザインについて学びながら経験を積んでいた南氏。だがある日、間宮氏が独立することに。
「1989年頃だったと思います。独立する時になぜか僕も一緒に間宮氏の新しい事務所に行くことになって……。これが現在のinfixで、創業メンバーは3名でした。間宮氏がイメージを作って、僕ともう一人が図面を書くという役割です。あらゆるジャンルの空間を手掛けて、仕事は最高に面白かった。でも、infix立ち上げの時に僕が間宮氏の事務所に行くことになった理由は今も謎なんです(笑)」

そして5年ほど働いて独立。
「自分のカラーを出したい気持ちが強くなって、我慢できずに独立準備ゼロで独立しました。3坪のショップのデザインが独立後の初仕事でしたが、その後はデザインの仕事はほぼ皆無。下請けの図面作成や施工現場の手伝いばかりでした」
そんな状態が3年ほど続くが心は折れることなく、ある時、南氏は奮起した。
「奮起してやった行動は、友達も含めてお世話になった人々に会いに行って話をする事でした。もちろん会っても仕事にはなりませんが、コミュニケーションすることで人や世間の考えが見えてきました。さらに相手に私自身がどんな人間かを知ってもらうことができたんです。これが大きかったですね」
それから店舗設計の仕事依頼が少しずつ増え始めた。

コミュニケーションしながら“想い”を編集する。

作品

店舗デザインをする際に、南氏が最も大切にしていることをたずねた。
「我々の仕事はオーナーが主役。デザイナーにとって最も大切なのは“オーナーがどんな空間をイメージしているか”を探ることですから、まずは会話のキャッチボールを意識します。会話を重ねることで“想い”を共有しないとデザインは始まりません」
デザインする上で大切なのは知識じゃないという。
「コミュニケーションしながら、オーナーの想いや“こんなお店にしたい”というイメージを編集していくことが我々の仕事。漫然とした想いやイメージを噛み砕いてリアルに落とし込んでいく所こそが、私たちの腕の見せ所です」

南氏がこの仕事をしていて一番楽しいのはどんな時なのだろうか。
「最初の一歩、コンセプトを考えている時が一番好きですね。オーナーがイメージしている店舗をどうやって表現するかを考えているとワクワクしてきますよ。アイディアに煮詰まった時は思い切って飲みに行きます。思考が緩んでいる方がアイディアが浮かびやすいのかもしれません。次に楽しいのが、自分がオーナーとコミュニケーションを重ねることで形が具体的になっていく時です。自分の提案が通らない時もありますが、それも含めて楽しめるようになりました」

失敗も含めて、自分の足跡を形に残したい。

作品

空間デザインの仕事を行う南氏にとって、大阪はどう映っているのだろう。
「良くも悪くもお金にシビアです。大変ですが、単にコストを合わせるだけじゃなく、いかに臨機応変に対応できるかが大切です」
費用だけじゃなく、見る目も厳しいという。
「大阪で『お任せします』とおっしゃる方は少ないですね。オーナーご自身の店ですから、具体的なイメージを持っていなくてもコミュニケーションを重ねて“イメージ”を引き出すのがプロだと思っています」
また、今後の展開についてたずねると、来年が創業20周年だと教えてくれた。
「20年の節目で、事務所だけじゃなく自分自身も含めて足跡をカタチに残したい。もちろん失敗も含めて全部残したいですね(笑)」

公開日:2011年07月08日(金)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社ライフサイズ 南 啓史氏