インターネットというツールを使い、多彩な才能をアウトプット!
齊藤 秀雄氏:(有)メディアグラフィックス研究所

齊藤氏

NYのアートディレクターズクラブに所属し、広告デザインやWeb関連の仕事を中心に活躍する齊藤さん。現在ほどインターネットが日々の暮らしの中に浸透していなかった時代から、大手上場企業のトップページのデザインをはじめ、多くのホームページを手がけてきた。さらに約13年、自身のオリジナルデザインTシャツの通販サイトを立ち上げて運営してきた実績と経験値をベースにした的確なアドバイスから、クライアントからの信頼も厚い。

経営感覚のないサイトデザインは失敗のもと

齊藤さんがWeb制作を始めたのはまだデザイン事務所に在籍していた15年前、インターネットも現在のようにインフラが整っていなかった時代。スポーツメーカーのアシックスのトップページデザインを任せてもらったことがきっかけだ。それ以来、大手上場企業の仕事を中心に多くのWebサイトを制作しながら腕を磨いていった。
「まだまだインターネットが日本に定着していなかった時代ですし、インフラも整っていませんでした。もちろんWebサイト制作の学校や本もツールもなく、分からないことはインターネットで調べて試してみるという試行錯誤の繰り返し。ただ、日本でのWebサイト創成期に仕事として関わることができ、人よりも一歩先のスキルを身につけてきたことが、いまの僕の仕事の基礎となっています。」

独立して10年。現在はWeb関連の仕事をメインに、デザイン全般の仕事を行っている。いまや星の数ほどあるWebサイト、つくっただけでは誰も見てくれない。見てもらえないとなると単なるゴミでしかない。
「いくらサイトデザインがかっこよくても、サイト運営の発想がなくてはアクセス数も増えません。またSEO対策を万全にしてアクセス数を増やしてもコンテンツの中身に魅力がなければ見られなくなります。サイトのクオリティを高めるにはデザイン・運営・SEOのバランス感覚が大切です。」
と語る齊藤さんのバランス感覚がとくに生かされた仕事がある。
依頼を受けた当初のWebサイトの売り上げが月20万円という厳しい状況の化粧品会社。売れる仕組みを盛り込み、Webサイトの大幅なリニューアルをする。さらに並行してロゴやパッケージデザインの見直しを図り、売り上げの大幅アップを目指した。その甲斐もあってリニューアルから6、7年目には銀座三越のコスメ売り場にブースを構えるほどに成長。
齊藤さんの統括的なアートディレクション力が企業のブランディングに貢献した大きな事例のひとつだ。

お客様のブランド力と付加価値向上のためのデザイン

齊藤氏

制作会社で働き始めた頃から“経営”というものに興味を持っていた齊藤さん。
クリエーションという名のもとにつくられる、インパクト優先のビジュアルや感覚的なデザインワークに疑問を持ち続けていた。
会社を辞めて独立するときには、お客様へのアドバイスに役に立てばと中小企業診断士の勉強もした。そのとき学んだ経営の知識と約13年間続けてきた自らの通販サイト運営のノウハウやWebサイトを生かしながら、企業にコンサル的な視点からアプローチをしている。
「僕は先にデザインは出さない主義なんです。いまの仕事のほとんどが紹介ベースというのも大きいと思いますが、まずは十分なヒアリングが大切だと考えています。Webサイトは単純にデザイン、システムをつくればいいというものではなく、どうやって運営し集客していくのかが一番のポイントです。Webサイトのトップページだけをリニューアルをしたいという依頼もありますが、それは意味がないことと断った経験もあります。何を目的にリュニーアルするべきなのか、それによって何が改善できるのか。その目的をはっきりさせた上で、何が必要なのかを選択するべきだと考えます。必要があれば会社内を全て見せてもらう事もあります。」
いまやWebサイトは単なる会社案内ではなく、業務そのものの付加価値を上げるツールであり、業績を大幅に伸ばすチャンスを呼び込む大きな存在となっている。自社のサイトに足を運んでもらうためにはそれなりの仕組みが必要となる。しかしデザイナーは売る仕組みやコーディングも含めてITに弱い、といってシステムエンジニアには魅力的なビジュアルは提案できない。
DTPとWebがクロスオーバーする現在、デザイナーとシステムエンジニアとの橋渡し役ができるコーディネーターの存在が不可欠だ。その点、齊藤さんはデザイナーでありながら、システムに関することもWeb制作の創成期における進化を体感しながらスキルを磨いてきた。そのため基本的な仕事のスタイルはデザインからシステムまで全行程を一人でつくり込んでいく。しかし大きな案件の場合には他のクリエイターやシステムエンジニアと組んでの仕事も多く、そのときにはどちらの仕事にも精通しているため意思疎通が図りやすい。

インターネットをフル活用。
ひとくくりにできないマルチな活動家

10周年の記念イベント
ブリゾー
kawaii.co

齊藤さんは、自らの発信手段としてインターネットを活用している人でもある。
13年前からオリジナルデザインのTシャツをネット上で販売。この通販サイトをスタートさせた頃は、インターネット販売が珍しかった時代。インターネットで集客する成功事例としてNHKの番組にも取り上げられた。
「仕事では制約があるのは当たり前、お客様の望むものが優先され、ブランド力や付加価値を高めていくことを目的にデザインをします。ただそれとは別に自分の表現としてのデザインもやってみたいということで、自分が着たいと思うTシャツをつくり始めたのがきっかけです。1996年あたりからコンスタントに売れています。お客さんのリピート率等はあまり気にしませんが、おもしろい傾向としては購入層の80%が関東圏の20〜30代の方なんです。3年前にはWebサイト制作がきっかけで親しくなった天王寺にある堀越神社の境内を借りて、10周年の記念イベントを開催しました。」

また2007年には、世の中を癒したいとゆるキャラのブリゾーを誕生させた。そのブリゾーをイメージキャラクターにし、美女とともに大阪の観光名所を紹介する記事を「T24」というニュースサイトでアップしている。これは齊藤さん自身が大阪で生まれ育ったからこそ、大阪の魅力を伝えたいという気持ちから始めた社会貢献。またこのニュースサイトではディレクターとしての役割も担っている。

さらには自らフォトグラファー「HiDock」となり美女を撮影した写真サイト「kawaii.co」。今後はモデルやレースクィーンのプロダクションと組み、アマチュアカメラマンをターゲットにした撮影会サイトも立ち上げる予定だ。そんなアートディレクターという肩書きだけでは想像できない齊藤さんの活躍ぶりに目を丸くしているこの取材中、あるアーティストの新曲をつくるプレゼン情報の電話が入る。えっ、作詞作曲もするのですか!と思わず口に出してしまうほど、仕事にもプライベートにもインターネットをフル活用しながら、次々と楽しい事を自らつくりだす齊藤さんに脱帽!

公開日:2011年04月06日(水)
取材・文:株式会社ルセット 松本 希子氏