写真を仕事にできる幸せで、それまでの苦労も帳消しです。
中谷 哲也氏:(株)Hacer

中谷氏

カメラマンの仕事に就く前は、建築関連の企業に勤めるサラリーマンだった株式会社Hacer代表、中谷氏は、建築写真や人物撮影のほか、360度パノラマ写真など特殊写真も行うカメラマンだ。サラリーマンを経てカメラマンの仕事を始められたのは、人の縁のおかげだという中谷氏に、カメラマンになるまでの道のりや、カメラマンの仕事に対する思い、将来への展望などについてお話をうかがった。

人の縁でつながったカメラマンへの道。

中谷氏がカメラに興味を持ったのは小学3年生の頃。父親が持つ一眼レフのファイダー越しに見る風景が映画的なことに感動したのがきっかけだという。だが、その後は建築系の企業に就職し、写真は趣味で撮影する程度で、仕事にすることなど想像もできなかった。
そんなある日、子供の頃に通ったカメラ屋の幼なじみの先輩がフリーカメラマンで、時々アシスタントとして仕事を手伝うよう頼まれた。
「サラリーマンでしたから休日のバイト感覚でした。でも、気づかないうちにプロの撮影技術を吸収していた。すると『忙しいから代理で撮影に行って欲しい』と言われ、仕事として写真を撮影するようになりました」

そして、サラリーマンを辞めてフリーカメラマンとしてスタートすると、すぐにあるデザイン会社の社長と出会い撮影の仕事が飛び込んできた。だが、カメラマンの仕事だけでは、収益が上がらない時期もあったという。
そんな時に、自分を導いてくれた知人のカメラマンと再開し、写真現像店を引き継がないかという話が舞い込んだ。デジタルに強い写真屋にすれば生き残れると考えた中谷氏がその店を引き継ぐと、デジタル技術を使った制作によって、一時はかなりのリピート客を獲得したという。
「でも、店舗運営のために店に常駐する必要があり、このままでは店の主人になってしまう危機感を感じたんです」
だが、そんな危機も優秀なアルバイトとの出会いにより解消し、再びカメラマンとして活動を再開しはじめた。

「すべては人の縁です。人生のポイントで素晴らしい出会いがあり、その出会いに助けられた。これからも人の縁は大切にしていきたいですね」

写真を仕事にできる贅沢。

趣味の写真を仕事にできている現在、自分は本当に幸せ者だという中谷氏。
「同窓会に行くと、友人たちは『自由にやって金を稼げる中谷は幸せ者や』と言います。自分でも、カメラマンの仕事で暮らせていることは贅沢であり、多くの人に感謝せねばならないと思っています」
そんな中谷氏は、どんな写真を撮りたいのだろう。
「一枚の写真の中にストーリーを作りたい。一枚の写真から次のシーンを想像できるような写真を撮りたいですね。見た人がその写真からさまざまなイメージを膨らまし、想像する。写真の次の瞬間を感じられる。そういう写真を撮っていきたいんです」
また、写真撮影時は“自分に委ねられる時間”を大切にしたいという。
「アートディレクターやクライアントなど、多くの人が協力して仕事は進んでいきます。でも、撮影の時間は、すべて私に委ねられます。その時間がモノづくりの楽しさであり、クリエイターの楽しみだと思います。もちろん勝手な振る舞いは厳禁ですが」

運命の出会いと事務所シェア。

作品

ターニングポイントごとに人の縁を感じてきた中谷氏だが、最大の出会いはもう10年のつきあいになるという久岡写真事務所・久岡氏との出会いという。現在は、スタジオをシェアする間柄の久岡氏との出会いは10年ほど前に遡るという。
「ずっとスタジオを持ちたくて探していると、現在のこの事務所を見つけました。物件もすごく良くて、家賃も何人かとシェアすれば都合がつく金額でした。そこで久岡氏を思い出し聞いてみると、偶然彼もスタジオを持ちたがっていたんです」
だが、同業者の事務所シェアは案外うまくいかないケースが多い。
「私は現像や写真加工なども行っていて、クライアントは直クライアントが多い。久岡氏は、写真撮影専門でクライアントは代理店が多い。同じカメラマンでもクライアントや撮影の強みが少しずつ違っており、だから一緒にできるのだと思います」

経営者意識を備えたカメラマンに。

取材風景

中谷氏は、将来の自分の姿に目標を定め、それを実現するために積極的に動いている。
「経営者的な目線を養いたいですし、カメラマンも仕事を作る側に立つ時代だと思います。今は仕事の仕組みを作ることに興味があります。将来、ヨーロッパ中を旅行して写真に収める旅をすることが目標です。また、ピンホールカメラを使ってのワークショップなどを通じて、デジタルカメラで失われたカメラ本来の楽しみを知ってもらう活動にも取り組みたいですね」

最近は、新しい取り組みとして異業種とのコラボレーションを積極的に画策している。
「マーケティングのプロ、ITのプロ、写真のプロ、広告営業のプロが集まって新しいビジネスの仕組み作りに取り組んでいます。異業種とのコラボレーションは新しい刺激がいっぱいです。また、一人で物事を進める時とのスピードの違いを実感しています。今後はPCの発達によって本格化するであろうバーチャルフォトや360度のパノラマ写真など、特殊撮影の市場を開拓しながら、積極的にチャレンジしていきたいですね」

公開日:2010年11月04日(木)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:有限会社TTDESIGN 高山 理氏