「何でもできる」秘密はコミュニケーションにあり。
高藤 充氏:(有)リッツコーポレーション

高藤氏

オシャレなショップが建ち並ぶ南船場。そんなエリアでグラフィックデザインや広告プランニングを中心に活動しているのが(有)リッツコーポレーションだ。代表の高藤氏はリッツコーポレーションを率いる経営者であると同時に、現役のコピーライターでもある。今回は、高藤氏にMac登場以前と現在のクリエイターの意識の違いや、社内コミュニケーションの重要性、コミュニケーション活性化の取り組みなどについてお話をうかがった。

「書きたいのに、書けなかった」時代。

もともと文章を書くことが好きだったという高藤氏。文章とビジュアルが合体することで広がる広告表現の世界に興味があって制作会社に入社。そこでとても厳しく鍛えられたという。
「私が若い頃ですから、今では想像できないほどスパルタでしたね。まだ駆け出しのコピーライターだった私の上司がカメラマンで、とにかく撮影の立ち会いばかりさせられました。コピーなんか全然書かせてもらえない。当時の上司は『コピーライターは何でもできないとダメだ。ビジュアルも写真もデザインも、全部わかっていないとダメなんだ』が口癖。実際はカメラアシスタントが欲しかっただけだと思いますが(笑)……でも書けないのはつらかったですね」
しかし、上司の口癖は現実になる。コピーライターをやりながらも、ディレクションやマネジメント全般を担当する機会が増えていったのだ。
「マネジメントや経営の経験ができたことは、独立起業した今にして思えばありがたいことです」

Macがもたらしたデザイン方法の変化。

作品

Mac登場以前からクリエイティブ業界に身を置いていた高藤氏に、Macの登場によって何が変化したのかたずねた。
「Mac登場以前、多くのデザイナーが文字詰めや書体一つに執拗なこだわりを持っていました。現在の若いデザイナーはMacの画面に“踊らされている”人が多いように見えてしまいます。Macはあくまでも表現の手段であり、道具。本来は頭の中でイメージングをして、表現するものを想像できてから作業に取り組むべきなのに、先に手を動かしてしまう。Macは“徹底してイメージする”プロセスを失わせたのかもしれませんね。クリエティブが好きな人なら、手を動かす前に頭の中でイメージすることが好きなはずなのに、そうじゃなくなっているのが残念ですね」
だが、決して“こだわりこそがクリエイティブのすべて”ではないという。
「残念な話ですが、世の中の流れが執拗なこだわりよりもコスト優先に舵を切りつつあるのも事実です。でも逆に言えば、広告を中心としたクリエイティブワークはアートではなくてビジネス。決して文字詰めにこだわることが最終目標ではありません。表現して伝達することによって、ビジネスの価値を生み出さなければいけない。それがクライアントにとっても私たちクリエイターにとっても最終目標のはずですから」

最も大切なのは、コミュニケーションできること。

クリエイティブワークを進める中で、高藤氏が最も重要だと位置づけているのがコミュニケーション。
「マーケットデータを見ても、次はこう表現すれば絶対に売れるとは書いていない。多くの人が密にコミュニケーションして解を導かねばなりません。もちろん社内でその解が生まれることもあります」
そこでリッツコーポレーションは、コミュニケーションロスを最小限に抑えるために、社内の仕組みを工夫している。
「大阪事務所では、スタッフ全員が1つのメールアドレスを共有しています。もちろん、クライアントの機密情報を扱う場合は別アドレスを発行します。スタッフ全員が同じメールアドレスを使用し、クライアントとのコミュニケーションメールの中から、各スタッフの現状や抱える問題が共有されるようになると、不思議と社内にコミュニケーションが生まれます。そのせいか弊社は社内コミュニケーションが活発で、普段はやかましいぐらいでして(笑)」
また、プロジェクトごとに最適なメンバーがフレキシブルにユニットを組んで対応しているという。
「当然、複数のプロジェクトをさまざまな立場で担当することになるのですが、スタッフ全員が常に表現者でありたいと考え、プロジェクトに責任を持ってやってくれているから可能なのだと思います。プロジェクトや状況によって、他のスタッフがサポートするなどフレキシブルに対応していますが、そういった場面では普段のコミュニケーションがものをいいます」

適材適所で最高のアウトプットを。

作品

また、リッツコーポレーションでは社内にデザイナーがいるにもかかわらず、外部デザイナーを活用することも多いという。
「弊社の取引先は印刷会社や代理店のほか、企業との直接取引もあります。また、業種や業態もさまざま。だからこそ“適材適所”を重視していて『社員よりもこの仕事にマッチする』と判断すれば、迷わず外部のスタッフに依頼します。経営者としてコスト面から見れば厳しい判断ですが、どんな業態や業種にも対応することを標榜する以上、すべての依頼に最適なスタッフィングができてこそ、最高のクリエイティブワークが生まれると考えています」
その言葉からクリエイティブと真摯に向き合う姿勢を感じた。
最後に高藤氏に今後のリッツコーポレーションの展望についておうかがいした。
「若い人を育てるというか、私も一緒に成長していきたいですね。企業力、クリエイティブ能力、そして企業経営力、の力も含めて同じベクトルでレベルアップしていければと思います。同時に、常に作り手側の人間、表現者側の人間でありたいですね」

公開日:2010年09月07日(火)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏