映画への情熱が、Webの世界を与えてくれた。
寺井 隆敏氏:(株)クリエステッチ

(株)クリエステッチは、大阪市営地下鉄中津駅からすぐのビル内にある。Web企画、制作、Flash、デザイン、Webシステム、そしてスマートフォンアプリ……自社を“制作集団”と言うだけに技術の幅や深さに自信を持ち、Webにまつわるあらゆる開発や制作を行う。代表の寺井氏は、映画関連の仕事を志すも「日本映画界のためにはWebを学ばねば!」とWebの勉強を始めた変わり種。当時の思いやWebビジネス、経営方針についてお話をうかがった。

映画にどっぷりの高校&大学生時代。

寺井氏

コンピュータとの出会いは、小学校5年生だったという寺井氏。しかし、コンピュータの仕事をしたいとは全く思わず、高校時代には8ミリ映画制作に没頭した。
「高校生が映画を撮影できるなんて知らなくて。すぐに映画制作部に入部して、高校3年間は映画撮影にハマっていました。」
だが、同時に絵画も学んでいた寺井氏は大学進学時に本当にやりたいことをしようと、映像系への進学を目指すことに。

無事、大阪芸術大学映像学科へ入学し、本格的に映像の勉強を始めた。そうして4年間、映画撮影にどっぷり浸かった。
「映画制作費を捻出するために、必死で勉強して特待生の授業料免除を獲得し、両親からの授業料を映画制作に費やしたりと、結構ムチャをしていましたね(笑)」
大学で学ぶうちに監督よりも映画美術としての才能を認められ、映画界に進むこともできた寺井氏。だが、当時の日本映画界は海外映画に押されて暗黒の時代だった。日本映画産業の未来に魅力を発見できず、一度映画界を諦めて一般企業に就職してしまう。

映画への思いをWebに託した独学の日々。


シネマプランナーズ

だが、寺井氏の映画に対する情熱は変わらなかった。
ある日、社会人として働く寺井氏は、九州の別府大学で学生に映画作りを教えるボランティアスタッフになってほしいと誘いを受けた。その時、寺井氏は迷うどころかすぐに仕事を辞めて大分に飛んだ。別府大学では学生の大半が留学生という驚きの状況だったが、その年のコンペティションで見事4位入賞。生徒たちは3年後、見事にコンペティションで優勝した。
「この時、作品を公開する場や評価する場が少なすぎること、情報交換や切磋琢磨する空間の必要性を痛感しました。これを解決したいと考えた時、頭に浮かんだのがインターネットだったんです。」

まさに、日本の映画界のためにWebを学び始めた寺井氏が独学で立ち上げたWebサイト、それが「シネマプランナーズ」だ。このサイトは10年の歳月を経た現在も、プロの劇場用映画スタッフがエキストラ募集に利用するなど、プロアマ問わず日本の映画業界にとって必要不可欠なサイトとなっている。
「HTMLを勉強し始めて『こんな機能が必要だなぁ』と思うと、独学で勉強して少しずつ実装して行きました。今も昔もあくまで個人の趣味として運営しています。」
こうして、幅広いコンピュータの技術を身につけた寺井氏は『クリエステッチ』を独立起業。この頃には、一人でやっていける技術力が身についていたという。

“満足”はお客様だけじゃなく我々も必要。

「自分たちの強みは制作力・技術力。この部分を突き詰めていこうと考えています。プロフェッショナルな制作集団、技術者集団として勝負していきたいです。『クリエステッチに相談すれば、しっかりカタチにしてくれる』そんな言葉をいただけるような会社でありたい。」
そんな寺井氏は、ビジネスの中で何を大切にするのだろうか。
「基本は価格、スピード、クオリティ……トータルでお客様に満足いただくことです。同時に弊社も良いものを作らせていただくことで満足させていただく。お互いが満足することでビジネスが継続し、お客様とともに我々も成長していきたいですね。」

その最たるものが見積だという。
「クリエステッチは適正価格を出します。例えば今、iPhoneやiPadアプリの開発は高い金額を設定しても受注できるそうですが、我々はトレンドを価格設定には反映させません。実際に制作に必要な費用だけを算出します。見積にはその会社を写す鏡のようなもので、その会社の考え方が見えますよ。」

技術者から経営者への進化も戦略的に。

映写機

Webの進歩にどう対応していくのか寺井氏に尋ねた。
「Web業界の技術は年々進化し、新しいデバイスが登場しています。クリエステッチは、積極的にパソコン以外のデバイスにも取り組みます。ただし、『今儲かるから取り組む』のでは長続きしません。将来的にこのビジネスを続けていくためにも、腰を据えて取り組むつもりです。」

クリエステッチの代表として目指す戦略はあるのだろうか。
「自分としては、もう少し社長らしい社長になりたいですね(笑)。今は、社長も含めて全員が技術者というフラットな位置づけの組織にしていて、情報共有などもうまくいっています。でも、僕が一技術者でいる限り、人をマネジメントする人がいない。会社が成長する中で、いずれは誰かに制作を任せてマネジメントを行う立場になる必要があると実感しています。」

また、一人の映画好きとして、こんな思いもあるという。
「今の日本の映画界の人間は、自分を表現することに気を取られすぎです。もっと作品を観てもらうことにも力を注いで欲しいですね。一般の目に触れることなく埋もれていく作品を一作品でも多く世に知らしめたい。そうして、日本映画のレベルアップに貢献したいですね。」

公開日:2010年08月04日(水)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏