良いものをつくればお呼びがかかる。
上野 久氏:(有)デラックスキッズ

中崎町のオフィスマンションで映像制作会社を営む上野さん。取材当日はウクレレの練習仲間であるガラモンドの帆前さんと登場し、「にいさん、ちゃんとしゃべって」という帆前さんの声援の中、ひょうひょうとインタビューに答えてくださりました(笑)。20代は映像制作会社エキスプレスの創業時に入社し、当初は報道の原稿を運んでいたそうです。

上野氏

映像制作会社の執行役員になる。

「エキスプレスに入った当初は事件現場へテレビ局のスタッフをラジオカーで運ぶのが仕事でした。ラジオカーというのは、無線を使って生中継できるような車両なんですが、例えば火事があったらレポーターを乗せて現場に連れて行って現場から放送していましたね」。

その後、エキスプレスは少しずつ映像の仕事に進出することになる。上野さんは箕面のスタジオに営業担当として配属され、その後、毎日放送の担当営業になる。制作、報道、カメラマン、カメラマン助手など、車両関係全体を総括する立場になった。「執行役員になっちゃったんですが、それが嫌でね(笑)」。50歳になったらやめよう、と思っていた。

「社長、50歳になったらやめますわ〜、なんでやねん!ってなりまして。自分で起業したいし、自分の思いを叶わせてくださいと言うと、わかった、困ったことがあればゆうてこいとおっしゃってくださり、円満に辞めさせてもらいました」。

あまり自信はなかったという。ただ、60歳になって定年になってからはじめるよりも、50歳ならまわりにいる同世代が局内にいるのだから、そのタイミングではじめるほうがリアルだと考えた。そしてスタッフも自然と集まり、映像クリエイティブ集団デラックスキッズが誕生した。そして今年10年目を迎えた。

良い番組はやりがいもあるし、看板にもなる。

デラックスキッズは毎日放送土曜日朝の人気番組「せやねん!」のスポーツコーナーを担当している。せやねん!の場合、まずテレビ局にあがってくる映像データを受け取り、取材したものを仮編集し、本編集の流れとなる。だから金曜日の夜中が忙しい。「野球なんか金曜日の晩にならないと試合結果がわからないのでだいたい徹夜ですね」。

毎日放送のUSJスタジオに5分前にスタジオに入ることもあった。
「ディレクターというのは芸者家業みたいなもので、良いものをつくればお呼びがかかるんです。技量がわからない人には仕事を出せない。だから現場で働いていることが営業になっているんですよ」。

取材風景

最近ではボクシングの長谷川穂積選手を追いかけ、人気ドキュメンタリー番組「情熱大陸」を担当した。
「取材をずっとうちのディレクターが担当していました。長谷川選手は昔、時計屋のバイトをやっていて、そのころから撮影していましたね。ですから取材のスパンは結構長いんですよ。昔から応援していました。こちらから提案したり企画書を出したりして通った企画ですね。良い番組はやりがいもあるし、看板にもなるし、うれしいですよ」。

10人の良いスタッフに恵まれる。

上野氏

「スランプ? あんまりないですね。ミスが続いてあやまりに行くのは仕事やと思っているから別にスランプでもなんでもない」。
テレビ局に行って頭下げるのが自分の仕事だという。デラックスキッズを支えるスタッフ10名は良い人材が揃ったと語る。
「僕自身は編集も何もできないんですよ。だからスタッフに気を使いますね。できるだけみんなが仕事しているときは近寄らないようにしています(笑)」。

経理的な仕事を全部、上野さんが担当している。事務スタッフはいない。
「朝、出社したら3人ぐらい徹夜してゴロゴロ寝てるスタッフがおりますしね。そうっとまたいで自分の机で仕事するんですよ(笑)」。

できるディレクターの条件とは?

テレビ業界では、優秀なディクレターほど大きな制作会社から独立する時代だという。できるディレクターの条件は何なのだろう。
「できるディレクターははやく仕事します。手の遅い人間のほうが時間がかかって時間外手当が発生するんですよ。そういう矛盾が出てきて独立する人が増える。できるディレクターは最初から番組構成を考えて行くのですが、考えていないディレクターは全部撮影するんですよ。良いディレクターは必要なものしか撮影しない。昔はフィルムが高かった上に秒数も決まってますし、そんなことがなかった。今だといらないものまで撮影してしまうし時間がかかる。そのあたりの違いが大きい」。

最後に、社長として一番うれしいときはどんなときなのだろう。
「いつも番組が決まったときがうれしいですね。最近だとサッカーのワールドカップでは代表に選出されなかったものの、ドイツに移籍した香川選手を取り上げて今度GAORA(CSスポーツチャンネル)で放送されるのですが、これはうれしかった。うちのディレクターが少しずつ話を持って行って、企画書が通って、とんとん拍子に番組が決まった。着眼点が良いとスルスルっと決まる。あとの評価は数字しかないですね。長谷川選手のときも合格点だった。そういう達成感が楽しいですね」。

公開日:2010年07月30日(金)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班:有限会社ガラモンド 帆前 好恵氏