1人より2人で——互いの持ち味を生かした、ビジネス展開を模索
おおよど ながら氏・大月 かずみ氏:イラストレーターズユニットWOO

青空広がる扇町公園で行われたクリエーター取材。今回、お話いただいたのはイラストレーターのおおよどさんと大月さんだ。それぞれ別の道を歩んでいた2人は、ひょんなことから手を携え、09'年9月に『イラストレーターズユニットWOO』を立ち上げた。キャラクターデザインやロゴデザイン、広告用のマンガ制作など、互いの持ち味を生かしたイラストを武器に、仕事の幅を広げようとしている2人。その視線の先には、どんな未来が映っているのだろうか?

取材風景

独立への道

おおよど氏

幼い頃から絵を書くのが好きだったいうおおよどさん。得意分野を生かした仕事に就きたいと、短大卒業後、CM制作会社に就職した。そこで7年間、アニメーターとCMプランナーとして勤務した後、フリーランスの絵コンテマンとして独立。任天堂など、さまざまな大手企業の広告に携わった。今じゃ考えられないほど高額の報酬も得ていたという。「でも、その分、労働環境が過酷だったんですよ。納期まで時間がない案件も多かったですから。食事中でも入浴中でも就寝中でも、お構いなしに担当からの電話がかかってくるんです。そのうち、絵を描くこと自体が苦痛になっちゃって……」そんな状況に耐え切れなくなったおおよどさんは、一旦広告の世界から離れる決意をする。「全く違う分野の仕事に挑戦してみようと思い、介護ヘルパーの面接を受けに行きました。世の中に貢献できる仕事がしたかったんです。でも、未経験でしたから、当然、受かりませんでした。相手の方も、“イラストレーターから介護ヘルパー!?”ってビックリしてましたしね(笑)やっぱり自分には絵しかないのかなって再認識したんです」かといって、TVCMの絵コンテマンに戻る気にはなれず、今度はフリーのイラストレーターとして映像媒体以外の分野で活動していくことに。

大月氏

一方の大月さんは、工芸高校のデザイン科を卒業後、テキスタイルデザイン(服飾生地のデザイン)の会社に就職。毎日、何パターンものデザインを朝から晩まで描き続けていた。1年半ほどその職場でデザインを学んだ後、アール・ヌーボーやアール・デコなどへの興味から、ステンドグラスのデザイン制作会社に転職する。違ったジャンルに触れ、楽しみながらデザインを学んでいた大月さんだったが、ある問題にぶつかってしまった。「あまり大きな会社じゃなかったんで、ステンドグラスの取り付けまで自分たちでしなくちゃいけなかったんです。背が小さくて、腕力のない私には、その取り付け作業が辛くて。結局、その会社も長くは続きませんでした」その後、7年ほどキャラクターデザインの製作会社で勤務したが、もっと自由に制作をしたいという思いから、独立することになる。

全国へのチャレンジをきっかけに

そんな2人が出会ったのは、2年前。日本イラストレーター協会が開催した交流会でのことだ。「なんだか妙に馬が合ったんですよね。一緒にいて気を使わないというか、楽しかったというか……」そう言うおおよどさん。以来、大月さんと度々、顔を会わせるようになったが、どうせならお互いの仕事に繋がることを一緒にやってみたいと思い、“東京コンテンツマーケット2009”への応募を持ちかけた。「一緒に応募すれば、お互いの励みになるし、どちらかが当選して東京に行くことになれば、ビジネス拡大のチャンスにもなると思って」アニメ、ゲームからCG、キャラクターものまで、多彩なジャンルのコンテンツが集結するとあって、2人の意気込みは並々ならぬものだった。しかし、結果は惜しくも落選。全国の壁はとても高かったという。「出展はできませんでしたが、得るものはありました。この“東京コンテンツマーケット2009”への応募が『イラストレーターズユニットWOO』立ち上げのきっかけになったんです」

『WOO』始動

フリーになって数十年。東京からの仕事を請け負う兼ね合いで、お互いに関東の地盤は出来つつあった。しかし、関西でのネットワークがほとんどない。せっかく関西に住んでいるのだから、この地で何かしたい??。“東京コンテンツマーケット2009”の落選は、そう思っていた矢先のことだったのだ。「同じ目標を目指して頑張った仲なのに、当選しなかったからといってすぐに解消してしまうのもつまらないですよね。せっかくだしこのまま2人でやっていこうかって言ったら、大月さんも賛成してくれて」そして、9月。『イラストレーターズユニットWOO』が本格始動する。広告や雑誌などのイラストを手がけていたおおよどさん。テキスタイルやパッケージデザインに強みのある大月さん。得意分野の違う2人が手を携えることで、仕事の幅は1人の時よりグッと広がった。

「キャラクタービジネスに力を入れていきたい」と大月さん。すでに2等身のパンダキャラクターを作り上げ、原画販売や絵本製作などに着手している。「遠めに見ると可愛いのに、近づくとクマ、みたいなパンダのシュールな可愛いさが好きなんです(笑)。最近は、少しずつですが2等身パンダ=大月かずみと認知されることも増えてきたんですよ。誰かが私の描いたキャラを見て、ほっこりしてくれたら嬉しいですね」3月には同パンダをメインにした個展が京都で開かれる。こうして、コツコツと人目に触れる機会を増やすことが、ビジネスへの足がかりになるのだ。

一方のおおよどさんは、自宅のベランダに菜園を作ってしまうほど大好きな“野菜”のイラストに特化したいと話す。「ただ可愛いだけのイラストなら誰でも描けます。そうではなく、私にしか描けないものを確立していきたい。“野菜のイラストならおおよどだ!”と言われるようなポジションを獲得したいんですよね」

作品

作品

今はまだ2人きりの『イラストレーターズユニットWOO』。事務所のようなものもなく、お互い自宅作業の日々だが、将来的には数名のイラストレーターを加え、法人化を目指したいという。「まずはそのための資金を稼ぐことが先決。だからといって何でも請け負うことはしません。先ずはお話を聞かせていただき、そして私たちならではの仕事ができそうであればお請けしたいと思っています。そうしてコツコツと着実に実績を積み上げていくことが、夢への近道だと思うんです」そう言うおおよどさんの言葉に、大月さんは頷いた。

取材風景

公開日:2009年11月11日(水)
取材・文:國澤 汐氏
取材班:株式会社ビルダーブーフ 久保 のり代氏、株式会社ライフサイズ 杉山 貴伸氏