「デザインみたいな」デザインとは違う、本物のクリエイティブを追求したい。
徳田 敦彦氏・池尻 元輝氏:(株)MOSH

徳田 敦彦氏と池尻 元輝氏

西天満の閑静なマンションの一室にある株式会社MOSHは、広告やグラフィック全般のほか、ウェブ制作やメディアミックスによるトータルプロデュースも行う。以前勤めていた会社で上司と部下の関係だったという代表の徳田氏とスタッフの池尻氏。年齢が離れた二人で一つのクリエイティブを生み出す醍醐味や、クリエイティブに対する考え方、さらにはクリエイターのネットワークの大切さや将来の展開などについて話を聞いた。

世代を超えて、お互いに刺激しあえる環境を。


徳田氏

徳田氏と池尻氏は、20歳以上離れているという。意見の相違や世代間のギャップはあるが、徳田氏の頭の中には、最初から一人での独立や同世代のクリエイターとの独立は頭の中になかったという。
「彼(池尻氏)とは、考え方も発想も全然違うんですよ。僕はその違う部分に魅力を感じていたんです。同世代でずっと仕事をしていると発想も似てくるんですよ。『まだまだコイツには負けん』と思っていたいと、二人で『MOSH』を立ち上げました。若い人と仕事をすると、自分自身がさらに成長できますね」

池尻氏もその期待に応える気満々だ。
「アイデア出しとか、会社のような多人数だと言い合いになると周囲の人が止めますが、二人きりだと止める人がいないんです(笑)。もっぱら僕がダメ出しされる側なんですが、ムッとする時もあります。でも、後で考えたら『なるほどな』と思うんですよ。いつか徳田さんを超えてやろうと思っています」

池尻氏には、こうした徳田氏とのやり取りの中で見えてきたものがあるという。
「デザインは才能やセンスが影響する部分が大きいかもしれません。しかし、アイデアやプランを考える部分は才能じゃなくて、クライアントをはじめとした相手のことをどこまで考えているかが勝負を決すると。相手のことをトコトン考えれば、必ず最良のアイデアやプランが生まれてくると思うようになりました」

考える前に、パソコンで「作業」するのはデザインじゃない。

パソコンでのデザインが主流になる前からデザイン業界に身を置く徳田氏には、現在の若手デザイナーによく見られる仕事の進め方に疑問を抱くこともあるという。

「考える前に、パソコンを使って作りはじめている人をたまに見かけます。僕たちの時代は、ティッシュラフやサムネイルなど、手書きで数十案のアイデアを形にしていました。そうすることで、デザインの見栄えを練るというよりも、その中で何を伝えるか、伝えたいのかを考えて整理していたんです。その訓練が出来ていない人が多いですね。最近の若い人は、“考える”“整理する”という段階を踏まずに、パソコンで作り始めるのをよく見かけるんです。文字を打って絵や写真を並べたら『デザインみたい』になるんですよ。それで満足してしまう人が結構いますね」

結果として、そういった安易な制作スタイルでのデザインが氾濫しているという。
「新しいデザインや表現を追い求めることは大切です。でも、世の中に出ている大半のデザインは、違う企業ロゴを差し替えても通用するものが多いと感じています。そのクライアントの独自性や強み、メッセージをきちんとデザインに反映させれば、そうはならないはず。考えてからデザインをすることで、ナンバーワンにはなれないかもしれませんが、オンリーワンのデザインを生み出すことができます。僕は違うロゴを差し替えて成立するデザインは、プロとして恥ずかしいと思っているんです。これは、いつも意識して仕事をしていますね」

ネットワークを広げて、仕事の幅や大きさを広げたい。


池尻氏

将来の『MOSH』がより大きな仕事に携わるために、二人で色々と考えを巡らせているそうだ。その中で、一緒に仕事ができる仲間を増やすことが重要だと気づいたという。

「キャンペーンの提案段階から携われるような、大きな仕事をしていきたいと考えています。そのためにも、事務所のメンバーを増やしたいと思っていますが、独立して痛感したことは、ネットワーク作りの大切さですね。もっと広げていきたいですね」と徳田氏。

「クリエイターの知り合いは、会社に勤めていた時よりもかなり増えました。知り合いのクリエイターに紹介してもらったり、飲み会で仲良くなった人もいますね。色々な人に会って仕事をすると、自分の刺激になります。今後は、もっと多くの人とコミュニケーションして刺激を受けたい。メビック扇町も存分に利用させてもらおうと思っています」と池尻氏。

『MOSH』の社名がひとり歩きするぐらいの会社に。

事務所風景

『MOSH』がどんなクリエイティブを発信するのか、目指す方向を二人にたずねてみた。

「もう少し会社の規模を大きくして、クリエイターのネットワークを広げる中で、新しいことにチャレンジしてみたいですね。環境次第でまだまだ自分の力は伸びると思うんですよ。刺激を受けて『まだ若いモンには負けへんぞ』と言っていたいですね」と徳田氏。
「僕たちがいないところで『あそこは面白いこと考えてくれる、きめ細かい部分まで考えてくれる』といった感じで、多くの人の噂になるようなクリエイティブを発信していきたいですね」と池尻氏。

世代を超えた二人が、お互いに刺激しあいながらクリエイティブを生み出していく姿勢に、「1+1」の答えが「2」以上になるのだと実感した。

公開日:2009年09月17日(木)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社ゼック・エンタープライズ 原田 将志氏