デザイン力よりもマーケティング力を鍛えろ!
今福 彰俊氏:(株)スーパーマニアック

大川のほとりの緑豊かで静かな場所に「スーパーマニアック」はある。「地元なんですが、やっぱり大阪には不思議な魅力がありますね、なんか異国な雰囲気が」と笑うのは、代表の今福氏だ。彼は店舗をはじめとした様々な空間のプロデュースを行うこの会社を率いる商環境デザイナーだ。空間デザイナーではなくて商環境デザイナー。その違いやこれからの商環境デザイナーに求められる能力や考え方、さらには自身で経営するダイニングバー『天満理容室』についてもお伺いした。

カッコイイ空間と売れる店の違いは、マーケティング思考の有無だ。

今福氏

スーパーマニアックの仕事の特長を今福氏に聞くと、次のような答えが返ってきた。
「インテリアだけでも空間だけでもなくて、マーケティング的思考を主体にした空間プロデュースを行っています。店舗作りにマーケティング思考がないと、カッコイイだけの空間は作れるけど、流行る店は作れないんですよ。ターゲットや初期投資額、事業計画、広告計画といった、経営全般の話と一緒に空間デザインを作っていけるのが我々の特長です。」

このように店舗を運営する上で必要な要素の一つとして空間のデザインを行うのが、商環境デザインであり、空間デザインは、商環境デザインの一部に含まれるのだという。
「店舗デザインの業界は、常に売れる店を作り続けなければなりません。3カ月や半年で潰れて消える店を作るのはカッッコ悪いでしょ。長く続く店を作ろうと思えば、マーケティング思考に基づいた戦略を構築して店舗を作らないと成功しないんですよ。僕自身がこの業界で生き残って行く方法を必死で考えたら、自然とマーケティング力を鍛えるという考えに至りました。カッコエエ店よりも、流行らせてナンボです。それが大阪の気質ですしね。」という答えが屈託のない笑顔とともに返ってきた。

商環境デザイナーは、時代を感じる肌感覚が必要。

取材風景

だが、消費者の嗜好は複雑化しており、例えばブームを捕まえる事は非常に難しいという。一部にはブームを良からぬ存在とするクリエイターもいるが、今福氏はブームは侮れない存在だと語る。
「ブームに乗らないとビジネスとしての店舗は成功しませんからね。しかも、ブームを作れる人は“ブームとは回帰するもので、その裏にはブームの反動を受け止めるための次なるブームが眠っている”ことを知っているんですよ。流行る店を次々と生み出す人は、必ずこの“裏”を見ています。」
流行りの店を作り続けるには、トレンドの輪が見えており、各トレンドの種の現在地をその輪にプロットできることが重要だというのだ。

ただし、ブームを見極めるにはマーケティング思考は役に立たない。すべては肌感覚だという。
「“もうエエわ”という気持ちが沸き起こるんですよ。ブームが絶頂になるちょっと前に飽きがくるんです。この感覚はマーケティングでは説明できない。でも、持って生まれた感覚でもないし、鍛えられる感覚でもない。この感覚が無くなった時が、この仕事を引退する時かもしれないですね。商環境デザイナーはタレントと同じで、自分の賞味期限が切れた合図だと思います。」

新しい刺激と発見に満ちた『天満理容室』は、実験空間であり学び舎だ。


天満理容室内観

今福氏は30年間営業してきた理容室が閉店するのに伴い、その店を譲り受けてリノベーションし、ダイニングバーをオープンさせた。その名も『天満理容室』。店舗をプロデュースする立場から、経営する立場へ。今福氏は、この『天満理容室』を経営することで多くの発見があったという。
「従来の商環境デザイナーの仕事では見えなかったことが、店舗経営の中で見えてきたんです。動線計画といったノウハウを蓄積しているはずのテーマでも、新しい気づきを数多く得られましたね。」

さらに、集まってくる情報量が違う、と今福氏は語る。
「『天満理容室』には、様々なお客様が多種多様な考えを持って来られます。来られるお客様の数だけ学べる。それが面白いですね。」

お店では、常に内装やメニューなどを少しずつ変更しているという。
「あそこは学び舎で、僕たちの実験の場。ずっと続けていきたい。そういう思いがあるせいか、小さくてマニアックな変更ばっかりしてますね。まぁ、お客様に気づかれるかどうか試すのが面白かったりするんですが(笑)」といたずらっ子のような表情で話してくれた。

大阪に足りないモノ、それはプロデューサー。

今福氏に、将来のビジョンをお伺いすると、あくまで今福氏個人の考え、という前置きの上で次のような話をしてくれた。
「特に今、大阪にはプロデューサーが必要と考えています。プロジェクトを興し、全体のマーケティングバランスを保ちながら、適材適所の人間を活用しつつ、そのプロジェクトを成功に導くことができるプロデューサーが求められています。そんな事ができる人材が大阪は非常に少ないんです。他の人がやらない仕事ならば、僕がプロデューサーの仕事をしたい。ビジョンを語り、コンセプトを産出して、さらにお金やクライアントを引っ張ってきて、適材適所に信頼のおけるクリエイターにプロジェクトを任せて自由に動ける環境を与える……そんな“目利き力”を持ったプロデューサーとして活動したい。」

そんな思いを抱く今福氏に、商環境デザイナーを目指す若手に向けたメッセージをお願いした。
「デザインは生き様から生まれてくるもの。学ぶものではありません。まずはマーケティング。マーケティング力がないと、デザインする機会すら与えられない。マーケティングについて学び、それを実践することで、クライアントの成功する確率はグンと上がりますよ。」

公開日:2009年10月26日(月)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社ファイコム 浅野 由裕氏、株式会社ライフサイズ 南 啓史氏