特殊映像を武器に、無限に広がる映像の可能性を探る
大竹 宏氏・笹川 智弥氏:(有)イメージファクトリー

プラネタリウムのようなドーム型スクリーンに投影する映像や2.5Dと呼ばれる立体映像など、特殊分野での映像を得意とする有限会社イメージファクトリー。大学卒業直後に設立したベンチャー企業で、スタッフは全員同じ大学の出身者。代表の大竹宏さんと後輩の笹川智弥さんに、今期で9期目を迎える同社についてお話をうかがいました。

無茶苦茶なノリで始めた会社


大竹氏(左)と笹川氏(右)

大竹さんや笹川さんをはじめ、メンバー全員が宝塚造形芸術大学の卒業生。それも、日本のCG映像の草分け的存在の大村皓一教授の教え子たちの会社です。大村教授自身もイメージファクトリーの取締役として名を連ねていますが、実際の業務と会社運営は大竹さんらが主体で、大村教授はアドバイザー的な存在です。

会社の立ち上げは、大村教授の縁でコニカミノルタプラネタリウム株式会社のコンテンツ作りに関わったのが始まり。大竹さんはその仕事を端緒に、就職は考えず「卒業後は会社でも興そうか」と、当時の仲間ら5人といきなり起業しました。「無茶苦茶なノリで始めた会社です」と振り返ります。

会社を興した当初は、大村教授がコンサルタントをしていた株式会社シーマの社員寮がオフィスでした。何とそこは家賃が無料、水道も電気もガスもタダで使わせてもらうという厚遇です。「やはり起業したてというのは、そういうバックアップがないと無理だと思います」。ついこないだまで学生だった者ばかりのベンチャー企業にとっては大きな支援でした。

他社がやらない分野で勝負する

取材風景

創業時にプラネタリウムに関わる映像の仕事を請け負ったこともあり、イメージファクトリーはプラネタリウムに映写する全天周映像のコンテンツ作りをメインにしています。さらに、それらを含め大型映像の分野を得意とし、甲子園球場にある1.2m×250mという超横長の「ライナービジョン」で流されるCM映像も手がけています。

このほか、大型映像だけでなく2.5Dと呼ばれる技術を使った「美空ひばり座」の展示映像やコーナン商事のテレビコマーシャル、「見たままナビ」というFlashを使った博物館の展示映像などの実績を持ちます。

一方、「映像の仕事をやっていると言うとテレビの仕事の声もいただくのですが、制作費が安くて納期が短いものが多いので……」と、テレビ番組の仕事は敬遠気味。むしろ「よそと違うやり方をしないと勝てない」との考えから、競合が多い普通のテレビ映像の分野でなく特殊な分野で特徴を打ち出します。

とはいえ特殊映像に特化しているわけではないので、経営的にもいろんなジャンルを幅広く受け入れます。「普通のSD映像での仕事もありがたくお受けさせていただきます」と、ドーム映像などの特殊な分野は市場の規模がまだまだ小さいので、特殊映像を軸にしつつも間口は大きく開けています。

ヤッター! ヤッター! アニメで全天周!

取材風景

プラネタリウムは、日本全国に約300カ所あって世界2位の数を誇るのだそうです。星空を投影するだけでなく、球形のスクリーンに包み込まれるような映像を映写できるのがデジタルプラネタリウムの特徴ですが、「劇映画のように番組配給先を全国に展開できていません」と指摘します。
映像を投影できるデジタルプラネタリウム館はたくさんあるのに、一般的に「プラネタリウム=映像」の認知が遅れているという悩みを抱えています。

しかし、そんな環境にあっても、東京・池袋にあるプラネタリウム「満天」で上映される映像を手がけ、高い評価を得ています。自然をリアルに体感する映像のほか、最近ではコニカミノルタプラネタリウム株式会社、タツノコプロと組んで「ヤッターマン」の全天周映像も手がけました。「CGやキャラクターの3D配置でお手伝いさせていただきましたが、すごく楽しい仕事でした」。ヤッター! という会心の出来だったそうです。

写真が立体の動画になる不思議な映像


第1回 OAV.E出品作品「TK」

創業当初から取り組んでいる、2次元映像と3次元映像の間のような「2.5D」という映像もイメージファクトリーの得意とする分野です。スチール写真を素材に、写真なのか動画映像なのかという不思議な映像を作り出します。
取材で見せてもらったのは古い映画のワンシーンのようなミュージックホールでの演奏風景。写真は止まっていますが、視点がゆっくり動いて遠近感を引き出します。「とくに昔の写真はしっかり撮られているので『絵づら』がいいです」と、第1回 Ogimachi Audio Visual Exhibitionの出品作品も通天閣の古い写真を印象的な立体映像に仕立てています。

「2.5Dの映像の中に、例えば背景に川があって、その川だけが動画になっている、という組み合わせも面白いと思います」と、コンピュータを駆使していろんなアイデア映像に盛り込みます。

新たに科学映像の分野を開拓

事務所風景

9期目を迎え、経営的に「もうワンステージ上」を目指すイメージファクトリーは、今後、新たな事業の柱とすべく、得意のCG映像で科学映像の分野の開拓を目指します。
科学者が作るシミュレーション画像は、研究発表向けなので一般の人が見ても理解しにくく伝わりません。それを、「もっと分かり易く見せるためのお手伝いできないかと考えています」という。

さらに、「そういう仕事の映像をストックしておいて、将来的には素材屋さんみたいなことができれば」と、次の次のヴィジョンも描いているほか、事業だけでなく「最終的には、自主映画だったり自主ドームコンテンツだったりかは分かりませんが、何か自主的なものを作りたいと思っています」と夢を語ります。

「そのためにはもっと実力も付けたいし、もっと人脈を広げたい。そのうえコンスタントに稼げるようになりたい」と、映像の可能性を拓きつつ、会社の体力アップも目指しています。無茶苦茶なノリで始めたイメージファクトリーは、これから無茶苦茶すごいことをしでかしそうな予感をさせるのでした。

公開日:2009年07月13日(月)
取材・文:福 信行氏
取材班:廣瀬 圭治氏、株式会社ファイコム 浅野 由裕氏