エネルギーの源は、東京を下に見るナニワの反骨精神!
福川 粛氏:プレス・サリサリコーポレーション

まず、人と人が出会うこと。上手さよりも人脈が命!

福川氏

仕事のみならず人間らしく生きていく上で大切なのが人と人とのつながり。広く、強く、深い人との結びつきを大切に、仕事でもプライベートでも精力的に出会いのアンテナを張っているのがプレス・サリサリコーポレーションの福川粛さん。
ライターで培ってきた人脈はもちろん、さらに輪を広げるべく「関西居酒屋研究会」という親睦会を自ら主宰し、そこに集う人と人とのネットワークの場も提供されています。

床掃除からインド放浪、NGO。「物書き」までの紆余曲折

福川氏

高校時代、同人誌などを手がけるうち「ものを書く仕事がしたい」との思いが芽ばえたという福川さん。当時は書く仕事といえば作家しか思い浮かばず「それで食べていけるのか?」と大学時代は書くことから離れていました。しかし、就職に際して「やっぱりものを書く仕事に関わりたい」という思いから出版社の就職試験を受けました。が、不合格。
その後、アルバイトをしていた床掃除の仕事に就くことに。後に会社組織になり、経営メンバーに加わりました。世間の景気も良くて営業をせずとも面白いほど仕事がやって来たとか。しかし、やがて襲ってきた円高不況に飲み込まれて仕事が激減。会社は解散し、福川さんは流浪の身に。
「もともとアジア地域に興味があり、インドを放浪したりアジア各地で活動しているNGOの職員として働きました」。ですがNGOでの約1年、仕事がキツイわりに給料が安く「このままやったらアカン!」と一念発起。「やっぱり書く仕事がしたい」と、業界紙の記者に転職。28歳にしてついに「書く仕事」のスタートを切りました。

何かと便利な商店街。居心地のよい扇町周辺

雑誌

その業界紙に2年勤め、縁があって編集プロダクションへ。「この時期に企画の立て方やカメラマンへの指示など、編集ノウハウを学びました」と半年で独立。82年に「オフィス・サード」として天神橋1丁目に事務所を構えます。
天満界隈を拠点に選んだのは「ライターやカメラマン、デザイナーが多くいるから」と、「でかく長い商店街には何でもあって便利」ということから。その後も天神橋4丁目、浮田町、同心町と事務所を替えました。
オフィス・サードは、福川さんが立ち上げた組織ながらフリーライターばかり一匹狼の集団。それぞれが人脈を持ち仕事を持っているので、個人ながら大きな仕事ができた半面「ケンカが絶えなくて」空中分解。
その後、情報誌「KANSAI 1週間」の創刊に関わったのを機に94年に現在の「プレス・サリサリコーポレーション」を興しました。読者層が若者ということもあり、スタッフも感性の若い人を中心に集めました。当初は自宅事務所からネットワークでのやり取りでしたが、02年に会社組織化、03年から天神橋3丁目のオフィスで活躍されています。

東京を下に見るナニワ魂!

書籍

この「プレス・サリサリコーポレーション」の登記上の「本社」はアメリカ。関西に地盤を置きつつ全国で活躍されていますが、編集業界はどうしても東京中心になりがち。「例えば、20ページの企画を提案して『その企画はぜひやりましょう』となっても、東京が17?8ページで関西は2?3ページ。これでは企画をパクられてるようなもん」との憤りが。
常に「東京主導」という現実に辟易としていた福川さん、「それで東京のさらに向こう見たらニューヨークでした」と会社の登記をアメリカに。「何でもかんでも東京が発信源というのは間違い。アートでもファッションでもグルメでも、ニューヨークから発信される情報が流行の元です」と、大阪だ東京だという狭い枠から飛び出しての発想です。
「動機は不純ですが、東京を下に見たろというのがあるんです。東京の人間と話してて『大阪ではね』と話すと見下されますが『ニューヨークではね』と話をすればカッコイイでしょ」。

自分で作る「自分史講座」を開講

自分史講座チラシ

福川さんは、9月から新しい試みとして「自分史講座」を開きます。よくある本の装丁ばかり立派な自分史の自費出版とは違い、人に読ませるための文章力を磨きつつ、自身の過去を一冊の本にまとめましょう、というもの。「他人が書いたものではなく『自分で書く』というのが重要なんです。自分で書くことで自分を発見し、見つめ直すことで未来が見える。そのうえ、文章のプロが指導するので文章力も身につきます」と、もの書きのプロらしい試みです。

いつも本音で本気モード

福川氏イラスト

この世界で20年以上のキャリアの福川さんですが「クリエイティブやクリエイターという言葉は嫌い。何か恥ずかしいでしょ。『クリエイチブ』って言うてるんです」。編集やライター業は職人の仕事ととらえています。
これからは、現場の最前線に立つことから後進を育てることに舵を切りつつあるそうですが、「メンバーが、人並み以上に食べていけること、人並み以上に遊べる環境を作れるようにしてやりたい」と、これまでの自身の経験から、制作者の地位の向上を目指しての活動に尽力されるとか。
何ごとにも本音で語り本気で接するスタンスからか、ストレートな人柄を慕って集まってくる人もたくさん。まだまだこれから「やんちゃ」してくれそうな、不思議な魅力にあふれた人です。

真柴 マキ氏・福 信行氏

公開日:2006年06月06日(火)
取材・文:真柴 マキ氏・福 信行氏