メビック発のコラボレーション事例の紹介

2つの円が1つに。ワンチームで挑んだ一大リニューアル
業務用紙製品のパッケージ・ロゴデザイン

「ittoco」

新たな視点を与えてくれるクリエイターに出会いたい

愛媛県四国中央市。製紙、紙加工業で日本屈指の生産量を誇る“紙の町”に本社を構えるイトマン株式会社は、BtoBのトイレットペーパーやペーパータオルなどをメインとするメーカー。大阪オフィスで商品開発に携わる星山七海さんは、「売上げの8割を占める主力ブランドを7年ぶりにリニューアルすることになりました」と語る。その背景にあるのがニーズの変化だ。「労働人口減少による効率化の需要に応えて、トイレットペーパーの巻き数を長くして交換頻度を減らしたり、環境意識の高まりを受けて簡易包装にするなど、商品構成を見直す必要がありました」

高品質な定番「itoman」とコストバリューに優れる「ittoco」の主力2ブランドをリニューアルするとともに、環境に優しいエコブランド「i・ppo」を加えることに決定。それと同時にパッケージも一新することになった。

「このデザインは初めてのデザイナーにお願いしたくて。私たちは自社製品に対して固定観念があるし、お付き合いのあるデザイナーはイトマンを理解してくれていますが、今回は客観的な視点が欲しかったんです」と、新風を吹き込むクリエイターと出会いたいと考えた。そこで、メビックの「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」へ登壇することに。というのも、同社は2017年のプレゼンに参加し、ハロウィン向けギフト商品のパッケージデザインを成功させた経験があったからだ。

2020年12月初旬、プレゼンに登壇。リニューアルの意図や商品構成の見直しに加え、同社のデザインに対する考え方も伝えた。「商業施設のトイレがきれいだと、お客様がリピートしたくなるというアンケート結果があるのですが、トイレ空間が美しくなれば、施設に人が増え、商品の使用量も増え、売上アップにつながります。業務用製品のパッケージにこだわる会社は少ないですが、空間を美しくするためにデザインを大切にしているんです」。満員御礼の会場でクリエイター達にそう訴えた。

旧商品
リニューアル前の「itoman」と「ittoco」。一本の線が円を描くマークが共通のシンボルとして用いられている。

納得いくまで、丁寧に。自分なりの答えを伝える

そんなプレゼンを会場で聞いていたのが株式会社マックのアートディレクター、時本知広さん。「業務用ペーパーをまじまじと見たことがなく、知らないことばかりで新鮮でした。イトマンのデザインに対する思いも興味深いし、ぜひやってみたいと思いました」と振り返る。イトマンへの提案は、複数社が提案を行い1社が選ばれるコンペ形式。社に戻ってデザイナー兼イラストレーターの谷垣穂咲菜さんに声を掛け、二人で取り掛かることになった。

「普段は広告代理店を通じた仕事が多く、クライアントと直接やりとりすることが少ないんです。今回は単独で考え、判断し、直接提案するコンペだったので、どう進め、どう戦うべきか?と考えました」と時本さん。いつもとは違う流れに戸惑いながらも、まずはアイデア出しから取り掛かった。谷垣さんは「20~30案くらい出したでしょうか。私たちらしい提案とは? ライバル製品やコンペの競合他社と違いを出すには?と話し合いました」と言い、あらゆる方向に考えを巡らせながら、大半の時間をアイデアを練ることに費やしたという。「この案件はもともと無かったもの。もし選ばれなかったとしても、自分たちが納得できる答えを伝えたくて」と、時本さんは語る。年の瀬も押し迫った頃、渾身のアイデアをメールに託した。

提案の締切日。星山さんのもとに届いた提案はなんと14社分。「ありがたいことに多くの方から提案いただきました。見るだけでも楽しかったのですが、その分選考は難航しましたね……」。リニューアルプロジェクトのメンバーだけではなく、広く社内に意見を求めながら熟考を重ねた結果、マックの二人の案が採用された。その理由について「トレンド感のあるデザインも素敵でしたが、決め手になったのは丁寧さ。時間を割いて、真剣に考えてくれたことが伝わりました」と言い、磨き抜いたアイデアは、実現に向けて始動することになる。

提案資料
二人が実際に提案した資料。手前が「ittoco」、中央が「i・ppo」、右上が「itoman」のパッケージ案で、左右にある文字が「i・ppo」のロゴ案。

形、質感、色、配置。ディティールに込めたこだわり

二人が提案したのは、3ブランドのパッケージと「i・ppo」のロゴ。一部再考する案もあったが、ほぼ提案時のアイデアで進めることになった。「デザインのモチーフは二つの円。イトマンが大切にしている、人とのつながりやもてなしの気持ちを表していて、旧デザインでも表現されていたものです」と時本さん。

「itoman」のパッケージには、柔らかなフォルムの円と細い線で描かれた円を配置して、空間を邪魔しない上質感を。「ittoco」のパッケージは、水彩と色鉛筆で描かれた円が水面に浮かぶようなデザインで、身近なブランドであることを表現。「i・ppo」はエコブランドのため、パッケージで包むことは無くなってしまったが、ロゴは予定通り採用。踊るように軽やかなロゴが、各種カタログやWeb、トイレットペーパーを巻く紙帯などに用いられた。

また、カラフルで印象的なカラーリングは、時間をかけて検討したものだという。「旧デザインを使っていた方は、色で商品を識別していることもあります。緑系や水色系などの方向性は継承したうえで、『itoman』は落ち着いた色、『ittoco』は華やかな色を使って差別化。ラインナップ全体でのバランスも考慮しました」と谷垣さん。実はこのカラーバリエーション、当初はひな形となるデザインをクリエイターが作り、カラー展開はイトマンが制作する予定だった。「デザインするのであれば、カラーバリエーションも含めて全部やらせて欲しい」と時本さんから提案し、約40種もの全商品を手掛けることに。色使いだけではなく、商品ごとに円の大きさや配置を微妙に変えるなど、隅々にまでこだわりが注ぎ込まれた。

2021年4月1日、リニューアルを発表。「取引先からは『さすがイトマン。いいデザインだね』と評価いただいたり、営業マンからは『売る意欲が湧いた』という声も上がったり。社内外問わず大好評です」と、星山さんは満面の笑み。社運をかけたリニューアルは成功を収めることができた。

「itoman」と「ittoco」
左が「itoman」、右が「ittoco」の新パッケージ。どちらもトイレットペーパーだけではなく、ティッシュペーパー、ペーパータオルなどもあり、幅広い商品を手掛けた。

コラボを通じて生まれた信頼は、次のステップへ

リニューアル成功、めでたしめでたし……と終わりたいところだが、今回のコラボは一つだけではない。「自社のECサイトに、コロナ禍による巣ごもり需要でお客様が増加。業務用商品を販売していたのですが、一般家庭向けのEC限定ブランドを立ち上げることになったんです」と星山さん。そこで、白羽の矢が立ったのがリニューアルで信頼を得ていた二人だった。新ブランドは“絵をかざるように楽しむ”がテーマ。花柄のパッケージで進めることが決定し、イラストは谷垣さんが担当した。「花柄と言っても、描き込んだリアル系、シンプルなデフォルメ系などいろいろ。資料を集めてイメージを共有したり、カラーバリエーションも提案しました」

2021年8月中旬、EC限定ブランド「Fuu」が発売開始。2種あるパッケージには、ピンクと黄色の花が全面に散りばめられているが、華やかながらも主張しすぎない絶妙なカラーリング。「日本のパッケージにはないデザインにしたかったんです。イメージ通りに仕上げてくれました!」と星山さんは絶賛。発売初日から注文が続き、ユーザーからは続々と「かわいい!」という声が。自社EC専売ながら取り扱いを希望する商社も現れるなど、イトマン初となるBtoC商品は好調に売れ行きを伸ばしている。

「Fuu」のイメージカット
空間を華やかにする「Fuu」のパッケージ。“絵をかざるように楽しむ”のテーマ通り、インテリアとして目を楽しませてくれる。

「やりたいことを全部やらせてもらいました。初めてのお仕事でしたがとてもスムーズで、全くストレスを感じませんでしたね」と、コラボを振り返る時本さん。続いて谷垣さんは「自分たちでイチから考え、直接思いを伝えながら制作できたのは貴重な経験。デザインを送るたびに、心から褒めてくれる星山さんのおかげで頑張れました」と充実した表情を見せる。そして星山さんは「一緒に創り上げたというか、絆のようなものを感じました。出会いたかったパートナーに出会えたと思います」と締めくくった。クリエイターと企業という2つの円が出会い、重なり、生まれたものはチームという一つの円。信頼で結ばれた力強い円は、波紋のように大きく広がっていくに違いない。

時本さんと星山さん
写真左より 時本知広さん、星山七海さん

イトマン株式会社

デザイン推進部 商品開発グループ係
星山七海氏

https://e-itoman.jp/

株式会社マック

アートディレクター
時本知広氏

デザイナー / イラストレーター
谷垣穂咲菜氏

https://www.maq.co.jp/

公開:2021年10月5日(火)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。