メビック発のコラボレーション事例の紹介

トモと、トモに、トキメキを。
女性を輝かせる「アイコンショップ」

「妄想ショップ」入口

新たなトキメキは友人のようなパートナーとともに

大阪を代表するファッションビル・ルクア大阪。「ターゲットの8割は女性。女性をトキメかせたくてウズウズしているんです」と語るのは、同施設で販売促進を担当する北野貴大さん。2019年5月13日、メビック扇町で開催された「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に登壇した人物だ。「ルクア大阪のテーマは『お客様のよき友人になる』。お客様の悩みを友人のように解決することです。仕事のパートナーにも同じ関係を求めていました」と言い、具体的な課題を解決できるクリエイターではなく、トキメキを一緒に作る仲間を探すためにプレゼンへ参加したという。

プレゼン会の様子
有名施設の登壇にプレゼン会場や交流会は熱気に包まれた。そこには多くのイラストレーターの姿も。

プレゼン当日は、100名近くのクリエイターが集まり満員御礼。翌日以降、北野さんのもとへ交流した多くの人から、ひっきりなしに連絡が寄せられ続けた。「大きな反響は嬉しかったのですが、“一緒に仕事をしたいクリエイター”について改めて考えたんです」。そこで北野さんは、交換した名刺の中から、意中のクリエイターの名刺をプレゼンに同席した同僚とともに出し合うことに。そのとき、共通して挙げられたのが、ファッションイラストを得意とするイラストレーター・石橋智香さんの名刺だった。
「ルクア大阪はリサーチによく訪れる場所。キラキラ、ワクワクした雰囲気でお気に入りだったんです。大好きなルクア大阪と仲良くなりたい!そんな気持ちでプレゼンに参加しました」と石橋さんは振り返る。北野さんや同僚とはプレゼンの際に意気投合し、プライべートで食事に行くほどの関係になっていた。「プレゼン後の交流会のとき、自分を売り込むのではなく『ルクアにはこんな人が合うよ!』と、人を繋げることに一生懸命な姿も印象的でした。パートナー探しのプレゼンに対して、ぴったりな返事をしてくれたんです」と北野さん。早速、石橋さんを招いてミーティングを実施。トキメキを生み出すアイデアを、放課後のおしゃべりのようにワイワイと話し合った。何をやるかではなく、誰とやるかは決まっている。惹かれ合う純粋な思いは走り出した。

フォロワーの“ため息”から似顔絵イベントへ

ルクア大阪では、Instagramアカウント「トキメキデパート」を運営している。そこでは、「最近の悩みは?」などとフォロワーに質問を投げ掛けて、企画のヒントを集めていた。石橋さんと打ち合わせを進めていた頃、北野さんはフォロワーの返答のなかに、“気分転換にSNSのアイコンを変える”という声を発見する。「そのとき、石橋さんと似顔絵の話をしたことを思い出しました。私たちが“ため息”と呼ぶお客様の声をヒントに、新しいサービスを提供する『妄想ショップ』の企画を温めていて、その一つとして何かできるのでは?と思ったんです」。石橋さんへ相談を持ち掛けたところ、話は一気に本格化。複数のイラストレーターがSNS用の似顔絵アイコンを描いてくれる妄想ショップ、「アイコンショップ」の開催が決まった。

「アイコンショップ」ウェブサイト
漫画タッチからファッションテイストまで、「アイコンショップ」には多彩な個性を持つ作家が参加。

ディレクションを担当することになった石橋さんが、まず取り掛かったのが作家のアサイン。「作家のテイストはバラバラの方がいい。しかし、一人で声を掛けると偏ってしまうので、イラストレーターの大原そうさんと一緒に進めました」。しかし、テイストが違えば誰でもいい訳ではない。イベントの持ち時間は、1名のお客につき30分。そこには案内や納品などの時間も含まれるため、作画時間は15~20分しかない。イベント参加に慣れており、時間内でクオリティを担保できる作家でなければならなかった。「集客的には売れっ子を呼べば早いのかも知れません。しかし、私たちが顔を知っていて、信頼できる作家だけを集めました」と石橋さん。20名ほどの作家をリストアップし、そこから10名の作家が参加することに。

アサイン資料とマニュアル
制作されたアサイン資料とマニュアル。「私たちが分からない部分を丁寧にケアしてくれました」と北野さん。

作家へ配布するマニュアルも綿密に作り込んだという。当日はイラストをGoogleドライブに保存し、お客がQRコードを読み取って納品する流れ。「アナログで描く作家もいるため、事前に交渉しながら納品手順をマニュアルに落とし込みました。そのほか、オペレーションや肖像権の注意事項も詳細に記載。作家とは親しい関係ですが、ビジネスとして意識してもらいたくて」。イベントの開催は、プレゼンからたった約4カ月後の9月20~23日。一歩ずつ階段を踏みしめながら、急ピッチで準備が進められた。

タブレットでの作業風景
イベントを機にデジタル作画を始める作家が現れるなど、作家側にもさまざまな好影響がもたらされた。

信頼がもたらした想像以上の成果と副産物

遂に開催された「アイコンショップ」。延べ4日間、計260枠が予約でほぼ埋まるほど大盛況。多くのメディアにも取り上げられ、成功のうちに幕を下ろした。その成果は数字にも表れている。「“友人に勧めたい気持ち”を数値化した、NPS(顧客推奨度)のスコアが90pt!衝撃的な数字です」と笑う北野さん。例えば2019年に行われたある調査では、動画配信サービス部門の業界平均は-24.7pt、1位のNetflixでも3.3pt。航空会社部門の業界平均は-17.7pt、1位のANAが-6.6pt。このスコアはマイナスになることがあたり前で、プラスになれば拍手もの。アイコンショップの凄さがお分かりいただけるだろう。

イベント風景
大原さんも作家として登場。「お客様と直接対話でき、喜ばれていることを実感できるイベントでした」と大原さん。

北野さんは「妄想ショップが知られたことで、“ルクアに悩みを言っていいんだ”という認識が広まりました。お客様と友人になる土台が整ったことも大きな成果です」と高く評価。石橋さんは「お客様はみんなバッチリおしゃれして来るんです。作家に会った瞬間にキラキラした表情へ変わったり!私も作家として、こんなトキメキを与えていたんだと気付きました」と言い、数字では測れない多くの価値も生まれたという。「プロジェクト中、私たちが感じていたのは結託感。共感できる仲間と、共感できる人を集めて企画すると、今までにない感動を提供できると知りました」と言う北野さんに続き、「人間の部分で好き同士だからこそ、成功に繋がったんだと思います」と石橋さん。お互いの関係性こそが、成功への原動力だったと口を揃える。
キラキラと輝きながらトキメキに邁進する姿は、恋のそれに限りなく近いように思う。もし、あなたにも時間を飛び越えて信頼できる友人が現れたら……。奇跡の出会いが生むコラボレーション・ラブストーリーは、誰にも突然やってくるのかも知れない。

集合写真
北野貴大さんと石橋智香さん

JR西日本SC開発株式会社 ルクア大阪事業本部

北野貴大氏

https://www.lucua.jp/
https://www.lucua.jp/mousou_shop/

イシバシイラストファッションワークス

イラストレーター / デザイナー
石橋智香氏(tica ishibashi)

http://tica.cc/

公開:2020年2月10日(月)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。